"深い"と"不快"の両立 『The Last of Us Part II』クリアレビュー

注 ネタバレを多分に含んでいるレビューである。


◆「復習」することで「復讐」を明確化

まずプレイするにあたり、前作の『The Last of Us』(以下『1』)のプレイは必須だ。しっかりとした続編なので、プレイしたほうがキャラクターの背景がわかり、物語に浸りやすい。前作はPS3の作品だが、PS4では『The Last of Us Remastered』が発売されており、そこまで長いゲームでもないので事前のプレイを強くオススメしたい。

『1』からのプレイヤーならば、おそらくエリーのことが好きである。もちろん自分もエリーのことは好きだ。『1』の主人公・ジョエルと長旅をして、様々なトラブルを乗り越え、時間を重ねていくことでジョエルと心が打ち解けていく課程がとても良かった。

また、細身の少女ながらも戦闘や探索のサポートをし、ジョエルが重症を負ったときには甲斐甲斐しく手当をしてくれる。『1』の冬編になると、エリーを操作することになるのだが、困難な目にあっても頑張るエリーに惹かれていくのだ。


◆アビーパートは必要なのだろうか?

序盤にてチュートリアルも兼ねてたくましく強そうな女性を操作するのだが、「誰だ、この人?」と戸惑ってしまった。

やがてストーリーを進めていくうちに、プレイヤーはこの女性・アビーにとてつもない嫌悪感を抱くことになる。エリーの目の前でアビーを中心とした仲間によってジョエルが撲殺されるのだ。

今作のテーマが「復讐」と聞き、PVやゲーム映像がエリーばっかりなので、「これは、ジョエルに何かあったから復讐するんだな」と察することは容易だった。

それゆえに、ジョエルが序盤に殺されても覚悟があったので実はそこまで驚きはなかった。復讐の鬼と化すのは、それくらいのことをされないと心は動かないと思うので、エリーの動機付けとしては正解である。

このジョエルの死がきっかけでエリーはアビーに憎しみを抱き、ジョエルを殺した現場にいた人たちを殺すという復讐の旅が始まるのがエリーパートの軸となる。

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次々とあの時にいたメンバー達を探し出しては殺めていくエリーだが、あともう少しで復讐が終わるところで、アビーがエリー達の隠れ家に襲来。ここで話がさかのぼり、アビー側での"1日目"が始まる。

つまり、これまでエリー側でプレイしてきた物語がアビー側視点で描かれることになるのだ。

アビー側では、過去に父親(『1』の終盤の病院にいた医者)がジョエルによって殺されたことが明らかになり、そしてアビーの仲間達がエリーによって殺されていくストーリーが描かれていくので、全般としてお互いの復讐が復讐を生むという泥沼な展開になってしまう。

一つの物語としては多角的に見ることができ、重厚かつ深みが増すことになるのだが、やはりプレイヤーはどうしてもエリー側に肩入れしてしまうのだ。

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進行していくうちにアビーは"仲間殺しの最大の敵"になるエリーと対峙するのだが(エリー視点で言うと隠れ家に襲来された時の別アングル)、プレイヤー自身がアビーを操作してヒロインでもあるエリーと闘わなければならなく、また戦闘にしくじるとエリーから残虐に殺されてしまうので、どうにも脳内で矛盾が発生してしまうのだ。

要するに、ゲームをプレイするにあたり、ずっとエリー側視点で進行してもいいのではないかと思った。少なくとも『1』では、敵組織の事情など知ったことかとばかりにジョエル(エリー)視点だけで物語が進んでいた。

アビー側では「操作したいのはエリーのほうなのになぁ」とどこか頭の片隅に置きながら長いプレイを強いられることになる。仮にこういう展開にするならば、DLCもしくは単体販売でもいいのではないかと思った。『2』からプレイした新規層はそこまで違和感が無いのかもしれないが(『2』からのプレイはオススメしないけど)、『1』からのプレイヤーはエリーが敵になる展開はただたたキツイのだ。


◆ゲームシステムはしっかりと進化

誤解しないでほしいが、こうした長い矛盾を抱えながらもサバイバルアクションゲームとしては、どちら側の視点でもしっかりと面白い。個人的には銃撃プレイよりもこっそりと近づきステルスキルをするほうが好きなので、気づいてない敵の進行方向を予測・確認しつつ、背丈が高い草の中を匍匐前進を駆使して静かに殺せるのは、前作と比べてプレイしやすくなった。

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また「回避」が可能になったので、近接戦闘にて敵の攻撃のタイミングに合わせて回避するも楽しい。銃撃、隠密、近接と戦闘に幅が広がったのは良かった。

その他、ジャンプで向こう岸へ到達するアクションが増え、ロープをよじ登ったり振り子でジャンプしたり、建物の中のガラスを割って素材を拾ったりするなどの探索面アクションも豊富になった。マップが広くなったぶん、探索要素がより色濃くなったとも感じる。

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たとえ死んでも直前で再開されるし、難易度ノーマルでプレイしても戦闘面・アクション面でのストレスはまったく感じなかった。ゲームとしては純粋に面白い、という感想である。


◆マルチプレイがなくなったのは残念
物語が長く、重く、そして濃密なこともあって周回プレイはしづらい。それゆえに『1』には搭載されていたマルチプレイが無いのは残念である。

『1』のマルチプレイは、単純な銃撃戦ではなく、少ない弾薬で物資を奪い合うというステルスプレイがキモとなり、他のTPSにはない独特の魅力があった。

まだ『リマスター』でマルチプレイのサーバーが稼働しているが、今作にあった廃墟ビルや2階建てマップ、「スカー」の村など、マルチプレイにしたら面白そうなマップがたくさんあるので、いつか移行・進化してほしい。


◆総評
後味がものすごく悪いので、純粋なハッピーエンドや読後感が良いゲームが好きな人にはオススメしない。また、犬を殺すことになるので、犬好きにもオススメしない。そして、妊婦を殺めたり、人体欠損表現や同性愛の表現があるので、それらのことに抵抗がある人もプレイしないほうがいい。

物語としては完結したわけではなく、数年後、PS5で『3』が発売されそうな気もする。海外ドラマで言えば「シーズン3」だ。そうなると、あれだけ殺し合いをしていたエリーとアビーは共闘するんじゃないかと思ってしまうのだ。その展開があったらプレイヤーは果たして納得するのだろうか。そしていつか訪れる物語の本当の終焉も気になるところである。

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『1』よりも心がえぐられるような演出・ストーリーが続き、良い意味でも悪い意味でも印象に残る作品。『ブレイキング・バッド』を完遂したかのような、心にずっとこびりつくザラザラ感があるゲームだった。

決してつまんないわけではないし、当たり障りの無い作品よりもこういう作品のほうが「長く語れる」わけである。仮にエリー編だけのゲームならば「ややボリューム不足ではあるが無難にまとまっている凡庸な作品」という評価が下された可能性もある。おそらく、ノーティドッグとしては賛否両論になる展開こそ想定内であり、我々は手のひらの上で転がされているのだろう。

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