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akanesasu 3

episode 3

   辺りは暗く、方々から虫の声がする。昼間は日差しが強く暑いが夜は風も涼しくて、それが林の中だとたまに寒く感じられるくらいだ。
 ちょっとした湧水湖があるからその湖畔でキャンプをはる予定で、今回は水をあまり持ってこなくて済んだのは有り難かった。予定通り湖畔に着き飲食用の水を補給すると、隊員たちは久しぶりに水浴びもできる。隊員全員が終わったのを見計らってジャンニも水浴びをしていたのだが、湖に入った瞬間、目線の先の林に見慣れた姿が見えた。
 髪も服も白いのが満月の光しかない中でいい感じに影に溶け込み、ゆったりと歩く姿も相まって幽霊でしかない。
「戦場で死んだのか?」
聞いてみたところ、
「何でそんなに殺してーんだよ」
と、今回も本物のクガイだった。

  「地図見てたら道がこの森を迂回してたから、突っ切れば早いと思ったら案の定な。人いるとは思わなかったけどよ」
と、散歩がてらフラリとやって来たのか片手に瓢箪を下げている。
外で真っ裸なのもなと服を着たまま入っていたのでそのまま水から上がり、用意していたタオルで拭きながら尋ねた。
「君の部隊は森の向こうなのかい?進軍が予定より早いな」
「いや、部隊はもっと後ろだな。聞いてた所に敵部隊がいなかったからまあ偵察ってとこだ」
 とにかくクガイはものすごく強い。
1人で偵察などしていたら、敵部隊を見つけた日には、味方が来る前に全滅させてしまうのではないだろうか。
「聞いてくれたら良かったのに。どうせ森のどこかに派遣されるんだろうと思って、この辺の山や森林の地形は把握しておいたんだよ」
と言っている横で、ザブンと水に入る音がした。潔いというか、全てのものが脱ぎ捨ててある。
「そういやそうだったな」
水深が深い方に移動しながら呟くように言った。
「まあでも、近くに派遣されるとも知らなかったしなあ」
 近くに派遣されてるわけでもないしな。
思いながら、湖畔の木の一つに登った。
 月明かりしかない中であまりに岸から離れるのが危なげで、広く見渡せる所にいた方が良いと思ったからだ。
 別に誰に対しても幽霊かと疑うわけではないのだ。クガイに対してつい言ってしまうのは、多分存在の輪郭の曖昧さのようなものを感じていて、それが自分と呼応してしまうからかもしれない。
 こんな月の綺麗な夜なら、ふっと掻き消えても誰も気づかないんじゃないかとか、水浴びをしながら自分だって考えていたのだから。
「そんなに行くと危ないぞ、もう戻れ!」
慌てて声をかけ、戻ってくるのを確かめてから、ジャンニは木から降りた。

   声をかけられたクガイははたと我に還った。
なぜか向こう岸まで行こうと思い進み続けていたのだが、もう足がつかないほど深い場所で、湖の半ばだ。
 自分がどこに向かおうとしていたのか良くわからない。
 声の場所を探すと湖畔の木の上で、戻りだすのを確認すると身軽に木から飛び降りている。
 いやホントに。今1人じゃなくて良かった。
我にかえってみると体もかなり冷えているし、これ以上浸かっているとうまく泳げなくなるところだった。
 元いた湖畔よりは木の方が近かったのでそっちに向かって泳いでいると、ジャンニが服を取りに走り、また木の元に戻って来た。
 ちょっと青ざめるほど焦っている。
岸辺に泳ぎつくと急いで手を差し伸べ、湖畔に上げた。
「何をやってるんだ、君は」
珍しく怒りを含んだ声で言ったが、ふとクガイの姿を見て、持って来た服を投げつけて言った。
「とにかく、まず服を着ろ」
そして、木の反対側に行ってしまった。
「何に怒ってんのかしんねーけど、まあ悪かったよ」
 服を着終わってから木の裏側に回って言うと、そこで腕組みをして寄りかかっている横顔がちょっと赤い。

