4、声帯の構造 ー 層 ー
声帯の基礎知識に、もう少しお付き合い頂きましょう。
今回は、声帯はどんな造りになっているのか、のお話です。
- ミルフィーユ?
声帯の中央をスライス(!)した断面写真がこちら。遊離縁部に注目すると、ミルフィーユのような層の重なりで出来ています。
- 大切なポイントは “しなやか構造”
声帯は、「粘膜」と「筋肉」で出来ています。
また、粘膜は上皮(薄皮)と固有層(浅層・中間層・深層)で成り立っていますが 、層はそれぞれ固さが異なるので、振動の受け方・伝わり方が異なります。
大事な特徴としては、表面に行くほど柔らかい、ということ。“釣り竿” をイメージしていただくと分かりやすいと思いますが、持ち手から竿の先までの柔らかさの違いによって”しなり” が生まれるように、声帯は表面(縁)に行くほど柔らかい構造を持っているため、流れてきた空気(呼気)に波動を伴った振動をさせてもらうことが出来るのです。
ちなみに、“表面に行くほど柔らかい層”という造りは、人間の声帯で最も発達しているのだそうです。多彩な感情を“声の音”で伝えたり表現したり出来るのは、この構造のおかげなんですね。
- 声帯の形を変幻自在に変える筋肉達
粘膜固有層より深い部分が、筋肉(甲状披裂筋)となりますが、人はこの筋肉のみで声帯を調節しているわけではありません。参考までに↓
声に関わる筋肉については大変難しいので回をあらためますが、これらによって釣り竿は変幻自在に軟度を変え、様々な音色を出すことが出来るのです。
- 層構造の完成時期と加齢変化
声帯の層構造は年齢によって変化します。層構造が完成するのは、思春期以降。声変わりの要因は、声帯のサイズアップだけではなさそうですね。
加齢によっても層構造は変化します。上皮には一定の変化傾向は見られないそうですが、粘膜固有層は大きく変化します。
- 音声医学の最先端国
1950年代前半までは、筋肉自体が振動すると考えられ“筋肉の弾性” が重視されていました。1960年頃には、”筋肉に加えて粘膜も動く” ”声帯の振動は粘膜の波状の運動である” という発見がありました。そして1972年、人間の声帯は更に複雑な層構造を持っていることを組織学的に示し、”声帯はボディとカバーからなる振動体である” という概念を提唱したのは、平野実先生。日本のドクターです。
日本は音声医学の最先端だったという歴史や、声帯の構造の解明が意外にも最近であることに驚きます。
声帯が層構造だと分かることで、研究は勿論のこと、診断・治療に大きな進展をもたらしたことは言うまでもありません。今やこの概念が無ければ有り得ない・・と、治療される側であっても思います。
[参考文献]
平野実ら: 声帯の層構造と振動. 音声言語医学 22(3)224-229, 1981
- グラデーションを愉しむ
声帯の層達の経年変化による”音色の変化” を滋味深く耳に味わうことが出来るのは、それを操作出来るコントローラーはじめ、生きとし生けるものの日々の営みの循環があってこそ。いかに稀なことであるか、“声の音” の媒体であられた先人達の軌跡に思いを馳せ、敬念も一層、変化。