「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」へ行ってきた
2020年8月、お盆休み中のインプットとして、「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」へ行ってきた。(写真はちょうど展示を見終えたところ、夕立の後で虹が出ていた)
デザイナーって、こんなにラフを描き、試行錯誤するものだったのか
展示を見て一番に感じたこと。デザイナーってこんなにラフを描くものなのか!という驚き。というか、そうだった!と。そういえば、美大でデザインの授業を受けていた頃は、たくさんスケッチをしたなと、当時のデザインプロセスを思い出した。
現在の自分の仕事、メディア制作のwebデザインでは、ある程度デザイン範囲や制作の流れがある。
イメージボードを作ったり、デザイン参考を探したりするものの、ワイヤーやサイトロゴの草案でいくつかラフを描いたりする程度。展示されているデザイナーたちほど大量にメモやラフを描くことがない。
もちろんそれは工数や求められている品質にも寄るし、制作フローにはない新たなプロジェクトのデザインに携わる時などは別だ。
第一線のデザイナーの「デザインのプロセス」の記録を目の当たりにして、ああ、デザインとはこういうものだったなと感じた。
普段何気なく接している、使っている場所、モノ、コトの裏側に、膨大な時間をかけて丁寧にデザインがされている。そんなことに気付かされた。
このような展示がなければ完成形にしか触れることができないので、貴重な機会だ。
単純に見ていてワクワクするし、同じように試行錯誤したくなる
勝手にクリエイターあるあるだと思っているけれど、人が書いたラフスケッチやちょっとした書き込み、試行錯誤の形跡を見ていると、とても楽しい。
見ていると、自分も何か描きたくなるし、同じようにあれやこれや考えてみたくなる。
と同時に、自分にはここまでアウトプットしたり、何度も書き直し・作り直しをして、細部のディティールを詰めたりなんかできないなぁ、と思ってしまう。でも、「いいなぁ、創造的だなぁ」と、創作意欲を掻き立てられる分には自由なので感慨深く眺めたりする。
デザイナーの頭の中がどうなっているのか、どうしてこのデザインに行き着いたのか。少しでもデザインプロセスを覗いてみたい、という人にはこの展示、おすすめ。
「質の高い仕事」にたくさん触れることが、デザイナーの成長にとって大事だと思う。
この展示で何を得られるか。デザイナーたちの様々な「原画」からインスピレーションを受け、自分はどのように「原画」を描くのが良いか考え、取り入れる。そのための展示に感じた。
展覧会ディレクターの田川 欣哉さんが書かれていたように、次の世代の「つくる人たち」にインスピレーションの種をまくことができていたと思う。
いきなりアウトプットをするのではなく、スケッチでイメージを固めてから試作品を重ね、デザインを制作する。
時には偶然性から気づきを得る。
普段からイメージや気になったことをスクラップしたり、書き留めてアウトプットしておく。
そんなことを学んだ展示だった。
特に気に入った、気になった展示
印象的だった展示がいくつか紹介。
グラフィックデザイナーの松永 真さん。
国際デザインコンペの条件は”花のイメージ”と”既存ロゴの使用”だった。納得できず、ストライプデザインと新しいロゴを提出し、優勝した。
コンペの条件を無視して優勝したことに驚いた。
デザイナーとは本来の課題を解決する、または対象の理想の未来の姿を考える。そのために、指定された条件が相応しくない場合は別の形を提案することも大事だと感じた。
こちらも松永 真さん。カルビーシンボルロゴの変化と試作。
制作したロゴがスタジアムなどでは長体で見られてしまうと考え調整されていた。それが実際にはどういった場所で使われ、どう見えるかを想定してデザインされている。
サイトロゴの作成では画面上のことだけ考えれば良いけれど、企業やサービスのロゴはそういった想定も必要なのだと初めて知った。
空間デザイナーの田中 俊行さんの原画。
リトルワールド実物資料スケッチ
多彩な展示資料を1/10同スケールで描き上げ、これを基調に精神文化の体系を構築し、空間化するのがプランニングの第一歩である。
