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【春秋一話】 9月 東京2020大会と女性活躍推進

2021年9月20日第7110・7111合併号

 シンガーソングライターの松任谷由実さんが昨年12月に「深海の街」というアルバムをリリースした。
 アルバム制作中にコロナ禍となり外出自粛を余儀なくされたが、地球規模で人類に影響を与え、世界史に残るような2020年にこそ、楽曲をアルバムとして記すべきという強い想いを持ってリリースしたそうである。
 このアルバムに「1920」という曲が収録されている。彼女の母親が2020年5月に百歳を迎えたがコロナ禍で施設に会いに行くこともできず、母の生まれた年について調べたところ、世界的なスペイン風邪の流行、オリンピックの開催など2020年との共通項がいくつも見つかり、そこからこの曲のイメージが膨らんでいったという。
 1920年のオリンピックは、第1次世界大戦終戦後のベルギー・アントワープで開催されたが、敗戦国の出場禁止、2年ほど前からのスペイン風邪の流行、資金難による宣伝不足など、困難を極めた中での開催だった。「1920」には「空席だらけのコロシアム」という一節があり、まるで今回の大会を予知したかのようだ。
 1年延期された東京2020大会だが、直前になっても新型コロナウイルスの猛威は衰えるどころか感染は拡大し、東京など緊急事態宣言が発令される中、競技場はほぼ無観客という前例のない大会となった。幸い感染が爆発的に広がるなどの最悪の事態は避けられ、最終的にはその開催を肯定的に捉える人が6割を超えていたとの報道の中、全日程を終えた。
 今回の東京大会は男女共同参画についても注目される大会となった。各種競技では男女の種目が同等になるように確保され、男女混合競技も前回大会から倍増の18種目となっていた。また開会式では全ての国、団体で男女1名ずつのアスリートが旗を掲げ、大会ビジョンの「多様性と調和」を表していた。
 このビジョンは「あらゆる分野で男女が共に参画し女性の活躍が進むことが豊かで活力ある持続可能な社会を生み出し、暮らしやすい社会の実現に貢献すること」を目指すとされた。国内における女性活躍推進への取組は、2003年に内閣府から「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する」との目標が設定されたが、直近2019年の統計を見ても米国などで40%を超えているのに比べ、日本は15%に至っていない。
 昨年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」では公務員だけでなく民間企業においても係長相当職の女性割合30%以上の目標を2025年までと5年延長している。日本郵政グループが発表している中期経営計画「JPビジョン2025」においては「本社における女性管理者比率を2030年までに30%以上とする」とあるが、本社以外の組織においては「環境整備・人材育成に取り組む」とあり数値目標は設定されていないようだ。
 本紙に連載を掲載している前川孝雄氏が6月7日号で「女性管理職比率向上は社会の枠組み改革とセットで進める視点が大事」と書いている。
 今大会開催前の組織委員長の発言、女子ボクシング競技で金メダルに輝いた選手に対するテレビ解説者の発言など、女性に対する蔑視発言が報道された。
 これまで日本国内では目くじらを立てるほどのことではないと見過ごされてきていたが、このような古い意識の改革が基本だろう。今回の東京2020大会が、社会、企業の古いパラダイムの変革につながる契機になればと願う。
(多摩の翡翠)

カワセミのコピー


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