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【企画】芥川龍之介『妙な話』全文にツッコミを入れてみた 一周目【ネタバレあり】

この企画および本稿タイトルは、noruniru様のフォーマットを拝借し作文したものです。

※本文は『芥川龍之介著作集 第四巻』(岩波書店)を適宜参照しつつ、一部読みやすいよう手をいれながら、原則青空文庫より引用しています。

※※以下、本作品の重要なネタバレを含みます。その旨ご了解の上、続きをお読ください。

 ある冬の夜、私は旧友の村上と一緒に、銀座通りを歩いていた。

主人公は「私」ということね、しかし旧友なのに「村上」て名字で呼ぶのか、よそよそしいな。

「この間千枝子から手紙が来たっけ。君にもよろしくと云う事だった。」
 村上はふと思い出したように、今は佐世保に住んでいる妹の消息を話題にした。

「千枝子」というのが村上の妹の名前なのか。兄の友人にも気を遣える、いい妹だな。

「千枝子さんも健在だろうね。」

「ああ、この頃はずっと達者のようだ。あいつも東京にいる時分は、随分神経衰弱もひどかったのだが、――あの時分は君も知っているね。」

「知っている。が、神経衰弱だったかどうか、――」

妹はメンタル弱い人なのか?主人公も知らずに気軽に訊いてしまっているが。神経衰弱、つまり今でいう鬱とか精神疾患のたぐいだろうに。

「知らなかったかね。あの時分の千枝子と来た日には、まるで気違いも同様さ。泣くかと思うと笑っている。笑っているかと思うと、――妙な話をし出すのだ。」

「妙な話?」

「妙な話」?―――って思わず主人公と同じ言葉が口から出たが、ずいぶん意味深な言い方だな。

 村上は返事をする前に、ある珈琲店の硝子扉を押した。そうして往来の見える卓子に私と向い合って腰を下した。

「妙な話さ。君にはまだ話さなかったかしら。これはあいつが佐世保へ行く前に、僕に話して聞かせたのだが。――」

「まだ話さなかったかしら」なんてワザとらしい言い方しながら、しっかり腰を据えて話そうとしている旧友の村上。

君も知っている通り、千枝子の夫は欧洲戦役中、地中海方面へ派遣された「A――」の乗組将校だった。あいつはその留守の間、僕の所へ来ていたのだが、いよいよ戦争も片がつくと云う頃から、急に神経衰弱がひどくなり出したのだ。

千枝子さんの夫、もしかしてエリートなのだろうか?夫が戦争に出ているとは、それは気が気ではなかろう。

その主な原因は、今まで一週間に一度ずつはきっと来ていた夫の手紙が、ぱったり来なくなったせいかも知れない。

それはたしかに、不安にもなるだろう。

何しろ千枝子は結婚後まだ半年と経たない内に、夫と別れてしまったのだから、その手紙を楽しみにしていた事は、遠慮のない僕さえひやかすのは、残酷な気がするくらいだった。

まだ新婚なのか、時代が時代とはいえそれは気の毒すぎる。 

ちょうどその時分の事だった。ある日、――そうそう、あの日は紀元節だっけ。何でも朝から雨の降り出した、寒さの厳しい午後だったが、千枝子は久しぶりに鎌倉へ、遊びに行って来ると云い出した。

神経衰弱などと言っていたが、自分で遊びに出かけられるくらいの元気はあるのか。しかし、もしかして千枝子さんもそこそこの学校出てたりするのだろうか?お嬢様である可能性も?

鎌倉にはある実業家の細君になった、あいつの学校友だちが住んでいる。――そこへ遊びに行くと云うのだが、何もこの雨の降るのに、わざわざ鎌倉くんだりまで遊びに行く必要もないと思ったから、僕は勿論僕の妻も、再三明日にした方が好くはないかと云って見た。

やはりお嬢様な予感。わがままで無計画なおてんばタイプだったりして。

しかし千枝子は剛情に、どうしても今日行きたいと云う。そうしてしまいには腹を立てながら、さっさと支度して出て行ってしまった。

はい、頑固で逆切れするタイプでした。

 事によると今日は泊まって来るから、帰りは明日の朝になるかも知れない。――そう云ってあいつは出て行ったのだが、しばらくすると、どうしたのだかぐっしょり雨に濡れたまま、まっ蒼な顔をして帰って来た。

