”法務”は専門性として活かし続けられるのか(その2)
この記事は、前回のこちらの記事の続きです。
参考にしている書籍はこちら。
前回の記事では書籍の前半パート「専門性とは何か」について書きました。今回は後半パートの「専門性の身につけ方」を読んで考えたことについて書いていきます。
専門性の身につけ方
1.自分らしい問いを立てる
本書では、専門性は「既に確立されている知識などをインプットしたうえで、新たなアイデアを創出していくアウトプットをしていけること」としています。その新たなアイデアを創出するためのファーストステップがこの問いを立てるというアクションと述べられています。ここで立てた問いの答えを探求する過程で、自らの専門性を磨いていくことになるため、必然的に「立てた問いが専門性の方向性を決める」ことになります。そのためどんな問いを立てるかが非常に重要です。
それにあたり、本書の著者は、最初に以下を指摘します。
この部分にはものすごく共感しました。日本の教育システムの中で育つと、ある決められた問題に対する正解を求めるという場面がほとんどで、自ら課題を発見するトレーニングは多くなかったように思います。そのため私もこの「問いを立てる」ができなくて苦しんだわけで、そのあたりはこちらでも記事にしています。
自分で問いを立てることの重要性は、著者も繰り返し強調しており、以下のような表現もされています。
加えて、問いを立てるにあたっては自分らしいものであることが必要だと述べられています。これは自分自身の興味・関心のある分野でないとエネルギーを注ぐこともできませんし、何より取り組む意味を感じづらいからだと言います。
なお、本書には深堀の方法として、広く浅くよりも狭く深く、問いを「そんなに小さいもので良いの?」と思うぐらいに尖らせる、構造を理解し明らかにしていく、といった方法論についても言及されています。
2.オリジナリティを発見する
著者が、問いを立てた後の次のステップとして言及しているのが、オリジナリティです。
ここを読んだときに「自分らしい問い」と同じことを繰り返しているような印象がありました。著者は同じことをブレイクダウンしていたようにも思いましたが、私としては問いを探すときの着眼点も自分らしさが反映されますし、問いに対する答えにもオリジナリティが反映されますので、問いの設定においても答えの探求においても、自分らしさ・オリジナリティは重要かなと考えました。
著者の主張に戻ると、このオリジナリティ確保にあたっては「すでにある知識の集合」である過去の文献をあたって、何が「すでにわかっていること」なのかを明らかにすることで、自分の問いが「まだわかっていないこと」であるか否かが確かめられるとしています。この調査行為自体、法務の人は割と得意な人が多い領域なんじゃないかなと思います。いろいろ調べるのは法務業務にはつきものですので。
また、本書のこのパートでは、先行論文を読むことが推奨されています。私は普段の業務で、論文まで手を出さないといけないような論点にあたることはほとんどなく、論文を読むというのはあまり馴染みがないため、ここは新しくトライしてみようと考えているところです。
3.多様な意見を尊重する
立てた問いに答えていくにあたって認識しておくべきこととして、著者は以下を述べています。
この部分も上で紹介した別記事に書いている通り、私はまさに「どこかに正解があると考えて、その正解を探そうとしてしまい」という一人でした。まずはここをクリアしていく必要もあるということを再確認させられました。
このような「正解がない問い」に立ち向かっていくにあたっては、一人で考えるには限界があります。そこで著者は他者と共同して取り組む意義をここに見出しています。
こう考えるとやはり同質性の高い組織にいるよりも、多様性のある組織にいるほうが、自分自身の専門性を高めていくという意味でもプラスだと考えられます。多様性のある組織で何かを成し遂げようとするのは負荷が大きいものですが、組織としての成果のためにも、個人の専門性を磨いていくためにも、必要な負荷なのだと納得感が増しました。
また一つの組織だけに属するのではなく、様々なコミュニティを持っていることも、もう一つの多様性確保につながるアプローチだろうと思います。所属組織を変えることが難しいタイミングもあると思いますが、その時は自分自身が別の組織を見る・知ることで、自分が触れる世界を多様化させるというのも一つかなと考えます。
本書を読んだうえで
法務として考える「問い」
著者は、専門性の身につけ方のファーストステップとして「自分らしい問いを立てる」を挙げていました。
そこで、問いの種として今の私が思いつくものを以下の通り挙げてみます。いずれも「問い」というには少し抽象度が高すぎますので、これをブレイクダウンするとより明確な課題が見えてきて、具体的な行動につながりやすい「問い」になるのだと思いますが、この場では一旦このレベルにします。(これを深堀し始めるとそれこそまた別の記事になりそうですので…)
新規制や法改正への対応を会社が実行していく方法はもっと整備・標準化できるのでは?(関係部署が多いとはいえ場当たり的な対応はなんとかしたい)
生成AIのような新技術への対応も同様に、方法論の整備や標準化ができないだろうか?(リアクティブだとそのスピード感で相対的に競争力を失う…逆に言うとリアクションの速さが競争力につながる)
規制に対して、ビジネス現場の声がルールメイキングにもっと反映される社会にできないか?(少なくとも自社でよりそうした活動につなげられないか?ビジネスの最前線にいるからこそわかることがあるのでは?)
