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誰がAIDMAと言ったのか? ①なぜか日本特有のAIDMA



①なぜか日本特有のAIDMA

■AIDMAとAIDA

Attention、Interest、Desire、Memory、Actionの頭文字をつなげた通称「AIDMA」は、広告に対する消費者心理のプロセスを示したモデルといわれている。これを提唱したのが、1920年代にアメリカで活躍したSamuel Rolland Hallといわれる。日本の多くのインターネットサイト、書籍、そしてWikipediaにまで、そのように記されている。

しかし、これは確かなことではない。今回Hallの主だった書籍を読んだが、AIDMAという5つの文字は、どこにも見当たらない。AIDMAに近い表現はあるが、明確にAIDMAもしくはAttention、Interest、Desire、Memory、Actionの順序で記されている文章はない。

結論を先に記しておくと、現状では「誰が言ったかわからない」のである。

そもそもAIDMAという概念は、アメリカにはない。英語版のWikipediaには、E. St. E. Lewisが提唱したとされる「AIDA」と、そこから派生したモデルは記載されているが、AIDMAの文字はどこにもない。

P.コトラーは「コトラーのマーケティング・マネジメント 基本編」(ピアソン・エデュケーション、2002年刊、P336)では、次のように書いている。

ステップ3:メッセージの作成
視聴者からの望ましい反応を明確にしいたら、次は効果的なメッセージ作りである。理想的には、メッセージによって製品の注目を引き、関心を持たせ、欲求を喚起し、行為を引き起こすべきである(AIDAモデルについては、図15-1を参照)。実際には認知から購入まで消費者を導くメッセージは少ないが、AIDAモデルは良いコミュニケーション特質を示唆している。メッセージを作成するには、何を(メッセージの内容)、いかに論理的に(メッセージの構成)、いかに象徴的に(メッセージのフォーマット)、だれが(メッセージの発信源)言うかという4つの問題を解決しなければならない。

「コトラーのマーケティング・マネジメント 基本編」(ピアソン・エデュケーション刊)

図15-1とは、「反応ヒエラルキー・モデル」で、その表中に「AIDAモデルとして、「注目→関心→欲求→行為」と記されている。

また、「マーケティング原理」(ダイヤモンド社、1995年刊、P550)には、次のように書いている。

メッセージの選択
標的対象がどのような反応を示すかということが明確になった後で、コミュニケーターは効果的メッセージの開発に従事することができる。理想的なメッセージとは、注目を集め(Attention)、興味を引きつけ(Interest)、欲求を喚起し(Desire)、そして行動を起こさせる(Action)ことである (AIDA モデルとして知られている)。実際には、知名から購買までの全段階にわたって消費者を引きつけるメッセージは少ないが、それでもAIDAの枠組みは、メッセージの望ましい質を示唆している。

「マーケティング原理」(ダイヤモンド社刊)

マーケティングの大家であるコトラーが、AIDAしか記していないことは注目してよい。

■日本のマーケティング関連書籍のAIDMA

日本の古いマーケティング書で、AIDMA(AIDA)が書いてあるものは、手元にある範囲では限られる。
「現代マーケティングの基礎理論」(同文館刊、1981年)は、一橋大学田内教授、慶應義塾大学村田教授の編集により、20名の大学教授が1章ずつ分担して書いている。「12.セールスマン販売」の章は、立正大学池上教授の執筆によるが、その292頁に、以下のように書かれている。

12.2.3 セールスマンの販売過程
これまでセールスマン販売の性格・分類,マーケティング政策との関係について述べてきたが,セールスマン阪売の基本的部分は実際の顧客との接触にある。そこでこの実際の顧客との接触過程をAIDA概念(*)に基づき各段階に分け,それぞれの段階のセールスマン活動について検討してみよう。

「現代マーケティングの基礎理論」(同文館刊)

AIDA概念については、注(*)がつけられており、章末の302頁に、下記のように説明されている。

AIDA概念とはE. K. Strongが消費者の購買過程の段階を表わす概念で,Attention, Interest, Desire, Action の頭文字をとったもの. C. McDaniel, Jr., Marketing:. An Integrated Approach, 1979, pp. 353-4,を参照

「現代マーケティングの基礎理論」(同文館刊)

