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好きが勝る #344
わたしの父は料理人だ。
だから、わたしは大手サラリーマンになることを選んだ。
飲食店と言えば、土日祝日、年末年始やお盆休みといった大型連休が繁忙期。
父はシフト制だったから、幼い頃に遊びに行った記憶がほとんどない。
小中学生の頃、連休のたびに家族でお出かけしているサラリーマン家庭がうらやましくて仕方なかった。
ましてや昔の飲食店といえば「キツイ・汚い・危険」の3K職場。
今みたく働き方改革なんて存在せやしない。
だから、飲食店に勤める父親に対して誇りを持っていなかった。
でも、そんな父からあるとき大事なことに気付かされた。
それは「好きに勝るものはない」ってこと。
彼の得意料理は餃子だが、何十年も作り続けては毎回のようにアレンジを加えている。
還暦を過ぎても鍋を振り続けていて、スマホを持ってからは料理のことについて楽しそうに調べている。
あるとき「料理を作るのが楽しいの?」と聞いたとき、「楽しい。」と彼は答えた。
わたしは安定した給料と充実した福利厚生を求めて、好きを後回しにして前職に就いた。
そして、仕事が好きになれなくて、つまらなくて退職した。
だが、今は「好き」という感情を最優先して人生を送っている。
たとえ嫌なことがあっても、何だかんだ料理に関わり続ける父親を見て、ハッとさせられた。
結局、人は好きなことじゃないと長続きはしない。
「好き」からの原動力ほど強いものはないのだ。
模範解答はすぐ身近にあった。
反面教師にしていた父親に「ごめんなさい」と「ありがとう」。