ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女

「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」を、
Amazon Primeで見ました。
1回通しで見た時点での感想を書きます。
(この物語は、史実をベースの枠組みに持ち、
物語自体はフィクションという、
韓国で「ファクション」と呼ばれる時代劇です。
日本だと、水戸黄門や、暴れん坊将軍が相当しますね。)

トッケさん波瀾万丈


主人公トッケさんは、
大日本帝国による植民地支配で、
すでに朝鮮が占領されていた時代に生まれます。
お父さんは、大韓帝国の初代皇帝の高宗さん。
宮廷内では、大韓帝国時代と変わらず、皇女扱いを受けるトッケさん。
でも、一歩外に出ると、大日本帝国の駒として、
利用されつつさげすまれる運命が待っているのです。

お父さんは、韓国併合の不当性を訴えたために、秘密裏に毒殺されます。
トッケさんは、「内鮮一体」のリップサービスを信じ込ませるために、
”大日本帝国に忠実な朝鮮のお姫様”を押しつけられ、抵抗むなしく、
日本に留学させられます。

日本で、独立運動に携わっていた元婚約者のジャハンさんと再会。
朝鮮人庶民や学生の苦境を知り、
独立運動に関わっていくトッケさん。

大韓民国臨時政府のあった上海に、
大韓帝国の旧皇族、英親王を亡命させ、
朝鮮独立運動のシンボルにする。
その計画に際し、共に亡命することを決意したのです。

しかし、計画は失敗。
ジャハンさんは目の前で撃たれ、
トッケさんは、表向き朝鮮独立過激派に誘拐された被害者として、
大日本帝国の伯爵家に嫁がされたのです。

伯爵は優しい人で、二人の間には娘が生まれます。
でも、大日本帝国崩壊後の混乱の中、
トッケさんは後述する事情で精神を病み、
娘さんも自殺してしまうのでした。

それから20年ほど。
実は生き残っていたジャハンさんの尽力で、
精神病から少しだけ回復し、韓国に帰国できたトッケさん。
最後、王宮で父と母から、ただの娘として愛される幻影を見た直後、
ジャハンさんと共に王宮に腰掛け、
皇女として何も朝鮮のために役に立てなかったと人生を振り返ります。
ジャハンさんは、そんなトッケさんに、
自らの人生はトッケさんあってのものでしたと告げるのでした。

ハン長官恐ろしや

この映画の悪役は、朝鮮人で、
大日本帝国に積極的に忠誠を誓ったハン長官です。

大日本帝国の大臣や総督、将官たちからは
小間使いのように馬鹿にされ、足蹴にされていますが、
一方で李王職(旧韓国皇族の統括と監視をする役職)として、
旧韓国皇族たちの生活全般を監督し、
主人公、トッケさんにも、パワハラを仕掛けてきます。

1. 大日本帝国のために働けと朝鮮人労働者を鼓舞するよう命令
(引き替えに危篤のお母さんに会えるぞと揺さぶり)
2. 和服を着て朝鮮総督たちの前に出てくるように要求
(旧韓国の皇族が和服を着てくれば、「内鮮一体」というリップサービスを朝鮮人に信じさせ、朝鮮人を大日本帝国に服従させやすくなる)
3. おつきの女官さんに殴る蹴るの暴行を加えてトッケさんの心を折りにくる

3の暴行時には、ハン長官は、
配下の日本人兵士に命令を下しています。
日本人兵士が、朝鮮人の命令で、朝鮮人を暴行するという、
植民地支配の複雑さがとても衝撃的でした。

圧巻なのは、後半の一幕。
大日本帝国が敗戦で滅び、
朝鮮が解放された。
トッケさんは、結婚していた日本の伯爵家を逃げ出し、
娘と共に朝鮮に戻ろうとします。
しかし、君主制復古派を警戒した新朝鮮政府(連合軍とその監督下の朝鮮人組織を指すと思われます)は、トッケさんの入国を拒否。
泣き叫ぶトッケさんに、悠々と現れたハン長官。
「時代がまた変わりました。
朝鮮が解放されて、とてもうれしいことです。」
ハン長官、いや、ミスターハンは、
流ちょうな英語で連合軍兵士に身分を伝えると、
そのまま朝鮮へと帰国していったのでした。

「あと10年韓国併合が早ければ、陸士に入れたのに」
そういって、軍服コスプレをして、昭和天皇の写真に敬礼したハン長官。
天皇陛下、天皇家のためと、
さんざんトッケさんや周りの人をいじめ抜いてきたハン長官。
その彼は、あたかも「僕、植民地支配がすばらしいだなんて
全く思っていませんでした!」といった体で、
解放国民として朝鮮に帰国したのです。
一方、朝鮮のために身を捧げた、旧皇族の自分は、入国禁止措置。
そのあまりの落差に、トッケさんはとうとう精神を病んでしまいました。

正直、この場面は私も、見ていてぞっとしました。
ハン長官なりの、大日本帝国追従の理屈を予想していました。
朝鮮王朝・大韓帝国時代に、
自分や家族が政権に冷遇差別されたことへの報復だろうか。
大日本帝国にひざまずくことで、
朝鮮人にもトリクルダウンがあると思っていたのか。
でも、実際にハン長官にあったのは、
あくなき上昇志向と権力欲だったのです。
大韓帝国、大日本帝国、新朝鮮、どんなものでも利用し尽くすという思考。
背筋が凍り付くような、捕食者のような人間を見た気がしました。

正恵さんかわいそう

トッケさんと、伯爵との間に生まれた正恵さんもかわいそうでした。
お父さんもお母さんも好きだっただろうに、
家出の際、お母さんに「お父さんのことは忘れなさい。」
「あなたは今から(純粋な)朝鮮人なのよ」と、
無理矢理朝鮮に同行させられそうになったことに、
見ててつらくなりました。
トッケさんの気持ちもわかりますし、
娘を置いていけない気持ちもわかります。
でも、子供の連れ去りは、やはり一方的すぎると思いました。
挙げ句の果てに、目の前で精神を病んでしまった母親を
見せつけられてしまうだなんて。

劇中でも、家出の後、トッケさんと正恵さんは伯爵家に戻ったのでしょう。
でも、もう仲は戻らなかったのでしょうね。
トッケさんと伯爵が離婚した次の年に自殺した、
父が母を捨てたと恨んでいたと劇中ではなっていました。

正恵さんの振り回されかたを見ると、
物語とはいえ、
植民地支配が1人の子供の生涯をずたずたにしたことに胸が痛くなります。
日本語と朝鮮語交りで、トッケさんと会話していた正恵さんの姿を見ると、
植民地支配という背景さえなければ、もう少し幸せな
バイカルチャー人として、大好きなお父さんとお母さんと
幸せに生きられたのではと深く同情します。

まとめ

ストーリーはフィクションでも、
大枠は歴史的事実に基づく、「ファクション」として、
非常に完成度の高い映画でした。
大日本帝国の植民地統治時代という権力や思惑が交差する重く暗い時代に、
トッケさんや正恵さんのような女性や子供が、いかに犠牲にされたか。
ハン長官のような捕食者なみの冷徹さを持つ人間が、
いかに巧みに世渡りして、強者に取り入り、弱者を踏みつぶしたか。
とても深く心に刻まれました。
「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」は、
大人にとってこそ、おもしろく楽しめる映画です。
この記事を読んだ皆様も、ご覧になっていただければうれしいです。


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