読書感想文2022 その1ー氷の惑星でパン屋を探す
最近「言語化しない感想は死んでいく」という言説に触れて、なるほど~と思ったので、定期的に感想を書いていきたいと思います。最近読んだ本が中心になると思います。今回は12月から1月上半期に読んだ本を中心に選んでみました。ジャンルはバラバラ。
『女ともだちと結婚してみた。』 雨水汐
あらすじから素敵が漂っている。オタクが好きなやつ。百合漫画が電子書籍でたくさん半額になっていた頃に購入した。この作品は以前の記事でも触れていたけれど、その時点ではまだ読了していなかったので。
基本的にクールな瑠璃子さんがくるみさんに甘々で、くるみさんも満更ではないのが伝わっていて良い。イチャラブというわけではなくて、"ともだち" という距離感が気持ちの良い独特な空気を作っている。百合が同性同士の関係性であることを上手く使っているなぁと感じた。
時折ちらつく婚姻関係でありながら "ともだち" である矛盾が共同生活に不可逆な変化をもたらすのではないかというほのかな不安と、慣れない生活を通じて2人の関係性とあり方が心地良いものになっていく過程。そのどちらも素敵だった。ところで記事を書くためにpixivコミックの最新話を読んだらうひゃー!ってなった。うひゃー!
『氷』 アンナ・カヴァン
胸を打つような冷感が、世界の終わりを連れてくる。崩れゆく世界でアルビノの美少女を追い続ける男の物語。イギリスの作家 アンナ・カヴァンによるSFとも幻想文学ともとれるような不思議な作品。あらすじを読んだ時はファンタジーと感じたが、実際は現代社会と地続きの衰退途上にある文明を舞台にした作品だった。この本は全く普通の小説的でない。話の繋がりも起承転結もなければストーリーの説明もない。世界の崩壊に目もくれず少女を追い続ける男と、氷のように侵食してくる破滅のビジョンがあるだけだ。繰り返される唐突な場面転換と矛盾した描写に、幾度となくページをめくりすぎたのかと思わされた。
扇情的で美しい紹介をしているこちらの記事。おすすめ。愛の絶対零度というフレーズが良かった。絶対零度では全ての系が基底状態をとる。そしてエネルギーの最も低い基底状態は系を考察する基本である。だからこそ、私たちはこの冷え切った氷を通じて愛と人間の本性を読み取るのかもしれない。まあ生物系は体温付近が一番活発だし、基底状態どころか平衡状態にあったらそれはそもそも多分死体だろうしなのでこれはただの比喩に過ぎないけど……ウン……。とにかく、彼らの冷ややかな愛はどこか魅力的だ。
淡々と綴られる崩壊が印象に残る。アンナ・カヴァン節に慣れてくると、前後の脈絡がなく意味の通らない描写よりむしろ、それと対で現れる確固とした論理的な文章に驚かされる。これは小説で物語があることを思い出す。そして、世界の崩壊は突然見せられる恐ろしい悪夢ではなく、何人にも構わず進み続ける現実の存在に変化する。陳腐な感想だけれども、私たちが生きている不安渦巻くこの社会と同じなんだなぁと感じた。崩壊の最中も人々には生活がある。生活と同時に進行するリアリスティックな絶望と終焉は、現実の動乱が社会の破滅と地続きなのかと想起させるには十分であった。
この本を購入したのは東京で久しぶりの大雪を観測した日だった。コロナ禍による緩やかな閉塞感と重苦しい不安が続いてもう2年近くになる。これを書いている日は南太平洋で巨大な火山噴火が起こった。たまには斜に構えながら、わかったようなふりで世界を批評して、終末論的な厭世観にただ心地よく浸るのも悪くないかもしれない。そして、人類の終わりの日は、世界の果てまで美少女をストーキングしよう。
『バーナード嬢曰く。⑥』 施川ユウキ
私は高校以来ずっと『バーナード嬢曰く。』に読書遍歴が強く影響されている。実は上で紹介した『氷』も、神林が読んでいたからである。私は神林のようにSF系をメインに読んでいた人間なので、彼女に共感できたり思い入れのある本が出てきたりがあって嬉しかったりする。もちろん彼女ほど熱心な読者にはなれなかったが。むしろ主人公の町田さわ子に共感できる回数の方が多かった気がする。とはいっても彼女たちの読書スタイルは千差万別で回を重ねる毎に成長していくので、勉強になることばかりである。
大学に入ってからはあまり文字の本を読んではいなかったけれど新刊は追い続けていた。シンプルに面白い。百合漫画でもある。近頃、読書欲が再燃したので、またお世話になると思う。第六巻もぶれない面白さだった。今回は特に遠藤くんの良さが際立っていたと思う。彼の『山月記』評で笑い転げてしまった。
これくらいの気概を持っていたい。長谷川さんとバスで語り合う回も良かった。
『パン屋を襲う』 村上春樹
FFの方に貸していただいた本。ありがとうございます。初の村上春樹。想像していたより遥かに読みやすく、一気に引き込まれる。今回読んだ本には表題作『パン屋を襲う』と続編の『再びパン屋を襲う』という短編がが収録されていた。表題の通りパン屋を襲っていた。コミカルな緊迫感が楽しい。続編では主人公が過去のパン屋襲撃の精算をするためにもう一度パン屋に赴こうとする。パン屋が見つからないので某有名チェーン店に押しかけるシーンが大変に面白い。
パン屋を襲うのは何かのメタファーなんだろうか。わたしにはよくわからなかったので、読んだままを受け入れることにする。登場人物たちは恐ろしい空腹に耐えかねてパン屋を襲っていた。舞台は東京のようだ。銀行でも家電量販店でも牛丼屋でも高級料亭でもなくパン屋を襲うのだ。主人公は恐らくパン派である。ご飯よりも準備が楽だから、なんとなく朝ごはんにパンをチョイスする程度のパン派だろう。私はご飯派だけど、一度くらいはこんな体験をしてみたい。この間マックに行って初めてビックマックを注文した。美味しかった。
他にも紹介・感想を書きたい作品がたくさんあるのですが、記事を長大にしたくないので今日はここまで。次回の記事に乞うご期待!ここ最近、卒論のストレスの反動でコンテンツ消費量が急激に増大した気がします。まだ卒論書いてないけど。書き始めようと思ったらパソコン起動しなくなりました。本当に助けて。