και (かい)

建設会社勤務の文系人、41歳。文学と哲学の本を好んで読みます 。ひっそり、ゆっくり紡いた随想と小説と雑記とを、一読いただけたならしあわせです。

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【自己紹介にかえて】文学と哲学、趣向と思考

 太宰治が好きだ。志賀直哉も、好きだ。  正確にいうと、彼らの作品が――とくに短編作品が――好きだ。ただ時として、このふたりが頭の中で言い争いを始めることがあるので、仲を取り持たねばならないことに苦労する。  ニーチェが好きだ。スピノザも、好きだ。  彼らの思想も、生き方も、ひっくるめたうえで愛したいと思う。彼らふたりは時折仲良しで、たまに別々の方向をむいてはいるが、直接衝突しないのでこれはありがたい。もっとも、彼らに引き込まれすぎると、現実社会にうまく帰ってこれなくな

    • 【生成AI】超人気ブロガーの実力

       ウェブライターとして生計を立てる人をテーマに短編小説を書こうと思い、ヒントを得るためにテキスト生成AIに質問をしたら、その回答がおもしろくて思わず声が出てしまったので、せっかくだからここにそのまま書き出すことにした。 ―――――――――――――――――――― 質問:「超人気ブロガーのすごい実力について、例を描写してほい」 回答案を表示: *超人気ブロガー「雷電先生」の実力 PV数  雷電先生のブログは、月間1億PVを超える超人気ブログだ。これは、日本の全人口の8

      • 【感想】夏目漱石『虞美人草』、藤尾の欲望

        夏目漱石『虞美人草』  この作品は漱石が朝日新聞社に入社して最初に連載された長編作品で、いわく一字一句にまで腐心して書いた、ということらしいが、その評価は様々なようです。 以下、作品の感想です。  『こころ』の中にも登場する「恋は罪悪」という言葉は、この『虞美人草』にも登場する(順番はこちらが先)。恋は罪悪・・・しかしここでいう罪悪とは何のことであろうか。  甲野鉄吾や小野清三を説得した宗近は、「真面目」になれる男だ。彼の真面目は「義徳」に対する「真面目」である。彼は私利

        • 【随筆】クッキング文学 バターチキンカレー

           日曜日は手の込んだカレーを作るのが趣味、なんてことはまったくないが、今日はお昼前からバターチキンカレーをつくることにした。じつは昨日のうちに、手羽元10本をヨーグルトに付け込んでいたのである。ヨーグルトは250g。ジッパー付きの袋を使うと便利だ。  鍋にバターを入れて、溶かす。20gでよいところを、欲張って40g入れてしまえ。バターと冠した料理に、バターが多すぎるということはあるまい。鍋を温めれば自然とバターは液状になる。ああいい香りだ。ここに鷹の爪を1つ投入。本当は3本

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        【自己紹介にかえて】文学と哲学、趣向と思考

          【小説】Out Of The Cage【ショートショート】

          朝、目が覚めると、冷たく固まった弟の体が、俺のとなりに転がっていた。俺は、突然やってきたこの出来事が、まったく意味も分からず受け止めることができなかった。 震える体でベッドから飛びのいた俺は、水をひと口飲みながら、おちつけ、おちつけと心の中で繰り返した。昨日まで、弟は元気に俺とこの部屋で遊んでいた。そうして一緒にこのベッドでひっついて寝たじゃないか。 なぜ?そして、どうしたらよい?大人でない俺には、どうしたらよいか分からない。そうだ、大人を呼ぶんだ。 俺たちには親がいな

          【小説】Out Of The Cage【ショートショート】

          【企画】梶井基次郎『桜の樹の下には』に余計なことをしてみた

           この企画は、梶井基次郎による物語体小説である『桜の樹の下には』が、実はある短編小説の台詞部分だけを抜き出し、作品として発表されたものである、という勝手な投稿者の推測に基づき、存在しないもとの短編小説を復元するという試みです。投稿者の余計な加筆により、作品は凡作となってしまった訳ではあるものの、そのことで却って、梶井基次郎の『桜の樹の下には』の素晴らしさを感じて頂けることができたなら、この企画は成功したものと考えます。 ※本文は『梶井基次郎全集』(ちくま学芸文庫)を参照して

          【企画】梶井基次郎『桜の樹の下には』に余計なことをしてみた

          【企画】芥川龍之介『妙な話』全文にツッコミを入れてみた 二周目【ネタバレあり】

          前回からの続き。はじめての方はぜひ一周目からご覧ください。 * 二 周 目 * 村上から誘って二人は出かけたのだろうか。だが主人公は「私」は、実は村上に隠している秘密があるのだ。 妹の「千枝子」について話題にする旧友。おまえの妹と隣にいる男とは、不倫関係にあるということを、お前はまだ知らない・・・ 素知らぬ顔をする主人公・・・なんてやつだ。 会えなかった千枝子さんについて、何かわかるかもしれない・・・そんなふうにでも思ったのか、関心のある素振りをする私。 どき

