傭兵ピエール by佐藤賢一
先日の欧州旅行記を書き上げた後、ヨーロッパの中世史に興味が再沸し、ベルバラ最終刊を購入して読み切り、オスカルのモデルであったろうジャンヌダルクを扱った作品を読みたいと思って、本書をKindle版で購入した。エログロの表現が多く、ムズムズしながら読める、小生のツボで、面白くて一気に読み進めることができた。細かい描写が、その場面、空気感、そこに立っている人物達の映像を鮮明に浮かび上がらせてくれるので、自分もその場面に直面しているかのように没頭出来た。
ジャンヌ?いやラ・ピュセルがフランス軍を鼓舞して勝利に導く様子を、まるで自分も一緒に戦っていたかのように感じることが出来たのが新鮮だった。しかしラ・ピュセルが煌めいている時間は束の間であり、ランスでの戴冠式を実現した後、突然、神の声が聞こえなくなる。でも自分にはどうすることも出来ない、自分自身の運命に身を任せ、戦いの中、敵に捕まり、捕虜となる。聖人では無く女性として痛みつけられる場面は、短剣で内臓をグリグリやられる感覚がありつつ、ゾクゾクが止まらない。もちろん傭兵隊のシェフ、ピエールに完全感情移入して、読み進めることが出来た。ネタバレになるので、詳細は書かないが、こんな史実の解釈もあるのだと、すっかりこの小説の世界観に引き込まれてしまった。
ハッピーエンドが嬉しい。読み終わった後の爽快感、男として生まれたのであれば、ピエールの様になりたいと心から思う。自分の手柄話を喜んで聞いてくれる仲間がいて、酒を美味しく飲める。かみさん達の尻に敷かれても、酒場で語る自分の物語を語るために、男はまた冒険を夢見るのだ。