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旅行中に初めてのプロポーズを受けた20歳の夏
初めてプロポーズをされたのは、20歳の時。1人目へのアタックが無残に失敗した彼は、横に座っていた私に向き直り「じゃあ君はどうだい?」と続けた。
20歳の夏休み、私は親友と二人でエジプトに旅行に出かけた。たくさんのハプニングが起こり、忘れられない旅行だ。
ローカル食堂に意気揚々と出かけて満腹になった後、見事にお腹を壊してホテルのトイレで2日間を過ごした。霊感の強い親友が、ミイラ博物館の前で「誰かが肩に乗っていて重い…」と動けなくなった。マクドナルドに行ったら、唯一冷房が効いたレストラン、お客さんは富裕層のみ。「これがマック?」とたまげた。
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20歳の私には、エジプトで見るもの全てが、びっくりで印象深かった。でも、その中でも、一際忘れられないのは、「人生初めてのプロポーズ」だ。
泊まったホテルのレストランで毎朝、給仕してくれる陽気なおじさんがいた。名前はモハンマドさん。50代前半くらいだろうか。ある日、モハンマドさんが、「うちに遊びに来ないか?子供もたくさんいるんだ。ぜひうちの家族に会ってくれ」と自宅に招待してくれた。
好奇心旺盛な私たち2人。「エジプト人のお宅に行ける機会はなかなかないよね」とその場で承諾。その日の午後3時。ムハンマドさんは、馬車で私たちを迎えにホテルに来た。
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馬車で移動すること20分ほど。外国人など全く見かけない住宅街エリアに入り、白い建物の前に到着する。階段を5階までのぼり、ドアを開けると、4人の子供と若い奥様が笑顔で迎えてくれた。「なんだか、テレビで見るドキュメンタリー番組の中にいるみたいね」そんな風に友達と冗談を言いながら、エジプト人家族と片言の英語で会話を楽しんだ。
30分もした頃だろうか。モハンマドさんが、お茶でもしようといって、道を隔てた向かいにあるカフェに連れて行ってくれた。子供たちと奥さんには、家で別れをつげる。
カフェでコーヒーを飲みながら、エジプトでの旅の話に会話がはずむ。そのうち、父親ほど年の離れたムハンマドさんが、私の友達にこう聞いた。
「君にボーイフレンドがいるのかどうか知らないけれど。僕の奥さんにならないかい?僕はあと3人まで奥さんを受け入れることができるんだ」
私は、一瞬、聞き間違いかと思った。「奥さん」? しかし、ムハンマドさんは確かに、数日前に会ったばかりの友達に結婚を申し込んでいたのだ。友達もびっくりしていたが、すぐにこう切り返した。
「私には結婚を考えているボーイフレンドがいる。だから、あなたの奥さんにはなれない」
ボーイフレンドと結婚を考えているなんて彼女から聞いたことがなかったけれど、きっとわざとそう言ったのだろう。さすがの速い切り返し、頭の切れる友達らしいな~と感心していたら。
「じゃあ、君はどう?」
ムハンマドさんが、今度は私に向かってこうささやくではないか。
プロポーズは1回断られているので、今回はムハンマドさんは、さらに言葉を続ける。
「エジプトでは、女性は外で働かなくていい。結婚したら、家の中で子育てや家事をしていればいいんだ。だから、君はエジプトまでの片道航空券だけ自己負担で手配さえしてくれたら、後のことは何も心配しなくていいんだ」
20歳だった私には、そもそも結婚ということが現実的ではない。さらに自分の父親ほどの年齢の男性からの求婚はまったく現実味も説得力もなかった。
彼は本気で言っているのだろうか。はたまた冗談?そんな疑問を感じながらも、20歳の私は、失礼がないように丁重に断った。
「ボーイフレンドはいないのだけれど、まだいろいろと、行きたいところややりたいことが山ほどあるので…」
20歳だった私には、「女性は家で家事をしていればいい」というムハンマドさんの言葉、一夫多妻制の文化、娘ほどの年齢の外国人に結婚を気軽に申し込むところ、どれもこれもが、衝撃であり驚きだった。20歳ながらに、ここで結婚をしたら、自由な旅はもうできないと感じたようだ。
旅好きの私と親友は、その後も世界を一緒に旅しているが、2人の中で一致しているのは、「一番忘れられない旅はエジプトだ」ということ。
ムハンマドさんは、その後、無事に2人目の奥様を見つけることができただろうか。
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