          【企画】芥川龍之介『妙な話』全文にツッコミを入れてみた 二周目【ネタバレあり】

          【企画】芥川龍之介『妙な話』全文にツッコミを入れてみた 一周目【ネタバレあり】

          この企画および本稿タイトルは、noruniru様のフォーマットを拝借し作文したものです。 ※本文は『芥川龍之介著作集 第四巻』(岩波書店)を適宜参照しつつ、一部読みやすいよう手をいれながら、原則青空文庫より引用しています。 ※※以下、本作品の重要なネタバレを含みます。その旨ご了解の上、続きをお読ください。 * 主人公は「私」ということね、しかし旧友なのに「村上」て名字で呼ぶのか、よそよそしいな。 「千枝子」というのが村上の妹の名前なのか。兄の友人にも気を遣える、いい

          【企画】芥川龍之介『妙な話』全文にツッコミを入れてみた 一周目【ネタバレあり】

          【随筆】富士の名は -3-

          前回からの続き  小学生のころ、授業の一環か担任の趣味だか、百人一首を全首おぼえて暗唱するという課題があった。結局100もおぼえきらなかったが、今でもいくつかの歌は記憶に刻まれている。当時は歌の内容や意味も考えずただ頭に入れ、口でおぼえたようなものであったが、今思えばその後中学へと上がった時に、この記憶が少しばかり古典の授業でのひそかな自信にもつながったような気がする。  そんな百人一首の歌のひとつに、富士山を詠ったものがある。  小倉百人一首では4番目にあたる歌だから

          【随筆】富士の名は -3-

          【随筆】富士の名は -2-

           前回からの続き  昨朝から降り続いていた雪が、窓の外の景色を白く塗りつぶしていた。このあたりでは年に数回降るかどうかの雪が、朝の街をおおっていた。外を見れば北に見える低い山も、ぼんやり白ばんでいた。  富士山をありがたがり特別なものと感じている人のうちの多くは、本物の富士そのものではなく、記号化されたシンボルとしてのフジヤマをありがたがっているのではないか。―――などと考えてみたが、外の雪に頭も冷やされたせいか、勢い任せのそんな考えが、ひどく幼稚なものに思えてきた。個人

          【随筆】富士の名は -2-

          【随筆】富士の名は -1-

           「富士山」は、いうまでもなく日本で一番高い山の名前である。だが、このように漢字で表されたとき、「ふじさん」と読むのか、あるいは「ふじやま」と読むべきなのか、ふと悩んでしまう。もちろんそれは、多くの場合どちらでもよいことなのだろうが。  漢字についても、必ずしも昔から「富士」ではなかったようである。奈良時代の『常陸国風土記』では「福慈(ふじ)」と表記されているそうであり、実はこれが日本最古の記録なのだという。この時代の漢字は、音をあらわすかな文字としての使用方法も多かったこ

          【随筆】富士の名は -1-

          【随筆】2024年の正月 -4- プロトコル的、プロタゴラス的、

           冷たい風が、私の心を暖めた。  一月にしては暖かい、というのは例年に比べということであり、皮膚には冷たく感じられた外の空気が、しかし私の心を和らげた。  コンビニのアイスクリームは品揃えが頻繁に変わる。夏と冬とではかなりの違いがある。ゆっくり溶けるバニラアイスが、熱に苦しむ妻の気持ちを緩めてくれるとよいのだが。そう思いながらの帰宅。ぬるいコーヒーを飲んだ。  冷たいあついということは、人それぞれに意味をもつものだろう。その人毎の体験が、その時その人にとっての本当となる。

          【随筆】2024年の正月 -4- プロトコル的、プロタゴラス的、

          【随筆】2024年の正月 -3- 壁の向こう

           生と死が両極だとしたら、私は今どこに立っていることになるのだろう。生きている私は、生の地点からしか死を指さすことはできないはずだ。  だから、生と死の間には、差がないどころか越えることのできない壁があるはずで、死は見えない壁の向こう側としてしか、あらわせないもののような気さえする。  正月の一日から寝込んでしまった、暗く憂鬱な前日とは違って、この日は考えが自由に散歩したがっていた。寝室では、初詣で健康を祈願したはずの妻が、具合悪そうに寝ている。壁の向こうに昨日の私をみた。

          【随筆】2024年の正月 -3- 壁の向こう

          【随筆】2024年の正月 -2- 遠く…

           眠りは二日酔いの解消に役立たないと知った、だからと言って起き上がれるわけもなく、布団の上で横になってスマートフォンを触る。この上なくだらしがないこの体の枝の先、小さく光る画面の中では、年始すぐの突然の大災害に、文字が動画が騒めき合っていた。  地震が起こったと知ったとき特にあわてなかったのは、おそらくいつもの不快なあの警報音がなかったからだろう。おのずと近くのコトではないと判断していたのだ、それだけあのイヤな音に感覚が慣らされたのだろうか。同時に心に浮かんだことは、そこま

          【随筆】2024年の正月 -2- 遠く…

          【随筆】2024年の正月 -1- 健康と平和

           昨晩少し飲みすぎたせいもあって、元旦早々風邪をひいた。  朝は雑煮を作り、子どもたちと一緒に食べて、歩いて近くの八幡様へとお参りする予定だったが、一向に布団から出てこない私をよそに、妻と子どもたちは外へと出かけてしまったようで、家は静かだ。  ひどく頭が痛い、体が重く節々が痛い、喉も痛い。―――もしかしたら喉の痛みはそれほどでもなかったかもしれないが、風邪をひいたのだと言うためには、この苦い感覚は私にとって重要な意味をもっていた。とにかく私は、風邪をひいたのだ。  気

          【随筆】2024年の正月 -1- 健康と平和