介護施設の「傲慢と善良」
私が勤務している有料老人ホームは、ある企業グループの「福祉部門」に属していて、3年ほど前から「ライフフォーカス」という取り組みが本社の指示でスタートしている。
ライフフォーカスの目的は、「入居者の人生を理解・把握して、老人ホームでの生活において意欲を持って頂けるよう専門職としてサポートしていくこと」。
具体的には、まず入居者の生きてきた歴史を本人や家族に質問形式で記入してもらう。
どこで生まれて、どんな事が好きだったか、大切にしている物は何か、苦労した事は何か等々。
そこから本人がやりたい事を探り、実現に向けて計画・実施する取り組みだ。
普段は人員配置や通常業務が優先されがちだが、このライフフォーカスに関しては、入居者本人が「自己決定」や「自己選択」をして、意欲の向上に繋げる。もちろん外出もあり。
そして目的の中には、職員が実践したかった専門職としてのスキルや知識を具現化し、モチベーションを向上させ、定着率の向上も図るという一石二鳥のプロジェクトなのだ。
うん、そんなに上手くいくかな?という気もするが、悪くない企画だと思う。
例えば、仕事一筋で生きてきた90代男性、某財団が運営する○溪園という大きな公園の館長だった。数十年ぶりにそこを訪れて、園内を巡り当時の同僚と会って思い出話をしたい、というような計画。
この方は公園内を歩くための体力作りが必要で、数ヶ月をかけて取り組む(車椅子は使いたくないと本人の希望)ことになった。家族にも協力を得て同僚と連絡を取ったり、気候や天候、交通経路、トイレの場所も考慮して計画する。
このケースは当日の天気も良く、予定通りに実施できた。本人だけでなくご家族にも喜んで頂けてひと安心。2、3日すると本人の記憶は曖昧になってしまったけど、その日、その瞬間を楽しんでもらえれば良し、です。
他には大相撲を観戦に出かけたり、猫カフェに行ったり、遠方のお墓参りに行ったりと個々にアセスメントして計画するので、結構手間ひまはかかる。
ただ、気になることがある。
初めはこのライフフォーカスに関して、実費以外には本人に金銭的な負担はなかったのだが、今後は料金が発生するというのだ。
外出時のスタッフの付き添いを、人数と時間で計算し、スタッフ2人対応で半日がかりの外出だと数万円も徴収されるという。
えー、これは善意というか、介護施設としての良心みたいなところで企画したんじゃないの?お金取るのは違うんじゃ...と何だかモヤモヤ。
毎月高い料金を頂いているのだから、その中で何とかして欲しいものだ。有料と知ったら断る人も出てくるだろうし。
もうここから出られないとか、人に迷惑をかけたくないとか、そんな気持ちで過ごしている人が多いから、「やりたかった事ができる」というのは生きる意欲に直結する。
家族に了承を得る際に「本人の為に素晴らしい企画を考えたんですが、やります?やるなら有料ですけど。」という姿勢は傲慢だろう。
考え直した方がいいと思いますよ、本社さん。