僕はわるものになったんだ
小学1年生の頃、通学路を共にする友人らと帰路についていた。
そこへ、
「待て!あんたら!」
と声がして、皆で振り返った。
そこにいたのは、泣く同学年の女の子とその子の担任の先生だ。
僕らの学年は3クラスあって、僕は、違うクラスだったが、同じ町内だったこともあって、その女の子のことは、知っていた。
話を聞くと、どうやら、僕らのグループがその女の子に嫌がらせをしたらしい。
その時、僕は、「そうなの?」といった感じだ。
というのも、僕がそのグループと合流したのは、帰路につく直前、玄関でだ。
その女の子とは、その日顔も合わせていない。
だから、どこか、他人事だったのだろう。
そして、今でも、言い方は悪いかもしれないが、その嫌がらせ自体は他人事だ。
嫌がらせの内容はこうだ。
その女の子のランドセルの中に、男の子のグループが、ポリ袋を入れたのだという。
それも、嫌だという旨を伝えたのに、何度か、その行為は続いたらしい。
僕は、「らしい」としか言えない。
その場にいないし、そんな事実も知らないのだから。
その女の子はその場にいた皆に聞こえるように先生に伝えた。
「〇〇くんはやってない」
僕は耳を疑った。
いや、僕もやっていない。
そのことは、本人が1番わかっているのではないのか?
それもあって、僕は、幾分か心に余裕を持っていたのにだ。
「じゃあ、〇〇くんは帰っていい」
先生がそう言うと、彼は帰って行った。
僕は釈然としない。
「あの?」
僕は声を出した。
「何?」
「僕もやってないです。」
そう言った。
勇気を出してとかそんなことではなかった。
普通のことを普通に言う、それだけだった。
今思えば、よく言えたな自分、と思う。
「そうながけ(そうなの)?」
先生にそう尋ねられたその女の子は首を横に振った。
今度は目を疑った。
そんなバカなことがあるだろうか?
「とりあえず全員学校戻れ」
そう言われた。
僕はズボンの前ポケットに両手を突っ込み歩き出した。
反抗している、というより、解せない、と言う気持ちが強かったと思う。
とその時、
「なにけ(なんだ)!?この手は!!?」
そう言うと、その先生は僕の片腕を掴み、手をポケットから引きずり出した。
僕らはら学校に戻された。
職員室とは違う学年用の先生の部屋に座らされる僕ら。
自分の担任も呼ばれ、事情が説明された。
「こいつが1番悪い」
僕を指差して、先生は言う。
「こいつだけ、『自分だけやってない』って嘘ついて、ポケットに手突っ込んで、不貞腐れた態度とってた」
そう説明した。
「いじめられた人がいじめられたと思ったら、それはいじめだ」
と説かれた。
そして、きちんと
謝ったら帰っていい、となった。
次々と謝っていくみんな。
それもそうだろう。彼らは心当たりがあるだろうし。
そして、最後に残ったのは僕だ。
悪いことをしていないのに謝りたくない、という意地もあったし、
やっていないことで謝ったら嘘をつくことになるのでは?と純粋に思っていたこともあった。
「あんただけやぜ、謝っとらんが
(あんただけだよ、謝ってないのは)」
そう詰められる。
僕は謝罪した。
なんて言ったろうか、正直あまり覚えていない。
泣きながら謝った。
悔しかったし、情けなかったし、何より恐かった。
覚えているのは、
「傷つけてごめんなさい」
とは言った。
具体的に何かをして、絶対言わない。そう決めていた。
謝っている時、その女の子がどんな顔していたかも覚えていない。
先生方の「それでいい」と言いたげな顔はなんとなく覚えている。
「今日のことは親に連絡するからね」
そう言われ、僕は帰ることを許された。
僕は帰ってきた母に、一部始終を話した。
こんなことがあった。
僕はやっていない。
でも、いじめられた側がいじめられたと思ったらいじめだから、僕はいじめたらしい。
そのことで連絡くるらしい。
そんな感じのこと。
母
「そう」
とだけ言った。
今思えば、この対応には救われたかもしれない。
根掘り葉掘り聞かれたり、怒鳴られたり、反対に擁護されたりしたら、泣いていたかもしれないし、学校に行けなくなっていたかもしれない。
その女の子が僕を嫌いとかそんなことは無いと思う。嘘をついていた様子もないと思う。
本気で思ったのだろう。
先生方もプロセスの良し悪しはあったかもしれないが、正義感と善意から行動だろうし、「いじめ」という悪に真摯に立ち向かったど思う。
ただ、僕はこれを機に、ヒーローものなどの物語を見るとき、悪役や敵役に肩入れするようになってしまった。
ニュースなどを見ても、そういう節がある。
いじめられたと思ったらいじめ、
という言葉は当時しきりに言われていたし、今だに近いことを言っている人もいる。
その定義に沿えば、僕はいじめっ子だし、わるものだし、加害者だ。