事によるとって、いつ帰るかくらいはちゃんと伝えて出ないと、携帯電話もない時代だというのに。しかも、なぜかずぶ濡れで引き返してくるなんて。それでは風邪をひきにいったようなものだ。やはり無計画な方なのだろうか。

聞けば中央停車場から濠端の電車の停留場まで、傘もささずに歩いたのだそうだ。

傘持っていたのに、なぜ。妹の謎行動に、早くもミステリーを感じる。

では何故またそんな事をしたのだと云うと、――それが妙な話なのだ。

さあ来ました、ミステリー。話を訊こうか。

千枝子が中央停車場へはいると、――いや、その前にまだこう云う事があった。

村上さん、ちょいちょい回りくどい言い方しますね。

あいつが電車へ乗った所が、生憎客席が皆塞がっている。そこで吊革にぶら下っていると、すぐ眼の前の硝子窓に、ぼんやり海の景色が映るのだそうだ。

はて、海沿いを走る電車なのか?

電車はその時神保町の通りを走っていたのだから、無論海の景色なぞが映る道理はない。が、外の往来の透いて見える上に、浪の動くのが浮き上っている。

神保町とは、今も当時も神田、ですよね・・・海とは?

殊に窓へ雨がしぶくと、水平線さえかすかに煙って見える。――と云う所から察すると、千枝子はもうその時に、神経がどうかしていたのだろう。

うーん、どう考えても普通ではない予感。幻覚か白日夢でも見ていたのだろうか?

 それから、中央停車場へはいると、入口にいた赤帽の一人が、突然千枝子に挨拶をした。

赤帽というのは、客の荷物を運んだりしてくれる駅員のこと。駅にいるのだから、駅員がいるのは当たり前であるはずだが。

そうして「旦那様はお変りもございませんか。」と云った。

?! 妹夫婦のことを、なぜただの駅員が知っているのか?

これも妙だったには違いない。が、さらに妙だった事は、千枝子がそう云う赤帽の問を、別に妙とも思わなかった事だ。

「難有う。ただこの頃はどうなすったのだか、さっぱり御便りが来ないのでね。」――そう千枝子は赤帽に、返事さえもしたと云うのだ。

あまりに自然に話しかけられたから、素直に受け取ってしまった、ということか?

すると赤帽はもう一度「では私が旦那様にお目にかかって参りましょう。」と云った。

だから、なぜ夫のことをこの赤帽が知っているのか??

御目にかかって来ると云っても、夫は遠い地中海にいる。――と思った時、始めて千枝子は、この見慣れない赤帽の言葉が、気違いじみているのに気がついたのだそうだ。

千枝子さん、ようやくその異常さに気づく。ぼんやりしすぎでは。やはり正気ではなかったのだろう。

が、問い返そうと思う内に、赤帽はちょいと会釈をすると、こそこそ人ごみの中に隠れてしまった。

あっ、待てっ!!

それきり千枝子はいくら探して見ても、二度とその赤帽の姿が見当らない。――いや、見当らないと云うよりも、今まで向い合っていた赤帽の顔が、不思議なほど思い出せないのだそうだ。

逃げられたか、結局この赤帽とは、いったい何者なのか??まさか、幽霊や妖怪などではあるまいか?

だから、あの赤帽の姿が見当らないと同時に、どの赤帽も皆その男に見える。そうして千枝子にはわからなくても、あの怪しい赤帽が、絶えずこちらの身のまわりを監視していそうな心もちがする。

何だか、語り方が都市伝説じみてきたな。それとも夫婦が、スパイか闇の組織かの監視対象にでもされているというのか?

