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DV男に優しくできますか

最近、ある入居者のことで葛藤している。

90歳男性、元大工で家族は妻と娘が2人。
妻に対するDVが長年続き、最終的には娘たちが母親を父親から引き離して匿ったという。
妻を人質にして、娘たちに理不尽な命令をする事もあったとか。

そんなDV男が入居してきた。

数年前から他の有料老人ホームに入居していたが、コロナ感染から体力が落ち、寝ている時間が長くなり、誤嚥性肺炎を繰り返すようになり衰弱。
今では鼻からチューブを挿入されて、経管栄養で命を繋いでいる。

発語は少なく、痰吸引をされる時に「やめて!」くらいのものだ。歩く事も出来ず、DVをしていた面影は今はない。

妻も娘も面会には来ない。

入居当初から、私は苦々しい思いでこの男性と接してきた。DV男に親切にしたくないし顔も見たくない。

吸引を嫌がって声を上げる姿を見ても、悲しむ家族を散々痛めつけてきたんだろうに、これくらいでピーピー言うな!と思ってしまう。

学生の時、看護師の倫理観についてはこう教えられた。

すべての人々は、その国籍、人種、民族、宗教、信条、年齢、性別、性的指向、性自認、社会的地位、経済的状態、ライフスタイル、健康問題の性質によって制約を受けることなく、到達可能な最高水準の健康を享受するという権利を有している。

看護職は、あらゆる場において、人々の健康と生活を支援する専門職であり、常に高い倫理観をもって、人間の生命と尊厳及び権利を尊重し行動する。

看護職は、いかなる場でも人間の生命、人間としての尊厳及び権利を尊重し、常に温かな人間的配慮をもってその人らしい健康な生活の実現に貢献するよう努める。

日本看護協会 看護職の倫理網領より抜粋


看護師はいかなる場面でも、誰が相手でも、尊重し権利を守り、高い倫理観で温かな人間的配慮をしなければならないのだ。

例え相手が犯罪者であったとしても、それは変わらないと教えられた。

確かに彼の人生の一部分だけを切り取って糾弾するのは間違っているだろう。本人も苦しんでいたかもしれないし、穏やかな時期もあったのかもしれない。

私の役割は、罪人に制裁をくだす地獄の閻魔様ではない。だからDVの罪について考えても意味はない。それは家族間の問題で他人が口を出す事ではない。

だけど、この入居者の顔を見るたびに、私の中の正義感というか嫌悪感みたいなモノと倫理観が戦う。

眉間にシワを寄せながら、自分と向き合っている。答えはまだ出ない。



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