強いパンチとは?
基本的にボクシングでは、相手に力いっぱい拳をぶつける!といった行為はしません。
人間の腕での打撃で出せる破壊力、衝撃力では「ぶつける」の行為で脳を破壊することが難しいからです。
ただ、重量級で身長が180cm以上で体重が80kg以上あるような人の場合は、人間の腕のみを使って相手の側頭部から後頭部付近に拳を「ぶつける」でも一撃で脳を破壊する事も可能になってくる。
だが、軽量級の選手は「ぶつける」ではKOできない。
じゃあ、軽量級の選手はどうやってKOすれば良いの?軽量級の選手のハードパンチャーをどう説明するの?
ということで、今回は強いパンチの定義について考えてみたいと思います。
何をもって強いパンチと定義するのか?
ボクシング
フルコン空手
一本を先取して勝敗を決める格闘競技
全て強いパンチの定義は同じか?
蹴りとパンチの強さの定義も同じか?
すぐに答えられますか?ほとんどの人が答えられません。僕はよくジムで練習生に対して質問をします。
僕「強いパンチの“強さ”とは?」
練習生「え?え~と…パワーですか?」
僕「パワーとは?」
練習生「え~と…力です」
僕「…(日本語に翻訳しただけじゃん) 力とは?」
練習生「筋肉ですかね?」
強いパンチとは?の質問の答えが筋肉
はい!
もう、力(りき)む気マンマンですね。
上記の練習生の回答の中に相手は存在してません。相手をどうするか?がまったくない。自分の中の感覚のみの話をしている。
ビックリするくらい、ほとんどの人が同じ会話になります。みんな何んとなく自分の中のイメージで強いと思ったパンチを打ってます。
「力」とはモノを動かす作用のこと
そう!強いパンチとは、相手の頭部に作用をかけてグルン!と回すことなんです!
ここで論点が3つ出てくるのでちょっと整理したい。
① 力いっぱいの「強さ」
② モノに衝撃をあたえる「強さ」
③ ボクシングでKOするパンチの「強さ」
まず
① 力いっぱいの「強さ」
これが多くの練習生の思考と行動なんだけど、
「力=筋肉」が思考。
「力を入れる=筋肉を固める」が行動。
本来なら瞬間的に短い時間で大きくモノ(相手の頭部)を動かす作用をかける必要があるので、自分の身体(骨と関節)をいかにスムーズに動かすかが大事になってきます。
にも関わらず「筋肉を固める」と骨と骨の間の関節も固まり動けなくなる。自分の身体をスムーズに瞬間的に動かせないという事は、モノ(相手の頭蓋骨)を瞬間的に短い時間で大きく動かす作用をかけれないので、力を入れる=筋肉を固める=弱いとなる。
② モノに衝撃をあたえる「強さ」
もうそのままです。物体が別の物体に衝突した際に生じる力のことなので、運動している物体(自分の拳)が他の物体(相手の頭部)に与える衝撃の大きさ=強さです。
下は簡易の式です。本当はボクシングのパンチは色々な条件が絡み合うので、この計算式では答えは出ません。
が、大体のイメージはつくと思います。
試合中に選手の質量が変化することはないので、速ければ速いほど衝撃力が上がります。
あとは腕だけ(手打ち)ではなく、身体全体の質量ごと拳を相手に衝突させる(踏み込み)ことで、手打ち時より質量を上げた事になるので衝撃力が上がる。
「体重を乗せたパンチ」といった間違って解釈してしまう表現をする人が多いので気を付けましょう。
下方向の地面に足を踏みつけながらパンチを打ったり、前膝をグンッ!と折り曲げて下方向に大きく荷重をかけたりしてパンチを打つ人や、そういった指導をする人もいるが間違いです!
