【春秋一話】01月 「お客さま第一」の実践とは
2022年1月24日 第7128号
今年も日本橋郵便局で2022年年賀元旦配達出発式が行われた。日本郵便は2022年元旦に配達された年賀郵便物数の速報値が前年比11%減の10億3000万通だったと発表した。
2011年に20億枚を超えていた年賀状も毎年減少している。以前から虚礼廃止により企業が年賀状を取りやめる話題はあったが、今年はさらにSDGsへの機運の高まりや新型コロナ感染の影響もあったのではないだろうか。
社会環境やお客さまの意向により製品の売上が左右されることはあるが、お客さまに自社商品やサービスを選んでいただくためには従業員一人ひとりが「お客さま第一」の意識を持つことが欠かせない。
先日、本紙に「変化を読む経営」を連載している小宮一慶氏が主催するセミナーで「お客さま第一」の実践についてある企業の話を聞いた。
その企業は「神奈川ナブコ」という自動ドアのメンテナンスを主な事業としている会社である。創業は1965年、2000年に創業時の社長である父から現社長の原信治氏が会社を引き継いだ。
会社では創業当初から、お客さまを大切にするという考え方に基づき会社が運営されていたが、原氏が引き継いだ時点でも全社で徹底されているという状態ではなかった。また、24時間休日もなく自動ドアのメンテナンスをしている関係から労働時間の問題等があり、離職率が高いことも新社長にとっての課題だった。
そこで原氏は試行錯誤の後に、社員に対して「お客さまに喜ばれる行動目標」を立てさせることとした。
新たな施策の導入に対してよくあることだが、やはり初めは抵抗勢力が出たという。しかし3年目くらいからお客さまの評価が変わってきた。あるお客さまから請求した金額よりも2万円多く振り込まれたことがあり、問い合わせすると、あれだけの仕事をしてくれたのに安すぎると言って多く振り込んだと言われた。
最初は抵抗勢力だった社員が始めると、他の社員も熱心に取り組みをし始めたという。中でも抵抗勢力の一人で電話を受け付ける女性内務社員がいた。自動ドアの故障の電話を受け付けるのがほとんどで、以前はメンテナンス担当者にそのまま取り次ぐだけだったが、行動目標として自分で何かできないかと電話があった際に、自分でマニュアルを調べお客さまへの対応をすることにした。
そのことで故障の電話の5割が修復してお客さまから大変喜ばれ、自分自身にも喜びになったとのことである。また、その頃から離職する社員もほとんどいなくなったそうである。
小宮氏は「良い仕事」の定義は3つあり、「お客さまが喜ぶこと」「働く仲間が喜ぶこと」「工夫すること」だと言う。
一人ひとりの社員が工夫をして行動することにより、そのことが結果的にお客さまの喜びや働く仲間の喜びに繋がっていき、そして会社が発展していく。このような会社が「良い会社」と言われるのではないだろうか。
日本郵便の衣川社長は1月3日号に掲載されたインタビューで「『人』すなわち『社員』が事業発展の原動力であると考えており、『社員を大切にする企業』を目指していきたいと考えている」と述べている。
昨年10月からの土曜日の配達休止、今月から始まる送達日数の繰り下げ、4月からは金融渉外社員の転籍など、お客さまへのサービスが変革する年、社員一人ひとりの工夫、そしてそれをフォローする会社の体制が試される一年になるのではないだろうか。
(多摩の翡翠)