   急いで木の反対側に行ったジャンニは、そこで心底自分が恥ずかしくなっていた。
クガイの全裸を見てその部分に目が行ってしまい、ほとんど走馬灯のように体を重ねた全ての感覚が体に過ぎったからだ。全然そんなシチュエーションでもないのに、下腹の奥がギュッと熱くなり、前もちょっと形を成しだしている。
 情けなくて仕方ない。頭から追い払いたいし何とか落ち着きたいのに、頭の中でそればかりぐるぐる回りどうにもならない。
 思ってしまっている。
あれを、早く自分の中に受け入れたいと。
そしてその行為を想像するだけで下腹の熱が疼き、もうどこにも力が入らないのだ。
腕組みをしている二の腕を掴み、クガイが言った。
「おい、大丈夫か?」

   掴まれた二の腕を外し困惑に揺れる目を逸らすのを見て、思わず動きが止まってしまった。恥ずかしさに耐えきれないような表情なのに頬には血が上っていて、吐息は熱を逃すようで少し荒い。
「…欲しいのか?」
もう、どう見てもそういう顔じゃないか。
「悪い。どうかしてるんだ私は。もう行くよ」
急いでキャンプに帰ろうとするのを、腕を引いて止めた。
「いいぜ。俺は別に」

   そんなことを言われると抑えが効かない。
 引き寄せられるままに戻ると、本当はさっきからしたかったことを。自分の中に欲しかったそれを、奪うように咥えた。
「…え、おい。ちょっと…っ」
予想外だったのだろうか。
 まだ繋がる準備ができていないそれは容易に奥まで咥え込めた。だがクガイが息をつめると同時に反応する。
 舌触りが良くなったのを確かめるように裏に舌を這わせながら舐め上げるが、湖に入ったばかりのせいで、ビー玉を舐めているように味がない。
それが何だか物足りなくて、根元にあるものを弄びながら、舌をまとわりつかせて先を吸った。
「…っ」
くぐもった声と共に滲み出て来たものを舌先で拭いとる。
 もっとこれが欲しい。
酔ったように気分が良くなり奥まで咥えた。
既に最大になったそれはえずくほどなのだが、喉の奥がこそばゆいようで、これがそこまで欲しいのだ。
 咥えたままで、はあっと息をすると、さらに奥まで飲み込んだ。

   うわ…これは…ヤバい。
 跪いて口と手を動かすのを木に寄りかかって見下ろしている体勢は、動きごとに膝が抜けそうになる。何とか手の力で支えているのだが、爪は木肌に食い込むほどだ。
 喉の奥壁に当たるまで飲み込まれたまま、舌が届く位置は満遍なく刺激される。空間なく咥えられ、裏に舌を沿わせながら口から引き出され、敏感なところをグルリと舐められて出口を抉られた。
「っん…っ」
思わず声が出て、快感が背筋を這い上がる。
 声に見上げた顔は極上のものを頬張っている美味しそうな顔で、その酔い溶けた表情は、腰回りに滞っていた熱さを下半身の一部に集めるに十分だった。
 根元にあるものを転がすように触りながら、大事そうに持ったそれを上から、下から、舌の腹や先で丁寧に味わっているのを見下ろしていると、頂点を迎えそうになる。
 何とか耐えたのに、先をチロリと舐められた後、咥えられて吸い上げられると限界を迎えてしまった。放出感が駆け抜けジャンニの頭を押し避ける。
「離れろっ」

  何か言われたような気がしたと思った時、遠ざける形で頭が押されているのに気づいた。
 イキそうなのか。
思った瞬間、腰骨に電流が走り奥が快感に絞られる。
「ふ…っんぅ…っ」
噛まないように気をつけていると咥えたものを外すのが遅れ、熱いものが顔にかかった。手を上げて防ぐとそこにも同じものがかかる。