1990年代に出版された本の中では、「広告に携わる人の総合講座 平成8年版」(日本経済新聞社刊、日経広告研究所編、1996年)にAIDAがある。全部で23の章に分けられ、各章を分担して執筆している。
当該章は、「第11講 広告効果測定の理論」で、城西大学清水教授の担当である。

直線的なモデルには、まずAIDAモデルがある。これは非常に古く一八九八年にエルモ・ルイスが提唱したものである。その後、一九二五年にエドワード・ストロングが、それに確信の「Conviction」を入れて、AIDCAとした。さらにその後、誰がつけたかわからないが、Convictionを「Memory」にかえて、AIDMA(アイドマ)とした。このモデルは、最近ではそれほど専門的でない人でもよく使うポピュラーなモデルになっている。

「広告に携わる人の総合講座 平成8年版」(日本経済新聞社刊)

この時点で、「その後、誰がつけたかわからないが、Convictionを「Memory」にかえて、AIDMA(アイドマ)とした」と書かれている点に注目したい。どうやら、1980年代から、1990年代半ばまでに、誰かがAIDMAと言い出したようである。

ちなみに、「平成23年版 情報通信白書」(2011年)には、アンヴィコミュニケーションズが提唱したAISCEASとともに、AIDMAが図解で紹介されている。以下の文章は、脚注である。

AISCEAS:購買プロセスや購買心理を表す理論の一つとして、アンヴィコミュニケーションズが提唱したもの。購買プロセスには、他に代表的なものとして、E・K・ストロング(米国)が提唱したAIDA、サミュエル・ローランド・ホール(米国)が提唱したAIDMA、電通が提唱したAISASなどがある。「平成23年版 情報通信白書 第2部 第1章 (3)購買プロセスの変化」

「平成23年版 情報通信白書」(2011年)

AIDAはE. K. Strong Jr、AIDMAはS. R. Hallと明確に書いているが、どちらも誤りである。


■日本のインターネットサイトにおけるAIDMA

インターネット上に、マーケティングに関するノウハウを公開しているサイトは数多くある。その中で、AIDMAに言及しているものも数え切れないほどあるが、書籍名まで言及しているサイトは、確認できた範囲では8つあった。
他人の誤りを明確に指摘するのは心苦しいので、ここでは、その文章のみ転載した。

  • AIDMAの法則は、アメリカの販売・広告の実務書を書いていたサミュエル・ローランド・ホールが、1924年にその著書「Retail Advertising and Selling」の中で発表したものです。

  • サミュエル・ローランド・ホールが『Retail Advertising and Selling』にて提唱した「AIDMA」。よく知られるように Attention/Interest/Desire/Memory/Action の5段階で構成された消費者行動モデルである。

  • AIDMAの法則は、1924年にサミュエル・ローランド・ホールが「Retail Advertising and Selling」の中で発表しました。

  • AIDMAは、1924年にサミュエル・ローランド・ホールが「小売業の広告と販売」という書籍で提唱したフレームワークです。

  • 1924年、アメリカのサミュエル・ローランド・ホールの著書「Retail Advertising and Selling」の中で発表されたのが、AIDMAだ。

  • AIDMAとは、消費者の購買行動の流れを体系化したフレームワークのことで、アメリカの著作家サミュエル・ローランド・ホールが、1924年に発表した著書「Retail Advertising and Selling(直訳:小売り広告と販売)」で提唱しました。

  • Attention(注意),Interest(関心),Desire(欲求),Memory(記憶),Action(行動)の頭文字を取って「AIDMA(アイドマ)」といいます。1924年にサミュエル・ローランド・ホールが著書「小売業の広告と販売」で提唱した、広告での生活者の心理プロセスを分析した概念です。

  • Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)の頭文字を取ったもので、1920年代にアメリカで販売・広告の実務書を書いていたサミュエル・ローランド・ホールが『Retail Advertising and Selling(小売りにおける宣伝と販売)』の中で「広告宣伝に対する消費者の心理的なプロセス」として発表した。

いずれも自信満々にAIDMAはS. R. Hallによって提唱されたと断言しているが、誤りである。
以降、インターネット図書館を駆使し、また実際の書籍も入手し、AIDMA(AIDA)の歴史を検証してみた。

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