こうなるともう鎌倉どころか、そこにいるのさえ何だか気味が悪い。千枝子はとうとう傘もささずに、大降りの雨を浴びながら、夢のように停車場を逃げ出して来た。

なるほど、引き返してきた理由はわかった。わからないのは赤帽とやらの正体だが・・・

――勿論こう云う千枝子の話は、あいつの神経のせいに違いないが、その時風邪を引いたのだろう。

お兄さん、妹の言うこと全然信じていないのか。少しくらい心配してやってほしい。

翌日からかれこれ三日ばかりは、ずっと高い熱が続いて、「あなた、堪忍して下さい。」だの、「何故帰っていらっしゃらないんです。」だの、何か夫と話しているらしい譫言ばかり云っていた。

千枝子さん、いよいよ錯乱してきたか。しかし心細さと不安とを考えれば無理もないか・・・

が、鎌倉行きの祟はそればかりではない。

祟りって、何て言い草だ。ヒドい村上兄。

風邪がすっかり癒った後でも、赤帽と云う言葉を聞くと、千枝子はその日中ふさぎこんで、口さえ碌に利かなかったものだ。

兄さんが赤帽のこと信じてあげなかったからではないのか?

そう云えば一度なぞは、どこかの回漕店の看板に、赤帽の画があるのを見たものだから、あいつはまた出先まで行かない内に、帰って来たと云う滑稽もあった。

もう完全にトラウマになってしまっているじゃないか。滑稽どころではない。

 しかしかれこれ一月ばかりすると、あいつの赤帽を怖がるのも、大分下火になって来た。

ひと月もかかったというのに、そっけない言い方する兄。

「姉さん。何とか云う鏡花の小説に、猫のような顔をした赤帽が出るのがあったでしょう。私が妙な目に遇ったのは、あれを読んでいたせいかも知れないわね。」――千枝子はその頃僕の妻に、そんな事も笑って云ったそうだ。

ずいぶん落ち着いたようで、千枝子さんも自分から赤帽のことを話せるようになった様子。よかった、よかった。ちなみに鏡花とは、怪奇小説などを得意とした作家「泉鏡花」のことか。

ところが三月の幾日だかには、もう一度赤帽に脅やかされた。

まだ終わりじゃなかったー!

それ以来夫が帰って来るまで、千枝子はどんな用があっても、決して停車場へは行った事がない。君が朝鮮へ立つ時にも、あいつが見送りに来なかったのは、やはり赤帽が怖かったのだそうだ。

千枝子さん、完全に停車場恐怖症になってしまった。ところで主人公と千枝子さんとはどの程度面識があったのだろう。それと、私が朝鮮に行くのは職務としてかな?主人公も軍人か、公務員あたりなのだろうか。

 その三月の幾日だかには、夫の同僚が亜米利加から、二年ぶりに帰って来る。――千枝子はそれを出迎えるために、朝から家を出て行ったが、君も知っている通り、あの界隈は場所がらだけに、昼でも滅多に人通りがない。

村上の話は、時系列が行ったり来たりしてややこしいな。二度目の赤帽遭遇の話の続きをするのだな。

その淋しい路ばたに、風車売りの荷が一台、忘れられたように置いてあった。ちょうど風の強い曇天だったから、荷に挿した色紙の風車が、皆目まぐるしく廻っている。

村上、自分で見てきたかのようにしゃべるな。

――千枝子はそう云う景色だけでも、何故か心細い気がしたそうだが、通りがかりにふと眼をやると、赤帽をかぶった男が一人、後向きにそこへしゃがんでいた。勿論これは風車売が、煙草か何かのんでいたのだろう。

赤帽登場!!・・・いや、ただの赤い帽子をかぶった男かもしれない。

しかしその帽子の赤い色を見たら、千枝子は何だか停車場へ行くと、また不思議でも起りそうな、予感めいた心もちがして、一度は引き返してしまおうかとも、考えたくらいだったそうだ。

千枝子さん、いやな記憶がよみがえったわけだ。でも引き返さなかったようだが、その判断がよかったのか、悪かったのか・・・

 が、停車場へ行ってからも、出迎えをすませてしまうまでは、仕合せと何事も起らなかった。

杞憂、といいたいとこだが、さっきの村上の言い方だと、結局赤帽に出くわすわけだ。では、果たしてどこで?

