虫の知らせ
「虫の知らせ」とは、よくないことが起きそうだと感じることだ。
私にも一度だけ不思議な体験がある。
以前にも書いたが私が小学校に電車で通っていた。
そのため、夕方ごろに駅に着くのだ。低学年のころは親から「最寄りの駅に着いたら公衆電話から電話ちょうだい」と言われていたが、さすがに小学校4年生ともなればそこまで心配されることもなく、電話はたまーにどうしても早く伝えたいことがあるときにしかかけなくなっていた。
私の家の最寄り駅は地上4階建て。1、2階はショッピングモールが入っており、2階に改札、3階4階がホームという作りだった。帰宅時は4階のホームに電車が付き、私は2階の改札をでて、1階への階段に向かい、外に出る。
外にでると短い商店街があり、少し歩けば住宅街になる。私の自宅は駅から子供の足でゆっくり歩いて7~8分くらいの距離にある。周りには住宅しかないエリアで、さらに言えば私の家は突き当りの奥の奥にあって、車も入ってこないようなエリアだ。(厳密に言えば入ってこれるが、長い距離をバックで入れるか、頭から入れてバックで長い距離戻るかしないといけないので、めったに車は入ってこない)
家から少し離れた、宅配便の車などは大きい道路に車を止めて、徒歩で30秒程度歩いて私の自宅まで来る。
相当、奥まった場所に建つ家なのだということがわかっていただければよい
ある日、いつものように最寄駅に着いた。
駅から外にでると、サイレンが鳴っている。救急車だった。
救急車を目で見ることはできなかったのだが、サイレンの音を聞いた瞬間
「あ、この救急車、私の家に向かってる。家族になんかあったんだ。いや、絶対おばあちゃんだ。」
そう感じて、ゾッとした。そして私は家まで全速力で走り出した。
リレーの選手をしていたくらいなので走るのは得意。
先ほど書いたように、もし救急車がうちに来るのであれば、救急車は必ず大きい通りに停めてあるはずだ。
そう思って、大きな通りまで来るとやはり救急車が止まっている。
さらに走って家の前の路地まで着く。
救急隊員が担架を持って、家の路地を走っていくところだった。
私が駆け付けると、救急隊員の人が私に聞く。
「2階ですか?」
「はい。」
なぜか私はそう答えていた。
祖母の部屋は2階にあったからだ。
救急隊員の方より先に家のドアを開ける。空いている。
2階に駆けあがったら母の姿が見えたので、
「おかあさん!救急車来てる!おばあちゃんでしょ?!どうしたの?」
「そう!二階にあがってもらって!」
救急車を呼んだ理由は、祖母の部屋で祖母と妹が遊んでいたところ、タイミング悪く妹の頭が、祖母の顔に強くぶつかってしまい、みるみるうちに祖母の顔にお岩さんのように大きなたんこぶができてしまった。妹も痛くて号泣。妹はまだこのとき、2歳ちょっとだった。普段とてもおとなしい妹が、火がついたように泣き叫ぶので異常があるのではないかと母は気にしており、祖母から何があったのか事情を聴き、念のため2人を病院に連れていくこととなったらしい。
妹のことは全く分からなかったが、虫の知らせ通り、祖母で間違いなかった。
病院から帰ってきた母が不思議そうに
「ねぇ、Hitomiさん。なんですぐに2階に来て、おばあちゃんでしょ?って言ったの?救急隊の人から聞いたの?」
「違う。駅に着いたときにサイレンが聞こえて、サイレンがうちに向かってるって思って。おばあちゃんに何かあったって思ったんだよね。走ってきたら、救急車がいたんだ。」
「救急車の人がおばあちゃんが怪我したみたいですって言った?」
「言ってないよ。私が走ってきたのを見て、2階ですか?って聞かれたからそうですって答えた」
顔を腫らした祖母が言う。
「へぇ、そんなこともあるんだね。虫の知らせってやつだね」
祖母は顔を数日腫らしていたが、妹はどんだけ石頭なのかわからないが、全く無傷。二人とも大事には至らなかったが、妹は自分がおばあちゃんを傷つけてしまったことで、救急車を呼んで、おばあちゃんを自分が殺してしまうのではないかと心配で泣きじゃくっていたそうだ。
虫の知らせはある。
もしちょっとでもそれを無視しない方が、いいかもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?