煌めきの瞬間
患者さんに治療代をもらうの忘れて追いかけたら、横断歩道の向こうで手を振ってくれていた。笑顔でこっちを向いていた。
よかったーと横断歩道を渡り、ごめんなさいね。いえいえ。と、お金をもらい、領収書を渡して別れた。
その後、障がいを持つ中学生の学校からの迎えのケアに行く。一緒に歩いて障がい児童デイサービスに向かう中、なぜか涙が溢れてきた。
あの、横断歩道の向こうから手を振る姿が私の奥を動かす。こどもの頃、お母さんが手を振っていた姿を思い出す。
日常の一瞬。
見える世界は5%で、それを95%の見えないエネルギーが支えているという。
この一瞬を作るのに、どれだけのエネルギーが動いたんだろう。
私が治療家になりたいと思った。思い通りに治療できなくて悔しくて泣いた。わらをもすがる気持ちで思い付くこと全部学んだ。毎回真剣勝負で治療に臨んだ。患者さんも毎週来てくれた。私以上に私を信じてくれて、よくなったよといつも言葉を残してくれた。
その積み重ねが今を連れてきた。
そんなことを思いながら、障がい児童デイサービスに着くとスタッフさんが迎えてくれた。お疲れ様でしたーと笑顔。
日常の一瞬。
あら。いい感じの方。ちらっと思いながら、今度は訪問介護の事務所に向かう。事務局の仕事がある。
すると、治療を受けてくれたヘルパーさんがいて。あれから身体楽になったー。そうですか。うれしい。よかったーと私。
日常の一瞬。
仕事も終わり、そろそろ帰ろうと思うけど、まだ残業しているサ責。利用者さんやヘルパー、ケアマネに右往左往されながらのハードワーク。見ていて不憫にも思うけれど、いつも一生懸命で言葉遣いが丁寧な方。
お疲れ様でしたーと声をかけると、お疲れ様ーと。マスクから笑顔がこぼれている。
日常の一瞬。
一瞬が止まって見えて、永遠の世界に刻まれる。
私はその一瞬に妙に感動してしまって、日常にこんなに煌めく瞬間があったのかと。
それは目と目が合う瞬間。見える世界の奥にある見えないエネルギーが私を貫いていくんだ。