   薄く涙に覆われた瞳と紅潮した顔でとろりと見上げたジャンニが、掌から腕に流れ落ちそうな白濁を舐め取ると口元のものもペロリと舐める。
 木の根元に滑り落ちるように座り込んだクガイは、その表情を見て聞いてみた。
「まさか、口でしてるだけでイッたのか?」
一気に現実に戻った顔になったかと思うと耳まで真っ赤になる。
 イッたんだな。
「これを洗って来るよ」
と、急に目の前の湖に飛び込んだ。
 あんだけのことしといて恥ずかしいのかよ。
呆れる気持ちもあるのだが、反面興奮もする。
 湖に頭まで潜って出てこないのを見ながら、これだけで終わるのでは収まらない気がしていた。

   挨拶もそこそこにテント内に押し倒されたジャンニは、まとめて持たれた手首を押さえる力の余りの強さに驚いた。
 自分も力は強い方なのに容易に解けそうにない。
 湖のことから3日後のこと。
 予想通り、見つけた敵隊を1人で駆逐してしまい、やることがなくなったクガイの隊が森を越えてジャンニの隊に合流している。ゲリラ部隊としてはここまでの人数はいらないので、今日は合流だけして明日は帰路につく算段だ。
 外では久しぶりの再会に火を囲んだちょっとした酒盛りが始まっており、ジャンニもそれに付き合っていたのだが、自隊はまだ戦闘継続予定なので明日のことを考えようと先にテントに戻った所だった。
 押さえられながら思い出した。そういえばクガイは、本当は体術が得意で絞め技が上手い。身軽さとスピードで勝負する自分とはおそらく基礎が違い、この状況で勝てるわけなどない。
 これから何が始まるかは予想がついたが、下を脱がされ手を縛られるのは流石に予想外だった。
「外に部下がいるんだよ」
声を低くして言ったのだが、
「そうだな、俺の部下もいるしな」
としれっと答えるだけだ。
 閉じようとする足の間に体を割り込ませられたらもう身動きが取れない。上を着たままで下は着ていないなど、その行為をするためだけの姿のようで恥ずかしいし、相手は着衣のままなのだ。

「君も服を脱いでくれよ」
 この状況は受け入れたと思われる恥を捨てて頼んだのに、あろうことか全裸に剥かれてしまった。
「なんでこうなるんだ!」
「外に聞こえるんじゃねえか?」
重ねるように言われると、抗議のセリフも飲み込むしかない。
確かに、外には人が動く気配がしていた。

   テント内の簡易的な寝具の上で、褐色の裸体がランプの光に照らされている。自分だけが自由に動ける状況でそれを眺め下ろしているのは、なかなか壮観だ。
 この一方的な状況に何から始めようかと思ったが、いつもと同じ手順の方が好きだろうと思い、耳を甘噛みしながら爪の裏で首筋をなぞる。それだけのことでびくりと仰け反ると、肩先にあるタオルケットを噛もうと横を向いた。
声を我慢するところが見たいから、敢えて口を塞いでいないのだ。
 なので何気なくタオルケットを近くから外すと、触れるか触れないかくらいの圧で胸の突端にキスを落とす。
 あっ、と声が出そうになったのを噛み殺すと片膝を立てた。そこに力を入れることで耐えようとするらしい。もう一方も指先で刺激すると、力が入った手首の紐がギチギチと鳴った。
 喉仏が見えるほど上向いている首を舐め上げると、首元を庇うように身を縮める。まつ毛は震えて涙を宿し、噛み締めた唇の端から短い呼気が洩れていた。
 形を確かめる手つきで耳介を撫でると、足の指がシーツを掴む。膝裏から腿にたどり、至った場所に指を挿し入れた。

