羽売りの商人
幾千年の昔、羽売りの商人がいました。
商人は人々に空を飛ぶことのできる羽を売ることで生計を立てていました。
そんなある日、商人のもとに海の魚たちがやってきて言いました。
「商人さん。僕たち魚にも羽を売っておくれ。」
羽売りの商人は、言われた通り魚たちに空を飛ぶことのできる羽を売りました。
商人から買ったたくさんの空を飛ぶことのできる羽を、魚たちは海の住処に持って帰って仲間たちに言いました。
「羽を買ってきたよ。さあみんな、これを身にまとって大空を羽ばたこう。」
その夜、魚たちは大空を羽ばたきました。
群れで空中に輪をつくるもの。
恋人と踊るもの。
星を眺めるもの。
みんなそれぞれ空を満喫していました。
そんな時、ある一匹の魚が言いました。
「みんな、そろそろ時間だ。」
すると、空を舞っていた魚たちは一斉に羽を動かすのをやめてしまいました。
そしてみんな地上に落ちていってしまったのです。
そのころ地上では、人間が村で豊作を祈るお祭りをしていました。
すると、火を囲い踊る人々の頭上から大量の魚が降り注ぎました。
人々はたいへん驚き、神に感謝し言いました。
「ああ、神よ。我らに食物を恵んで下さりありがとうございます。」
人々はその晩、空から降り注いだ魚を余すことなく食べつくしました。
次の日、村の人は全員死んでしまいました。
村人が食べたその魚は、致死量の毒を含んでいたのです。
魚は薄れゆく意識の中思いました。
人間どもめ。どうだ見たか。
これは罰だ。
罪のない魚たちを捕らえ、無残に食した罰だ。
君たちがこれまで捕らえて食べた魚たちにも家族がいた。
愛する者がいた。
人間には僕たち魚の言葉は届かないだろう。
君たちがこの世界で一番嫌われた存在であることも知る由もないだろう。
神様、どうかお願いします。
今度はあの人間たちが、安らぎのない残酷な世界に生れ落ちますように。
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