ただ、夫の同僚を先に、一同がぞろぞろ薄暗い改札口を出ようとすると、誰かあいつの後から、「旦那様は右の腕に、御怪我をなすっていらっしゃるそうです。御手紙が来ないのはそのためですよ。」と、声をかけるものがあった。

赤帽きたっ!右腕に怪我・・・?まさか千枝子さんの夫に本当に会ってきたというのか??・・・どういうこと??

千枝子は咄嗟にふり返って見たが、後には赤帽も何もいない。いるのはこれも見知り越しの、海軍将校の夫妻だけだった。無論この夫妻が唐突とそんな事をしゃべる道理もないから、声がした事は妙と云えば、確かに妙に違いなかった。

またも姿を見せず・・・やはり人間とは思えない、怪しすぎる・・・

が、ともかく、赤帽の見えないのが、千枝子には嬉しい気がしたのだろう。あいつはそのまま改札口を出ると、やはりほかの連中と一緒に、夫の同僚が車寄せから、自動車に乗るのを送りに行った。

いやいや、その解釈は絶対おかしいだろう!赤帽いなくてよかった、なんてことにはならないだろさすがに!

するともう一度後から、「奥様、旦那様は来月中に、御帰りになるそうですよ。」と、はっきり誰かが声をかけた。

そらきたー!無視しようとしてもダメだよとばかりに、いないはずの赤帽が話しかけてきたに違いない!・・・しかしなぜ海外にいる夫のことが分かるというのか!?

その時も千枝子はふり向いて見たが、後には出迎えの男女のほかに、一人も赤帽は見えなかった。

赤帽は、透明になれたり瞬間移動できたりするというのか??

しかし後にはいないにしても、前には赤帽が二人ばかり、自動車に荷物を移している。

これは・・・ヤツなのか?

――その一人がどう思ったか、途端にこちらを見返りながら、にやりと妙に笑って見せた。

怪しすぎる!!!ヤツに違いないだろう、これは!!

千枝子はそれを見た時には、あたりの人目にも止まったほど、顔色が変ってしまったそうだ。

千枝子さんも、これには完全にトラウマ再発だろう。まったく恐怖でしかない。

が、あいつが心を落ち着けて見ると、二人だと思った赤帽は、一人しか荷物を扱っていない。しかもその一人は今笑ったのと、全然別人に違いないのだ。

これは、もしかして見間違いという可能性もある?

では今笑った赤帽の顔は、今度こそ見覚えが出来たかと云うと、不相変わらず記憶がぼんやりしている。

やはり幻覚か何かだろうか?でなければ、これはもう人間以外の存在に違いない。

いくら一生懸命に思い出そうとしても、あいつの頭には赤帽をかぶった、眼鼻のない顔より浮んで来ない。――これが千枝子の口から聞いた、二度目の妙な話なのだ。

やはりこの村上の都市伝説ぽい話し方が気になって仕方ない。何なんだこの語り手は。

 その後一月ばかりすると、――君が朝鮮へ行ったのと、確か前後していたと思うが、実際夫が帰って来た。右の腕を負傷していたために、しばらく手紙が書けなかったと云う事も、不思議にやはり事実だった。

つまり、赤帽が言っていたことは正しかった。・・・彼は本当に地中海まで行って戻ってきたというのか、それとも・・・?

「千枝子さんは旦那様思いだから、自然とそんな事がわかったのでしょう。」――僕の妻なぞはその当座、こう云ってはあいつをひやかしたものだ。

姉さんまで赤帽のこと信じてないのかー!神経衰弱だっいうのに、ひやかしてる場合ではないだろう。

それからまた半月ばかりの後、千枝子夫婦は夫の任地の佐世保へ行ってしまったが、向うへ着くか着かないのに、あいつのよこした手紙を見ると、驚いた事には三度目の妙な話が書いてある。

いや待ってくれ、夫が帰ってきて千枝子さんは落ち着いたという話ではなかったのか?

と云うのは千枝子夫婦が、中央停車場を立った時に、夫婦の荷を運んだ赤帽が、もう動き出した汽車の窓へ、挨拶のつもりか顔を出した。

またしても中央停車場。でもここでは変わった様子はないな。

その顔を一目見ると、夫は急に変な顔をしたが、やがて半ば恥かしそうに、こう云う話をし出したそうだ。

えっ、どうした?夫の顔見知りだったか?