そもそも体重(重量)と質量は別。
多くの人のイメージしている体重(重量)は質量に重力加速度をかけたもの。
という事は「体重を乗せる」は、身体の質量にかかる重力を地面に向かって落とすような行為で前方の相手に向かってする行為では無いってことです。ベクトル方向が間違ってます。
強い衝撃のパンチとは、質量(身体)を相手に向かって加速させて速度を落とさずに真っ直ぐ衝突させないといけないので、「乗せる」という表現は適さないし、前足の膝を折って下方向に荷重をかけるとベクトルが下方向に変わってしまい前方の相手への衝撃力は弱くなります。
気を付けましょう。
※自分より背の低い相手などが、自分より下の位置にポジションをとった場合は、体重を乗せる(重力を利用する)パンチを打つことは効果的です。
②のモノに衝撃をあたえる強さでは、特に質量と速さが重要なのが理解してもらえたと思います。なので重量級の選手だと相手の側頭部から後頭部付近に「ぶつける」でも一撃で脳を破壊する事も可能になるんですね。
でも軽量級の選手などの場合、質量が小さいので衝撃力も小さくなってしまいます。②の定義のパンチ力がないんです。軽量級の衝突させただけのパンチでは、なかなか倒せないんです。
ではどうすればよいか?
③の論点で本題の、ボクシングでKOするパンチの「強さ」
テコの原理を利用する
テコの原理とは、力点に力を加え、支点を中心とした回転運動により、作用点に大きな力を加えることができる原理。
テコの原理を利用すれば、弱い力で重たいものを動かしたり、小さな運動を大規模な運動に変換させることができる。
なぜ人は頭部への打撃で倒れるのか?
脳が損傷し運動機能が麻痺するからです。ボクシングの目的は相手の脳を損傷させて神経を断ち切って動けなくする事です。
目的を達成するための手段の1つが拳を衝突させるです。でも軽量級の選手の場合は別の手段の方が適しています。
力点(顎)に適切な角度とベクトルで小さな衝撃をあたえて作用点に大きな作用をかける。
力の定義を思い出してみましょう。
「力」とはモノを動かす作用のこと
力点(アゴ)に力を加えて、作用点に大きな作用をかけて脳を損傷させる=力の強いパンチ
答えが出ましたね。理解できたと思います。大事なことなので、もう一度言っておきます。
ボクシングの強いパンチとは
アゴ(力点)に適切な角度とベクトルで打撃を加え、頸椎(支点
を中心とした回転運動を起こし、脳(作用点)に大きな力を発生させ脳に衝撃をあたえ損傷させること。
ちなみにコメカミ付近(頚椎から1番遠い位置)に拳を引っかけるように力を加えても、テコの原理で相手の頭部が横回転するので脳震盪が起きてKOできます。
ぶつけるんじゃないんですよ。引っかけるんです。だからフックって言うんです。
ボクシングの競技性
① 力いっぱいの「強さ」
② モノに衝撃をあたえる「強さ」
③ ボクシングでKOするパンチの「強さ」
この3つの中で②と③が人間をKOできるが、ボクシングの競技性は、
両者が順番に一発ずつ打撃をして倒せるか?倒せないか?を競う競技ではない。
ボクシングの世界タイトルマッチだと
12R 3分×12R=36分
インターバルに1分も含めると、47分間も戦い続ける競技です。
できるだけ少ないエネルギーで小さい力で大きなダメージを与える効率性が求められる。
ちなみにこの表現は非常に重要です。
「できるだけ小さい力で大きなダメージをあたえる」
多くの初心者の人が①力いっぱいの「強さ」のイメージで、全く真逆の発想「できるだけ大きな力を使おう!使えばよい!」と思っている時点でアウト!負け確定です。
力みの原因がこれですね。
ボクシングの軽量級では③でKOできる。重量級になると②と③でKOできるので、重量級はKO決着率が上がって試合が面白くなる傾向がある。
キックボクシングなど蹴りがあると、腕より足の方が衝撃力が上なので②と③でKOできる。
最近、キックや総合格闘技の人がボクシングを習いに来るのは、パンチを①と②でしか打てない人が多く、③のボクシングのKOの技術を学びたいからです。キックだけでも相当な脅威なのに、パンチの威力も上がるとなると戦術面でも相当有利になるからです。
重量級のキックボクサーでパンチでもキックでも②も③も使ってKOできるとなると想像するだけでもヤバイ強さですよね。
まとめ
てことで、意識して練習したいのは
テコの原理で相手の頭部を回転させる。
身体のエネルギーを伝えるベクトル(方向)をイメージする。
動き出しに、骨と関節をスムーズに可動させるため、力を入れる(筋肉を固める)という表現とイメージを捨てる。
「いかに自分の中に溜めるか」ではなく「いかに自分の外に放てるか」
「いかにグッ!と引くか」ではなく、「いかにハッ!と出せるか」
以上です。