エッセイ㉑
好きな映画について
映画マニアというほど、観たことは無いが好きな映画について少し紹介したい。(今週の日曜日に高校の友人達と「デデデデ」を観に行く。楽しみである)
私は、岩井俊二監督の「リリィシュシュのすべて」が好きなのである。市原隼人主演、蒼井優など今では名だたる俳優たちが出演している。あどけなさの残る彼らの演技と、儚い画面作りに目が惹かれる。
中学2年生の蓮見が、かつて親友であった星野からいじめを受ける。万引きを強要され、ものを壊されたりする。あるとき、蓮見は万引きに失敗し、それを発端に星野から暴行を受ける。家庭内にも居場所のない蓮見にとって、唯一の救いが、「リリィ・シュシュ」だった。ファンサイト「リリィフィリア」で、リリィについて語っているときが、呼吸できる時間だった。
この映画の主軸にあるのは、いじめなのだが、架空の存在であるリリィ・シュシュの神格化、ネット上で居場所を探す若者達といった現実と架空世界の交錯が激しい。2001年に制作された映画であるが、20数年経った今でも色褪せない作品ではないか。
作中に出てくる、「エーテル」とはなんだろうか。岩井俊二監督は、台湾上映の際のインタビューで、「言葉では表現できない感情。例えば、夕日を見て綺麗だと思ったり、そういう感情って名前が無いけど、この映画ではあえてそれに名前をつけてみた」と話している。
哲学思想的に、エーテルを捉えるということになると、更に深い読みが必要なのかと思うが、私は、この世にいる私たちの手に届かないものと解釈している。
いたいけな10代の人物描写と、非力だからこそ孕む暴力性、衝動に身を任せる快楽などが、静かな画面で繰り広げられる。田舎の畑の青々しさとの対比が凄まじい。
いじめってつらいことだよね、人を傷つけるってこんな痛みがあるんだよと淡々と語りかけてくるような映画である。
ちなみに、私は、少年少女たちの姿に心惹かれ一年に一回は観ている。