――夫がマルセイユに上陸中、何人かの同僚と一緒に、ある珈琲店へ行っていると、突然日本人の赤帽が一人、卓子の側へ歩み寄って、馴々しく近状を尋ねかけた。

フランスのマルセイユに?日本人の赤帽が?

勿論マルセイユの往来に、日本人の赤帽なぞが、徘徊しているべき理窟はない。が、夫はどう云う訳か格別不思議とも思わずに、右の腕を負傷した事や帰期の近い事なぞを話してやった。

なんか千枝子さんのときと同じパターンなんだが・・・しかしこの赤帽が千枝子さんが会ったの赤帽なのだとすると、本当に夫婦の伝達役を彼がしていたということに?

その内に酔っている同僚の一人が、コニャックの杯をひっくり返した。それに驚いてあたりを見ると、いつのまにか日本人の赤帽は、珈琲店から姿を隠していた。

気が付くと消えているというところも、中央停車場のあいつと同じ・・・やはりヤツなのか?だとしたらどうやって移動しているのか、いや、それよりなんのために?

一体あいつは何だったろう。――そう今になって考えると、眼は確かに明いていたにしても、夢だか実際だか差別がつかない。のみならずまた同僚たちも、全然赤帽の来た事なぞには、気がつかないような顔をしている。

起こった事態だけ考えると、たしかに夢か幻覚かと思っても仕方がないとは思うが、はたして。

そこでとうとうその事については、誰にも打ち明けて話さずにしまった。

まあ、そんな話誰にもできないよな、自分自身でもわけのわからないような話を。

所が日本へ帰って来ると、現に千枝子は、二度までも怪しい赤帽に遇ったと云う。

遠く離れた夫婦が、同じ体験をしていた。まったく不思議な体験だし、にわかには信じがたいことではあるが、嘘をつく道理もない。

ではマルセイユで見かけたのは、その赤帽かと思いもしたが、余り怪談じみているし、一つには名誉の遠征中も、細君の事ばかり思っているかと、嘲けられそうな気がしたから、今日まではやはり黙っていた。

そう、怪談じみていて現実に受け入れがたい話である。そして何か実害があったわけでなし、人に話せなかったのも頷ける。

が、今顔を出した赤帽を見たら、マルセイユの珈琲店にはいって来た男と、眉毛一つ違っていない。

夢か現かわからないから、ここは気にしないことにしようと決めたところに、赤帽が現れたと。まるで忘れさせないかのように。まったく、彼は本当に何者なのか・・・

――夫はそう話し終ってから、しばらくは口を噤んでいたが、やがて不安そうに声を低くすると、「しかし妙じゃないか? 眉毛一つ違わないと云うものの、おれはどうしてもその赤帽の顔が、はっきり思い出せないんだ。ただ、窓越しに顔を見た瞬間、あいつだなと……」

何度も言うが、こういうところが都市伝説みたいなんだよ、村上。そうだ、忘れそうになるが、この話は村上が語り手なんだった。

 村上がここまで話して来た時、新に珈琲店へはいって来た、友人らしい三、四人が、私たちの卓子へ近づきながら、口々に彼へ挨拶した。

彼というのは村上のことか。ということは、主人公の私とこの友人たちとは直接の面識はないということか。不自然に急に割り込んできて、何だろう。

私は立ち上った。「では僕は失敬しよう。いずれ朝鮮へ帰る前には、もう一度君を訪ねるから。」

久しぶりに喋ったな、主人公。千枝子さんの話はもう終わりでいいのか?話の続きとか赤帽の正体とか、気にならないのか?

 私は珈琲店の外へ出ると、思わず長い息を吐ついた。

うん?どうした?さっきまでのことで、なにか気になることでもあったのか?

それはちょうど三年以前、千枝子が二度までも私と、中央停車場に落ち合うべき密会の約を破った上、永久に貞淑な妻でありたいと云う、簡単な手紙をよこした訳が、今夜始めてわかったからであった。…………

・・・え?!ちょとそれは、どういうこと??・・・そういうこと???

 衝撃の結末。これには再読必須である。
   ―――全文ツッコミ「二周目」につづく。


noruniru様の投稿



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