手芸ノート(2) 売る売らないのこと
縫物に関してもう一つ決めていることは、作ったものを(なるべく)売らないということです。つまり、ハンドメイド作家にはならない、ということ。
今は、手作りの作品を自由に市場に出して売り買いができる時代です。私はこういうものが好きなんです、という感性を前面に出すことによって、特別なツテがなくてもプロフェッショナルへの道を進むこともできる。それは、とても素敵なことだと思うのです。もし、私が20代のころにこんなブームが起きていたら、きっと、勉強も仕事も放りだして邁進していただろうなあと確信します。
でも、そういう巡り合わせではなかったので、初めて自作の小物を販売したのは40代に入ってお勤めを辞めてからのことでした。懇意にしていたギャラリーのイベントで販売させていただいたのですが、「自分の好きなものをお客様に共感してもらえる」という経験は本当に素晴らしくて、キラキラとした日々になりました。
ギャラリーはしばらくして閉廊されてしまったので、イベント出店は2回のみとなったのですが、今でも思い出すと幸せな気持ちになります。でも、その後、自分で作ったものを販売することはありませんでした。
いくらでも機会はあったはずなのに、なんでだろうと時々考えます。思い当たるのは、同じものを何個も作る作業に対して、うっすらとした苦手意識を感じていたことです。また、自宅で文章を書く仕事を始めてしまっていたので、仕事とは関係なく、ただ自分の好きなものを追求できる世界を確保しておきたいという思いもあったように思います。
後者の思いは、年々強くなっていくようです。誰にも評価されない=誰からも褒められないかわりにけなされもしない、「手芸」を自分にとってのごくごくプライベートな領域として置いておきたい。
とはいえ今でも、「KOKKA」さんの布が商用利用できるようになったと聞けば「えっ!!」と反応するし、自分が雑貨のブランドを持つとしたらこんな名前にしようと考えたりもします。そんなふうに時々気持ちを揺らしながらも、今のところ、ハンドメイドは私にとって密かなサンクチュアリであり続けていて、それは心の中に暖かな安定をもたらしてくれています。