日記
思い立って、友人が住んでいる大阪へ遊びに行った。小中高、共に過ごすことの多かった友人で、お互いが心の中で「似た者同士」だと思っている。本人に聞いたことはないが、多分そうである。なぜ、大阪へ行こうと決心したのか。それは、私のあまりにも自堕落に生きている生活に無理矢理にでも刺激を与えなければいけない、と謎の焦燥感に襲われたからだ。勿論、久しく会っていない友人の様子が気になることも含め、重い腰を上げたのである。
大阪府、豊中市の空気はひんやりとして心地よい。小雨が降っているが、沖縄のようなじめっとした空気感もなく、「不快に思わない雨もあるものだな」と空港からホテルまでキャリーケースを引きずりながら感心した。
友人とは、駅近くのコンビニで待ち合わせた。沖縄と違う、自転車や人の往来が激しい商店街の一角にいるだけで、気持ちが浮き足立つ。
「ごめん、遅くなった」
私が、少し早めに着いただけであるが、申し訳なさそうな顔で友人は駆けてきた。
阪大生行きつけのインドカレーがあるらしい。店前には、「インドカレーの店員」と聞けばこの格好であろうと言わんばかりに、白いシェフ着を纏ったインド人が案内をしていた。
狭い店内は、インドテイストの小物で統一され落ち着いた雰囲気が流れている。最近、沖縄でもインドカレー店ができ、足を運んだことがあるが、そこはネパール人が作るインドカレー店であった。本場のインドカレー、という言い方が相応しいか分からないが、「やっと本物のインドカレーが食べられる」と嬉しくなった。
友人は、昔と変わらない様子で矢継ぎ早と近況を話した。就活のこと、部活の人との人間関係、バイトの話…。最近は、専ら就職活動に忙しいようである。出版業界に進みたいという友人は、大手企業2社にエントリーシートを出し、SPI試験も受けたらしい。本命の出版社は別のところであるが、読者として親しんでいた作品の編集者と直接会話するだけでも満足だ、と目を細めて笑った。夢に向かう姿は輝かしい反面、また遠い場所へ彼女が行ってしまったと心の中で寂しい気持ちになる。大学生活のことを続けて話す。
「ゼミの友達がね、東京出身の子で、東京の女は本当にすごいや。親が、大手の出版社の偉い人で、その子は、毎月出る新刊を買って中身を読んで、最近の売れ筋をチェックするのが日課なんだって。親に言われていることらしいよ」
確かに、私たちの暮らす世界とは違う話だ。私は、友人の「東京の女」という言葉選びが昔と変わらないなあと思いながら、相槌を打つ。
髪を耳に掛けながら、友人は少し声のトーンを落として続けた。
「それに、他の友達も、大手の企業に行って、良い人を見つけて結婚するのが人生の目標なんだって。私、そんな風に人生を考えたことなかった」
ため息をつきながら、マンゴーラッシーをストローでちゅるちゅると飲む。ずっと勉強漬けだった友人にとって、自分の人生を宝物探し感覚で生きることは違和感を覚えるのだろう。私も、なんだかそれは反則技のようで、一方で男性と比べて体力などに差がある女性にとって、それは種を残すための本能であり、理にかなっているようにも思えた。
「ねぇ、この後、阪大の図書館に行ってもいいかな。その後にお土産を渡したい」
異国の陽気な音楽が流れる店内に、ほんの少し影がかかった気がして、私はこの後の予定について話す。
「もちろんいいよ。私たち、顔似てるから、私の学生証をこっそり使っても大丈夫だと思う。お土産、そのカバンの中に入ってるの?」
ほら、と言いながら、友人は学生証を見せてくれた。そこに映る友人は、私の学生証よりも、私に似ている気がした。「沖縄のスパム、ここでは値段高いかなと思って5個ぐらい入れてきた。思っていたよりも結構重たいね」と、私も、ドラえもんがプリントされたエコバックにずっしり入った缶詰を見せる。友人は、くしゃりと八重歯を覗かせて笑った。
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