プラシーボ効果の功罪
「首も腰も膝も痛くて、眠れないの。」
毎晩、同じ時間にナースコールが鳴る。
「それは辛いですねえ。痛み止めを飲みましょうか。」
この時、90代女性に渡したのは、「鎮痛薬」ではなくプラシーボ効果を狙った「整腸薬」である。
翌日、
「よく効いてありがたかったわ!ぐっすり寝ちゃった。」
ニコニコである。
体の痛みを訴える高齢者は多い。腰、膝は特に多い。
1日に何回も痛み止めを所望され、「前回飲んでから時間が空いていないから、もう少し待ってほしい」が通用せずに「なんで薬をくれないんだ。」と不穏気味になってしまう事もある。
高齢者は腎機能が落ちている事も多いから、医師も痛み止めを連続で服用する事は勧めていない。
そこで活躍するのがプラセボ薬である。
当施設の場合、プラセボ薬として整腸薬を使うことが多い。
ミヤBM錠(白で大きめの錠剤)、ビオスリー錠(白で小さめの錠剤)などが頓服薬として処方される。
本人が持つ鎮痛薬のイメージでどちらか選択されたりする。
提携の薬局で分包してもらい、薬袋には「症状のあるとき」や「痛み止めP」などと印字してもらう。
「症状のあるとき」と印字してあると痛みだけでなく、お腹の調子が悪いとか、なんだかはっきりしないような訴えの時にも使える。
「痛み止めP」の「P」とはプラセボのこと。
嘘をついているようで、若干の罪悪感はあるものの、プラセボ薬で効くのなら腎機能も守れるし、誰も不幸じゃないからヨシ。病は気から、ホントそれ。
しかし困ったケースがあった。
最初は歯茎が痛い、と訴えがあった80代女性。
鎮痛薬(アセトアミノフェン)を何度か内服した後、歯科往診で抗生物質を数日分処方され、それを飲み終えた頃には歯肉炎は軽快しているはずだった。
しかし「まだ痛いから痛み止めが欲しい。」と毎日、ナースステーションまで頓服薬を取りに来る。(歯肉炎は見た目では分からない程度)
しばらくはアセトアミノフェンを渡していたのだが、1週間を過ぎた頃、試しにプラセボ薬(ミヤBM錠)を渡してみた。
幸いな事にプラセボ薬が効いているようだったが、歯肉炎が治らないのか、痛み止めが欲しいと毎日所望された。
ある日、「お腹の調子が悪いから薬が欲しい」とナースステーションに来た。以前からお腹の不調を度々訴えられていたので、腹部症状用に処方されていたビオスリー錠を渡した。
そこでふと考える。
毎日、痛み止めとしてミヤBM錠を内服していて、その上でお腹の不調でビオスリー錠を内服する...
もしかすると、ミヤBM錠でお腹が不調(緩く)になっていて、それを別の整腸薬で治そうとしている事になっているのか?
そうしているうちに、痛みはなぜか「歯肉炎」から「腰痛」に変わり、それでも毎日プラセボ薬を飲まないと落ち着かなくなってしまった。
「痛くなりそうだから、薬を早めに欲しい」とか「心配だから持っておきたい」という感じだった。
元々、神経症の既往がある人で、「痛み」というよりも「不安」で内服に依存している感じ。
歯肉炎は治ったようだが、結果として毎日2種類の整腸薬を内服する事になってしまった。
主治医が了承しているとは言え、3ヶ月続いているこの状況、この先どうしたらいいのでしょうか...
安易なプラセボ使用は、状況をややこしくする。
反省せねばなりません。
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