猫町ふたたび③
なんで猫と暮らすことで課題解決をするなんて事業を始めたのかというと、市長が若い時に猫に救われたからだ。
そのことやこの事業の凄さ…猫がもたらす幸せについて、飯塚家長が「猫町」という本を数年前に書いた。
市長の書いたいくつもの本も飯塚家長のこの本もベストセラー。 そして、その売り上げの一部を、ますさんの暮らしている施設や併設の児童養護施設の運営、猫たちのこと…市民の暮らしが良くなることに寄付している。すごいよね。
市長も飯塚家長も「自分に必要な分は十分もらってるよ!」と。市長は「ありがたくいただいているよ。」と本やメディア収入があるからと給料も減らしている。その分を市の事業に回している。
「いただけるところからいただいて。必要なところにお裾分けだ。お金は天下の回りもの。溜め込んでもだめなんだよ。流さないとね。また回り回って帰ってくる。」と。
何で市長の言葉を僕が語れるかと言うと…市長はほぼ毎日お昼休みにこの「猫の家」にやってくる。
「ここに来て、猫に会うと元気になる。癒されるんだよ。」と猫じゃらしのオモチャで猫と遊んでいる姿はどこにでもいるおじさんだ。根っからの猫好きなんだ。
ふとその市長が、こんなことをもらしたことがある。
「今は私の寄付で賄っているところが大きい。いつかは私もここを去る。その時だ。その時が来てもやっていけるように。いつまでも続くように。その仕組みを、足場を固めなくちゃ。それが今の課題かな。」といつもの明朗さがかげり呟いた。
でも、そこも猫たちが救ってくれた。 うちの町の猫を飼うと幸せになるというジンクスが広まり、市外の人からも「猫の家」の猫が欲しいと問合せが絶えなかった。 そこで、市内の人は無料で市外の人からは有料でお渡しすることにした。
また通称「猫町」の名も日本中に広まり、猫好きの転入者が増えた。街灯を猫耳やしっぽをデザインしたものにしたり、マンホールも猫柄にし、歩道には猫の足跡を描いた。
そうしたことで、猫好き達がこぞってやって来てた。今では、猫好きの聖地となった。 その人達を狙って、猫グッツを売る店や猫をモチーフにしたデザートを作るカフェなども出来て、予約待ち半年なんていうレストランもあるくらいだ。
そして、猫事業を立ち上げた時に入所していた児童養護施設の子ども達が巣立った後、その子達に市長のお裾分けの精神が息づいているとわかった。
猫と一緒に、併設の高齢者と一緒に、職員と入所している子達と一緒に、伸び伸びと自分のやりたいことをできる環境で育った子達。
アイドルになった子、賞を受賞するくらいの建築家になった子…自分の夢を叶えた子達がお金を寄付し続けてくれている。
こういった循環も注目を集め、子育てや施設運営についての視察や取材も後をたたない。 その時には、基本的にいくばくでも有料で受けている。出せないところからはいただかない。出せるところからは有難くいただき、必要な人へ回す。それがこの町の仕組みだ。
しぶしぶ…ということはなく、この町へ寄付すること、貢献することが嬉しいのだ。
幸せを創ることに、自分も関わっているということが誇らしいのだ。
だから、受け取る方も引け目がない。
すごく清々しいんだ。
「貴一!猫を届けに行くよ!」と田中さんに呼ばれた。僕は幸せを届けるために、ドアへと向かった。