おぼろげな昔話

駅前にあったビデオ レンタル屋。
たまに利用していたけれど、よく見かける店員さんがいた。
女性で、見た目は30〜40代くらい。
どことなくパンクな雰囲気を漂わせていた。
もう一人、似たような雰囲気の女性店員がいた。
ルックスはさほど似ていないのだけど、服装や佇まいがどことなく似ていて、僕の中で勝手に「パンク姉妹」と認識していた。

そのビデオ屋は、けっこう前に潰れてしまった。

そのレンタル屋の並びに、パスタのチェーン店が入っていた。
味はそこそこで、値段も安かったので、よく使っていた。
その店の某店員さんのことを、今でもなんとなく覚えている。
年齢は30代くらいだろうか。
黒縁メガネで、ちょっと髭が濃くて、失礼な言い方だけれど野暮ったい印象。
でも接客は丁寧で、嫌な印象はなかった。
とある日、食事を終えてお会計をしようと出口に向かうと、その店員さんが他のお客さん(年配の女性)と立ち話をしていた。
その口ぶりから、二人はどうやら親しい間柄のようだった。
親子とまではいかないけれど、親戚くらいの感じ。
真面目な店員さんのプライベートをちょっと覗いた気分だった。

その店も、何年も前に潰れてしまった。

駅近くの商業ビルに、パスタをメインにした洋食屋さんがあった。
そこのセットメニューがお気に入りで、ここにもよく行っていた。
常連というつもりはまったくなかったけれど、店長さんらしき人が僕の顔を覚えたらしい。
ある日のこと、いつものセットメニューを頼み終えた僕のところに、店長(仮)さんがやって来た。
今度、新しいメニューを出すんですが、よければ試食してもらえませんか?
もちろん、お代は結構ですので。
特に断る理由もなかったので、その申し出を受け入れた。
何を食べたのかは忘れてしまったけれど、その店の味は好きだったので、その料理もきっと美味しかったのだと思う。
店長(仮)さんは爽やかなイケメンで、30代くらいに見えた。

商業ビルの再開発に伴い、その店は閉店となり、リニューアル後も戻ってくることはなかった。

名前も知らない、顔も今となっては覚えていない、そんな「記憶の片隅にいる店員さん」のことを、ときどきふと思い出す。
あの店員さんたちは、いまでもどこかのお店で働いているんだろうか。
ビデオ レンタルはいまや斜陽産業だろうから、別の仕事に就いているんだろうなぁ。
あのチェーン店は、たぶんいまでもあるだろうから、別の店で働いているのかもな。
店長(仮)さん、仕事熱心だったし、接客も丁寧だったから、ひょっとしたら別のどこかで店を出しているかもしれない。

街のどこかで出会ったとしても、こっちも気づかないだろうし、向こうも気づかないだろう。
でも、できればみんな元気に暮らしていてほしいな。
親友でもないし、だからといって赤の他人とも呼びづらい、かつてなんとなく知っていた人たち。
そんな人たちにも幸あれ。

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