   自分の中に異物が入る。
やっとそれに慣れたかと思うと異物が増え、またそこの異物を意識させられる。
異物は中を探るが、いい所はきれいに避けて触らない。

   指の動きに合わせて腰が勝手に動いた。
大丈夫な動きだとホッとすると力が抜ける。そこに不意打ちで好みの刺激が与えられ力が入る。
ひたすらそれが繰り返されると、意識が遠くなったり近くなったりしだした。
じわじわと意志が削られて行くに従って声が我慢できなくなって来て、ついに息遣いと共に声が漏れ出してしまう。
「…んっ!…んぅ…んん!ふ…っ」
 キスがあれば自力で声を我慢しなくてもいいのに。
 もっと体に触れてくれれば、中でならイケるのに。
 あの場所を触ってくれさえすれば、すぐにでも達するのに。
 そのどれもしてくれない
とにかく何でもいいからどれかをくれないか。
体なんて溶けてしまった気がする。
イキそうなのにイケないギリギリの快感だけが、指の動きとともに、体全体に寄せては返す。

助けてくれ

心の叫びが声になった時、両手が自由になった。

 目の焦点が消えては現れ、口元はずっと薄っすら開いたままだ。
もはや艶声に変わった吐息を割って、助けを求める言葉が震えてこぼれた。
拘束から解放された手が、そこにある何かを掴もうと頭上を探る。
 それを見て、中を探っていた指を抜くと、驚いたようにこちらを見た。
縋るような目を向けて来るので、尋ねてみる。
「何して欲しいんだよ」
 こんな状態なのにまだ恥ずかしさがあるらしい。
少し赤くなり涙に濡れた目で見上げる時間が数秒あった。
だが、やがて目を逸らして呟いた。
「…中に欲しい」
聞いてみただけだというように動かず見下ろしていると、いきなり両手を伸ばして来た。思いきり抱き寄せて、耳元で囁くように懇願する。
「…入れて欲しい。イキたい。もう許してくれ…」
切羽詰まった声色に満足し、体を離すとそのまま繋がった。

 急に最奥を抉られ激しく仰け反るのを、覆い被さるように抱きしめられる。
入っている形がわかる。
それを誘い込むように動く、自分の内壁を感じる。
 あぁイク。
 イク…っ
中に来る波に呼応して、反射的に腰が何度もシーツから跳ねた。
「…ぁ…ぁ、…っ、…ぁ、んぅ…ん…ぅ…」
自分のものではないかのように、体を全然制御できない。
抱きしめた形で動かないクガイが呟いた。
「うわ、すげ…。これ動いたらイクぞ」
「待て…っそれは、嫌だ…っあ、ぅぁ…っ!」
やっとのことで言うと、最後の波が来た。

 中も外も隙間なく触れ合いながらただ抱き合う形になった時、ふわりと思った。
ちゃんとここにクガイがいる。
それだけでこんなに安心できるなら、体だけの関係でも良いじゃないか。
 そのまま呼吸を整え落ち着いた後の、初めの圧を受け止めた。
求める通りに与えられる温かい快感は、心がとても気持ち良い。

 そうだよな、普通はこんな感じだよな、とクガイも思う。
 相手が感じている快感と自分が感じる快感が同じくらいで、向こうが高まるとこちらも同じように高まる。体の相性が良い時は、相手の声の調子でもなく体の反応でもなく、自分の状態で、今どのくらいで後どのくらいかわかる。
「…ぁ、クガイ、一緒に…っ」
言われた時はちょうど自分もイキそうな時で、吸い付くように抱きしめ抱きしめられた手にも同じだけの力が入る。
「…っあ、イク…っ!」
「…くっ」
 同時に走った痙攣は、今までの中では軽いものだったかもしれない。なのに後を引く快感が、放ち終わった後も余韻のようにくゆる。
「すげえ良かった」
心を満たす満足感に抱き合ったまま呟くと、ジャンニが言った。
「…消えるなよクガイ。…ちゃんとここにいろよ」
どういうことかわからないと思ったが、クガイは答えた。
「…ああ。わかったよ」

 外の騒ぎはまだ続いている。
それを2人でしばらく聞き、そのまま眠りについた。



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