エッセイ③
幼少期の話
小学1年生に上がるタイミングで引越しをした。引越し先は、今まで全く縁もゆかりも無い地域であった。初めて来た土地と、新しい家に心躍る気持ちだったことを覚えている。
村内で、小学校は2つ、中学校は1つと他の地域に比べて、通える学校数は限られていた。
入学した小学校は、私以外の同級生ほとんどが、地元にある1つの幼稚園からエスカレーター式で上がってきていた。私は、転校生に近い状態であった。
加えて、私は思春期早発症というホルモン系の病気で、他の子よりも3歳ほど発育が早く、頭1つ分身長が高かった。ただでさえ、全く知らない人間が急に来て、しかも、大きいのだから、好奇な目を向けられるのは当然であった。
入学してしばらく、私は隣に座っている男の子からいじめられるようになった。その男の子は、元々、落ち着きのない生徒だったようで、授業中に突然歩き回ることもしばしばであった。
最初は、私と仲良く話していただけに、ある日突然、
「よそもんは帰れ!」
と言われたことにひどく驚いてしまった。
それから、帰りのバス停で待っていると、私のランドセルを奪って投げたり、当時はツインテールにしていた髪の毛を引っ張られたりと、身体的にいじめてきた。
それまで仲良くしていた子が豹変した怖さと、急な環境の変化からか、頭に大きな円形の脱毛症ができた。親は、すぐに病院へ行き、円形脱毛の部分を上手く隠せないか、早く生えてこないか、薬を毎日塗っていたという。学級の先生にも相談し、その男の子とはその後同じクラスになることは無かった。
その当時は、なぜそんなことをするのかわからなかった。
しかし、「村以外から来た者は余所者である」という風潮は、その子だけではなく、地域全体に薄らとある共通認識であるようだった。
多分、その子は、「他の地域から来たということは、どうせまたココも嫌になるんだろ」という怒りが抑えられなかったのだと思う。今まで、同じ地域で過ごしていた中で現れた異分子に、その子自身も戸惑いがあったのではないか。
同じ中学校へ進み、勉強が得意ではないと聞いていた彼が、進学校と呼ばれる高校に志望していることを耳にした。小学校の幼い彼は、ただ表現の仕方がわからなかっただけで、彼なりの努力をしていると知ると、自然と心が救われたのだった。
中学以来、会っていないため、今はどこで何をしているのかはわからない。
身体的な暴力はいけないことに違いないが、思い返すと、彼のように、全力で思いをぶつける存在というのは、人生の中で大きな転機になるのではないか。ある問題が立ちはだかったとき、つい、目を背ける選択をしてしまう。
私自身も、年を重ねるほど、その傾向が強くなっているし、解決していないことも多くある。
ときには逃げることも大事だと思うが、その見極めをするのも、またその人自身なのであろう。
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