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私の赤・あなたの赤④
俺は「さよなら」が欲しかったんだ。
小学生の頃、みんなで馬鹿騒ぎしてたくさん遊んで、すごく楽しかったのに、もっと一緒にいたいと思うのに、「じぁね!バイバーイ!」って言った後の寂しさとホッとした感じ。
俺はあの時…寂しさよりもホッとする方を取りたかったんだ。自分の時間が必要だったんだ。
妻と別れて5年。 隣に誰もいなくなった時、俺はホッとした。
しばらく経って、キッチンで皿を洗っていると何かが違うと思った。 何かは程なくしてわかった。 流しの目の前にある、かつぶしやら七味やら塩やらが入ってるカゴから、クコの実が消えたのだ。
貧血予防に妻が食べていたクコの実。 杏仁豆腐の上に乗っているやつ。赤い実だ。 2度とこのカゴには、クコの実は入らないんだろうなと思った。
こんなことを思い出しているのは、昼間のあの子のせいだな。相席した、あの男の子。 あの子が「赤と言われたら、どんな赤を思い出しますか?」なんて言うから。思わず「クコの実」って答えた。
俺は金魚に餌をあげた。 そうか、金魚って答えれば良かったんだ。そうすれば、こんなことを思い出さずにいられたかも。
そうだ、俺だ。俺が悪いんだ。誰かのせいにして。俺が言えば良かったんだ。多分。あの時も。
金魚がパクッと餌を食べた。またパクッと。
時は止まらない。あれで良かった。あの時は。 そして、これからはこれからだ。
餌を入れるとまた金魚は食べ始めた。パクッ、パクッと。
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