野外民族博物館リトルワールド本館展示「価値」のミュージアムデザインの構造を作られた際の原画。これを見て、「こんな一つ一つの資料をスケッチする必要があるのか?!写真を並べるのではなく…」と思った。
写真ではなくスケッチをすることで、
・背景などの余分な情報を削ぎ落とした資料を作る
・展示対象の資料を理解する
ということなのかな、と想像した。
ただ飾り付けて「綺麗だった」「かっこよかった」と享受させるのではなく知的参加させるような構成を考え、それが成功することに醍醐味があるという、田中さんのミュージアムデザインの姿勢の表れかもしれない。
展示の空間デザインというのは、なかなか触れる機会のない仕事だったので興味深かった。
照明デザイナーの面出 薫さんのスケッチ。
照明のデザインってこういう感じなのか、と見ていて面白かった
グラフィックデザイナー原 研哉さんの原画。
構想のためのスケッチ
社会の未来構想やサービスの構想には「ポンチ絵」と呼ばれる略画を描きつつ進めることが多い。原デザイン研究所、構想時の概念図も。
インフォグラフィックでも、メモ書きでもなく考えていることをこのように絵としてビジュアル化してまとめるのが面白いと感じた。
グラフィックデザイナー佐藤 卓さんの原画。
ロゴスケッチを図書カードのようなカードに描き、並べているのが印象的だった。カード状にすることで、スケッチを扱いやすくしていると感じた。
他の手帳などのスケッチも小さめだったので、佐藤さんにはこれがちょうど良いサイズだったのかもしれない。
建築家の隈 研吾さんの原画展示。
高輪ゲートウェイ駅の試作モデルの下に、大量のメモ書きが敷き詰めれている様子に驚いた。
このメモ書きについて、隈さんはマル秘展のインタビューで下記のように仰っていた。
そうやって自分が試していると、自分のやっていることが何かっていうのが時々、訳わかんなくなっちゃうことがあるから、で、プロジェクトがある程度できた時とか、ちょっと途中でキリの良い時とかに、またこういうプロジェクトの自分の意図を書くと「あ、そうか俺のこのプロジェクトの今やってることはこうなんだ」って、その時わかるみたいなところがある訳ですよ。
だから日頃の打ち合わせでいうと、あ、こここうしようとかここ何色にしようとか何とかいって、ある種、スポーツのラリーみたいな感じで球がこう飛んできたらそれをどう打ち返すかみたいな感じでやっているから何やっているかわかんなくなっちゃうから、それを文章に時々まとめるってことをやっていて、それでそれは、本もそういう風な感じで常時書き続けているわけですよ。
その本を書くっていう作業は、そのプロジェクトとか全体を今度は俯瞰的に見てそれを本に、最近この10年やっていることはここかな、といって本を書いているわけで、それが手書きでだいたい飛行機の中で書いているんだけど、飛行機の中で一番手書きがラクで、離着陸の時でもずっと手書きで書けるから…で、それはかなりの分量の文章を書いてますね
(中略)
本当にカオス、カオス、カオス的な日常のなかを旅しているわけだけど、それが文章に書くと、なんかそのカオスの中に一つの流れがまた見えてくるっていう感じかな
展示の中で気になったことがあれば、マル秘展の公式サイトに公開されているインタビューも併せて聴いてみるのもおすすめ。
今回のインプットを何に活かすのか
今回の展示を見て、
・普段から気になったこと、気づいたことがあればスクラップしたり、アウトプットしておく
・気軽にメモやスケッチをして手を動かす、思考のプロセスを残す
・表面的なデザインではなく、課題を解決したり、新しい価値を提供するデザインを提案する
ということを今後の生活やデザイン制作に取り入れようと感じた。
「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」は、会期を延長して 2020年9月22日(火・祝)まで開催されているため、興味を持った方はぜひ足を運んでみてほしい。
(※2020年6月1日より、事前予約制による来館受付)
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