朝、ゴミ捨てに行ったら、婚約指輪をなくした知人のお話【創作みたいな本当のお話】
私がイギリスに住んでいた頃、国際交流のお茶会で中国人の女性と知り合いました。何度か会ううちに仲良くなり、彼女から中国語を教えてもらい、お返しに英会話の練習相手をしました。彼女はまだ20代で、大学院に留学している配偶者と一緒にイギリスに来て1年。とても素敵なダイヤモンドのついた指輪をしていました。私は自分の婚約指輪を日本に置いてきていたので、「やっぱり持ってきた方が良かったかなぁ。」なんて思っていたのです。
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さて、待ち合わせの日の朝。急に彼女からメールが届きました。
「急用ができて、今日は会えません。数日バタバタして会えません。また連絡します。」
私はあまり深く考えずに、「分かったよ。落ち着いたらメールしてね」と返信しました。
一週間ほど経ってから、彼女に久しぶりに会うことになりました。そこで、衝撃的なお話を聞いたのです。
私と会う約束をしていた日、彼女は朝、ゴミ捨てにいったそうです。そして、たまたま左手にゴミ袋を持って、ゴミを捨てました。帰宅後、薬指のダイヤの指輪がないことに気が付いたそうです。
「あ、ゴミを捨てた時に、指輪が外れちゃったんだ。」
と、旦那さんと二人でゴミを捨てた場所に行きました。この時点では、すぐに指輪が見つかるだろうと思っていたそうです。彼女が捨てたゴミ袋を中心に指輪を探しましたが、全然見つかりません。その日は全ての予定をキャンセルして、指輪をずっと探したそうですが、見つかりませんでした。
毎日、二人でゴミを漁って、指輪を探しました。数日後、ゴミ収集車がゴミを回収してしまいました。最終的に、ご夫婦は地域のごみ収集場まで行き、ゴミの中、指輪を探したそうですが、見つかりません。
ある日のこと、彼女が指輪を探していた時に、ゴミの中に紛れていたガラスの破片で、指を怪我してしまいました。すると旦那さんが、
「もう探すのはやめよう。君が怪我をした傷口から細菌でも入ったら大変だ。指輪は諦めよう」
と言ったそうです。彼女もそれで吹っ切れて、二人は指輪を諦めたと言いました。
「『どうしてあの時左手でゴミを捨てたんだろう?』って、最初は後悔したよ。いつもは右手で捨ててるはずだから。でも、怪我をした時にすぐに心配してくれる夫がいて、指輪はもう探さなくていいかなって思った。」
このお話をした後の彼女の顔は、すっきりしたような表情でした。
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創作みたいですよね。理想的なエンディングのお伽話みたい。でも、ノンフィクションです。
話を聞いていて、自分が2人の立場だったら、同じことが言えたんだろうか?と考えました。お若いご夫婦にとって、ダイヤの指輪はきっと色々な思い出がつまっていたはずです。
でも、「指輪よりも、妻の怪我が心配だから、探すのをやめよう。」と言い切った旦那さん、「夫がいてくれるから、いいかなって」と言う彼女。「一番大切なのはお互いの存在」というぶれない軸があるからこそ、婚約指輪がなくなっても、きちんときもちが切り替えられていたのです。夫婦として、こうありたいなぁという姿を、年下のご夫婦から教えていただきました。
今でも、自分の婚約指輪を見ると、このご夫婦のことを時々思い出します。2人が今も幸せでいてほしいな、願わくば、また彼女の左手の薬指には、ダイヤの指輪が光っていてほしいなと思うのです。