「写真の創作」って何?(5)・・写真は映像の単なるコレクション?
コレクションとしての写真
写真を撮る。様々な動機はあるけれど、撮影するのは、それを撮りたいと思うからである。撮りたい感情の裏にある、なんらかの「テーマ」。撮りたいものが見つかったとき、その発見に喜び、シャッターを切る。結果として、撮影者のもつものの見方やテーマに従った「写真の集団」が残る。シャッターを切るにあたり、「構図を決めて」・・・なんて創作の要素は確かにあるが、総じて言えば、被写体の発見と、その映像の記録。撮りたい=取りたい=所有したい。そして、結果として、収集となる。それって、コレクションですね。
ミニカーのコレクション、骨董のコレクション、切手のコレクション。コレクションって色々あるけれど、要は好きなものを集めたいという、人間の本能のようなものですね。
写真は、物のコレクションにあたって、その映像のみを取り出し、集めることができるので、コレクションのための便利なツールと言えます。例えば、これはクリップの写真。色々な種類のクリップを写真に撮って、並べました。え? 何のためかって・・これはクリップを用いたとある課題のための資料として集めました。
しかし、こういった写真に「創作性」って感じますか? あまり感じないと思うのですがいかがでしょう。確かに、多種類のものを沢山集めたら、それだけで情報としての価値は高まりますが、それは、創作なのでしょうか?
色々写真を沢山撮ったけれど、単に、ある切り口で被写体の映像を集めただけでしかない・・としたら、創作性をあまり感じないのではないか、というのが今回の疑問です。創作性を発揮したと言えるような、集め方ってあるのでしょうか?
編集著作物としての写真集
単に写真を集めただけでは、コレクション止まりとなり、それだけで著作物性を発揮するのは弱そうなので、そこからさらに進んで、何らかの編集作業が必要となってきそうですね。その編集において何らかの創意工夫があればそれは編集著作物ということになります。
著作権法には次の規定があります。
素材の選択or配列ですから、選択と配列の少なくともいずれかに創意工夫が見られれば良いようですね。
スティーブン・ギルは、アルル国際写真祭で写真集アワードを受賞している写真家ですが、彼は、モーションセンサー付きのカメラで、杭に飛来する鳥などを自動撮影し、その中から選んだ写真で写真集を制作しています。モーションセンサー付きのカメラを設置する位置等は決めたにせよ、写真自体はカメラが勝手に撮っているわけですから、その限りでは写真の創作はカメラということになりますね。
しかし、撮られた写真を選択し、作者の意図にしたがって並べ直し、写真集として完成させる行為は、「素材の選択又は配列」に該当します。それによつて「創作性を有する」ことになれば、著作物として保護されるということになるわけです。
https://imaonline.jp/articles/interview/20171128stephen-gill_1/#page-1
タイポロジーという手法の創作性
組写真の手法のひとつに、タイポロジーという手法があります。ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻が確立したとされる手法です。給水塔など、同じ種類の対象を被写体として集めた写真集です。
https://www.pinterest.jp/pin/343610646555566092/
当初は「記録」としか評価されなかったようですが、根気よく続けたことで、評価されたようです。
https://artscape.jp/dictionary/modern/1198150_1637.html
この手法で撮影した組み写真として、以前書いた記事:良い写真とは何かで、紫陽花の写真をご紹介しました。
これが、もし、紫陽花の写真をその姿をリアルに撮影し、集めて並べたとしたら、それは単なる紫陽花の写真の記録・収集に過ぎないということとなり、ひいては、植物図鑑と同じだということになってしまいそうです。植物学者の牧野富太郎博士は、多くの植物をスケッチして図鑑を作りました(牧野日本植物図鑑)。スケッチした絵は写実的で上手ですが、彼を画家だと言う方はいませんね。もし、植物図鑑として、植物の写真を撮って並べたらどうでしょう。その図鑑は、編集著作物として著作物性は認められると思いますが、それを作成した人を、写真家と言うでしょうか。
タイポロジーは、個々の写真の創作性だけではなく、編集著作物として、写真の選択と配列にその創作性が認められ、編集著作物として評価される手法かと思います。コレクション止まりから一歩進め、集めた写真から特定の切り口で写真を選択し、並べ直して、組写真を作ってみることを試してみたいものです。
他人の写真を自分の作品に???・・カメラを持たない写真家トーマス・ルフの創作性とは
トーマス・ルフは、タイポロジーを確立したベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻に師事した写真家ですが、作品制作のために自らカメラのシャッターを押したのは2003年が最後とのことで、インターネットやNASAから入手した既存の画像を加工して自らの作品とする・・としています。
https://www.cinra.net/article/interview-201701-thomasruff
ここに、こんなインタビューが記載されています。
彼の問題提起は、「インターネットの登場以後の一番の問題は、人々がしっかり見ることをしなくなったことです。」(ルフ)ということです。
そのために、インターネット上の写真を借りてきて、作品化しているようです。
この場合、元の写真の創作はルフではないけれど、それを素材として利用し、自分の表現としている、その部分にルフの創作性があるということになりますね。
これを評して、他人の著作物を改変して自分の表現にすることで、著作権問題を解消している旨の説明をしている評論を目にしたことがありますが、それは大きな誤解で、著作権問題には注意が必要です。
著作権法上注意すべきこと
著作権法を見てみましょう
第二十条 (同一性保持権)著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
著作者の許可なしに、他人の写真を勝手に改変することはできません。
第二十一条(複製権) 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
何らの権原なしに、他人の著作物を複製できません。
第二十七条(翻訳権、翻案権等) 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
他人の写真を勝手に利用して絵画など別の著作物を作ることはできません。
以上は日本の著作権法の話ですが、ルフはドイツ人ですが、ドイツ法も同様な規定があります。ルフは何らかの著作権対応はしているはずです。https://www.cric.or.jp/db/world/germany/germany_c1a.html#1_42
他人の著作物を利用するときは注意を要します。
パロディモンタージュ事件が有名ですね。
アートぺディア
ルフの創作は、写真というものを素材として使ってはいますが、やっていることはもはや「写真の創作」の領域から離れ、まさに、「アート」そのものですね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?