ユグドラシル
幾千年の昔、天に届くほど大きな樹を切り倒そうとする木こり
の老人がいました。
その樹の幹はとても大きく、その直径は一つの町ほどもありました。
老人は毎日毎日斧をもって樹のふもとまで向かい斧を振り続けました。
10年ほどが経った頃、同じように斧を樹に打ち付けているとガコッと大きな音がし、樹の幹の一部が崩れ小さな穴が空きました。
老人がその穴から樹の中をのぞくと、なんとそこは一面花畑で真ん中に小さな泉がありました。
「大きな樹の内部にはこんな場所が・・・」
驚いた老人は斧を捨て穴から中に入りました。
「おじさんだあれ」
横から突然話しかけられた老人は腰を抜かしました。
振りむくとそこには、耳の長い小さな女の子が立っていました。
眠い目をこすり、あくび交じりに女の子は言いました。
「泉の水を汲みに来たの?」
老人は固まっていました。
老人が名前を尋ねると女の子はユグドラシルと名乗りました。
「泉の水を汲みに来たわけではないよ。ユグドラシル、君は一体ここで何をしているんだい?」
「この樹が世界樹になるまでここでお留守番してるのお」
「世界樹・・・?」
女の子がいうには、樹齢が一万年に達した樹は世界樹と呼ばれるらしいのでした。
「君は幾千年の間・・・ここにずっと一人でいるのかい?」
「うん」
「ひとりで寂しくないのかい?」
「あたちは生まれたときからひとりだもん。寂しくなんかないよ」
老人はユグドラシルを可哀想に思い、町に連れて行ってやることにしました。
ユグドラシルはその日、たくさんおいしいものを食べ、たくさんの人と出会い、たくさん笑いました。
「おじさんありがとう! とってもたのしかったあ!!」
外の世界はこんなにも楽しい場所だったんだ―――――とユグドラシルは陽気に踊りました。
「おじさん、あたち決めた。この樹の周りに街を作る!」
「街を・・・?」
「うん! いっぱい人を集めて、愉快な街にして、すっごく楽しい場所にする。・・・それでね、それでねっ・・・いつか・・・」
「いつか?」
「この樹が世界樹になるときに大きなお祭りを開くの!
みんなでお祝いして、踊って笑って、肩を組んで歌うの!」
老人はユグドラシルの、その幸せそうな笑顔をみて温かい気持ちになりました。
それから老人は天に届くほどのその大きな樹を切り倒すのをやめ、木のふもとに一軒家を構え、幸せに暮らしました。
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