グローバルな企業グループが、プライバシー保護法制やAI関連法制のように法域ごとに規制内容も方向性も異なるルールの下でビジネスしていく中で、有効かつ経済合理性のあるガバナンス手法とは?
私は自分の興味・関心がルールメイキングにあるので、それと関連のある問いの種が頭に浮かんできましたが、この記事をご覧いただいている皆様は全く異なる問いの種を思い浮かべたのではないでしょうか。
何が浮かぶかは十人十色と思いますが、これがまさに同じ「企業法務」もしくは広く「法務」というカテゴリの中にあって、粒度の細かいレベルで「専門性」が異なっていく、その出発地点なのではないかと考えます。この問いに対する答えを見つけていく活動こそが、法務として尖っていく=専門性を身につけていく活動そのものなのかもしれません。
例えば、この「問い」を経営目線で立てられるようになること、つまり経営課題を把握したうえで、自分自身のこれまでの経験から「自分らしい」問いを立て、仲間と共に「オリジナリティある回答」を示して実行していく活動こそが、経営法務というフィールドで自分の専門性を発揮していく道なのかもしれません。
「法務は専門性として活かし続けられるか」への回答
この記事を締めようと思いタイトルを振り返って気付いたのですが(つまり「意図していたわけではない」ということを言いたいのですが)、記事タイトルも「問い」の形になっていました。
元々は「法務として今後も専門性が保てるか?」「AIに代替されるのでは?」という危機感が出発点でしたが、今後はAI活用が進むことで法務知識をそれなりに持っているというだけでは不十分で、差別化もなかなか難しいということが改めて腹落ちしました。
一方で、何かAIに奪われない「専門性」が既に存在していて、そこから自分に合うものを選んでそこでサバイブしていくというような感覚がありましたが、そうではなく、そもそも「どんな専門性を身につけていくか」も自分で新たに作っていくべきものと納得できました。それが市場ニーズのあるものかという視点ももちろんあるでしょうか、今まで以上に自分の興味・関心のある領域に力点を置いて、深めていけたらと考えています。
深めていくにあたっては、法務の経験を積む中で身に着く「知識のインプット方法の確立」「これまでの知識の集積(過去の文献等)にあたるリサーチ力」といったあたりの基礎力を活かすということもできると思います。そうした汎用的なスキルが一定程度あるというのは、法務の強みと言えるかもしれません。
(余談ですが、「法務は専門性として活かし続けられるか」という問い自体は、法務を軸にキャリアを積んでいこうと考えている方であれば、浮かんでいる問いなのではないでしょうか。その意味ではこの問いは「自分ならでは」とは少し遠いと思います。ただ、この問いをもっともっとブレイクダウンをして、他の人が設定していないような問いにできれば、それが「差別化」になり、専門性の一つになるかもしれません。)
記事が長くなり二つに分かれてしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。お気づきの点などあればぜひこの記事へのコメントやX(旧Twitter)でのリプライなど頂けると嬉しいです。(特に「問いを立てる」あたりは考え方が人によって分かれそうなので是非…)
途中で紹介した別記事のリンクを改めて
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