エッセイ⑲
好きな本について
私は、雑多に本を読む。小説・専門書・啓発本・図鑑・絵本、内容も問わずになんでも読む。
小説だと、ミステリーものや青春ものなどが好きであるが、特にお気に入りな小説を少し紹介したい。
それは、小川洋子さんの『密やかな結晶』である。
この小説は高校生のときに読んで、大学入学課題の感想文でも少し取り上げた記憶がある。(この感想文は、手書きの原稿提出だったのだが、提出前の体育で利き手を脱臼し、思うように字が書けない状態で執筆したのは、また別の話)
密やかな結晶の舞台になっている島は、次々と『消滅』が起こる。鳥、香水、ラムネなど。カレンダーが無くなれば、人は日付を気にしなくなり、春夏秋冬も無くなる。島は、ずっと冬のままになった。
ここまで聞くと、なんと恐ろしい……と思うかもしれないが、島民は意外にも気にとめていない。ただ、「そういうもの、仕方ないこと」として、消滅を受け入れているのであった。
主人公の担当編集R氏と、主人公の母親は、消滅を感じない人であった。消滅を感じない人々は、秘密警察により捕らえられ、隔離される。(ここは、歴史的な出来事に似ている部分がある)
物語の前半と後半では、構図が逆転する。
消滅を感じない人達の身体の一部分が消え、身動きが取れなくなったことで事の重大さがわかる。
そして、消滅を感じる人が身動きの取れない者達の世話をする。
島に豊かさが無くなったときに、島も人も消滅するという話だ。
私は、この小説をコロナが流行する前に読み、また最近になって読み返した。
消滅する島。私が住んでいる沖縄も、コロナ禍を経て、レジやオーダーは機械化し、店から従業員が消えた。思えば、日中は歩く人も(都会以外)いない。物や人が減っているのに胸騒ぎがするのは、変なのだろうか。
私は、このまま進んでいく世界が怖いのである。
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