【怪談】冬の夜の目
さびしい夜道をひとり歩いていました。
ときおり冷たい風が吹き抜けてゆきます。
両親の待つ家に急ぎ帰るところでした。
こんなに時刻が遅くなってしまったので
きっとひどく父に叱られることでしょう。
もう子どもでもないのに
いまだに私は父が怖いのです。
ふと不安になり、あたりを見まわしました。
誰かに見られているような気がしたのです。
見上げると、大きな目が光っていました。
でも、なんということはありません。
木の枝の間から満月が覗いていたのです。
それにしても人の目にそっくりでした。
その目がまばたきをします。
私が歩くと視点の位置が変わるので
木の枝のまぶたが動くように見えるのです。
それは花も葉もない冬の桜の木でした。
私は立ち止まり、しばらく
その枝越しの満月を見上げ続けました。
本当に目としか見えないのでした。
だんだん私は腹が立ってきました。
そして、こんなふうに叫んだのです。
「そんないやらしい目で私を見ないで!」
突然、その目がつぶれてしまいました。
カラスが飛び立って、枝の形の邪魔をしたのです。
あるいは、その鳥はフクロウだったかもしれません。
すぐに私は家まで走って帰りました。
玄関に入ると、そこに父が立っていました。
「・・・・遅くなってごめんなさい」
いつものように私は謝りました。
けれど、今夜の父は
いつものように私を叱ろうとはしませんでした。
ただ黙って片目でじっと私を見るのです。
そして、なぜか今夜の父は
不自然に片目を手で押さえているのでした。
The Eye of Winter Night
I was walking alone on a lonely night road.
Sometimes a cold wind blew through.
I was about to leave the house waiting for my parents.
My time has been late so much,
surely my father will scold me violently.
Even though I am not a child anymore,
I am still afraid of my father.
I suddenly became uneasy and looked around.
I felt like I was being seen by someone.
Looking up, a big eye was shining.
But there is nothing like that.
The full moon was peeping through the tree branches.
Even so, it looked like a human eye.
That eye blinked.
When I walk, the position of the viewpoint changes,
so the eyelid of the tree branches appear to move.
It was a winter cherry tree without flowers and leaves.
I stopped and kept looking up at the full moon
for a while for that branch.
It really looked like an eye.
More and more, I got angry.
And I cried like this.
"Do not look at me with such a naughty eye!"
Suddenly the eye collapsed.
The crow flew away and disturbed the shape of the branches.
Or the bird may have been an owl.
Immediately back to my parents' home I ran away.
When I entered the entrance, my father was standing there.
"Sorry for being late."
I apologized as usual.
However, my father tonight did not scold me as usual.
He just keeps a quiet state
and looks at me staring at one eye.
And for some reason
my father tonight was holding one eye by hand unnaturally.