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幸福に欠かせない第一の財宝【コラム】

われわれ老人は、自分のことをどうにかするだけで手一杯だ。自然が与えてくれた楽しみは、老いとともに次第になくなっていくのだから、人為的な楽しみで自分を支えていこうではないか。モンテーニュはウィットに富んだ言い方で、老年の楽しみのあり方を『エセー』でそう提言する。

一方、ショーペンハウアーは『幸福について』という処世術箴言集のなかで、人は金銭や土地といった財産(第二の財宝)や名誉や地位(第三の財宝)といったものを追い求めがちだが、第一の財宝ともいうべき人の在り方、すなわち人柄や健康、道徳的性格、知性を含む人間性ともいうべき内面的性質が最も「幸福」に寄与する大切なものなのだと力説する。

閑話休題、過日、東京成増アクトホールで開催された「ハーモニカバンドさくら」の定期演奏会を裏方で手伝わせていただいた。メンバーは総勢19名、若い人も見受けられるがほぼ70代の熟年世代が中心で80代の方も3名、圧倒的に女性が多い。クロマチック教室から出発した楽団だけあって、主旋律は主にクロマチックがとりバリトンハーモニカとそこに最近、複音パートが加わった。

ステージに居並ぶ姿は少しも年齢というものを感じさせない。演奏する曲も「ウエスト・サイド・ストーリー」や「キャラバン」、「シング・シング・シング」などリズムが難しいジャジーな楽曲。本番のステージ第一部は桜色のドレスで登場、第二部はそれぞれが赤やピンク、黄色やブルーなど色とりどりの華やかな衣装に身を包み、溌剌と若々しい。モンテーニュの提言そのままに、音楽こそ自分たちの楽しみということを身体全体で表している。

定期演奏会と半年の間を空けて「ハーモニカオーケストラ・ジョイントコンサート」、二つのコンサートを継続して毎年取り組んでいく予定という。「生命は運動にある」とのアリストテレスの言葉さながら、「美」を求め、音楽を仕上げていく「力」は人間の幸福には欠かせない第一の財宝そのものだ。コンサートを終えて居酒屋での打ち上げは和やかな熱気にあふれ、次なるコンサートに向けてがんばろうと気勢もあがる。

やや宣伝めくが9月30日の「響け心に! 大アンサンブルの競演」とうたったこのコンサート。「さくら」をはじめ、結成30周年を迎えるわが「愛川ハーモニカアンサンブル」「あつぎグランドハーモニカアンサンブル」「新象潟ハーモニカアンサンブル」も出演する。多くの方に足をお運びいただきたい。

※ハーモニカイベント情報はこちらを参照


(2024.4 ハーモニカライフ104号に掲載)

岡本吉生
-Profile-

日本唯一のハーモニカ専門店「コアアートスクエア」の代表。教室を主宰するほか、1996年にはカルテット「The Who-hooo」を結成。全国各地に招かれて演奏活動を続ける。
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