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恐るべき公安👮‍♂️⑦-04公安調査庁と内調「公安の必死の生き残り戦略と官僚の謀略」

恐るべき公安⑦-04公安調査庁と内調「公安の必死の生き残り戦略と官僚の謀略」

悪名高い公安の
組織や手口に迫っていきます。

青木理「日本の公安警察」

青木理「日本の公安警察」

青木理(あおき おさむ)
1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
90年に慶応義塾大学卒業後、共同通信社入社。
社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、
2006年よりフリーとして活動



必死の生き残り戦略

「不要論」に抗う

不要論に抗うために、
『予備・陰謀』規定を使えばうまくやれるんじゃないか?
「とにかく、破防法改正によって公安調査官に強制調査権、資料閲覧権を与えるべきだ」などと、妄想が膨らんでいく。

●「不要論」に抗う

1997年2月中旬。
霞が関の公安調査庁本庁会議室で、数人の幹部が激論を交わしていた。

組織の存亡を掛け、その歴史上初めて乗り出した
オウムへの団体規制請求が棄却されたばかりだった

このままでは再び不要論が浮上するのは必至だ

そんな雰囲気の中で開かれた会議のテーマが公安調査庁の今後について及ぶと、
幹部の1人が必死の形相で訴えた。
最近、査定官庁である総務庁などから、当庁の存在意義が問われるケースが頻発している。
そのたびに破防法に基づく団体規制の請求官庁としての役割を必死で強調するのだが、『警察の捜査が相当進まないと規制できないのなら意味がない』と切り返されてしまう。どうしたらいいか


別の幹部が反論した。
警察は犯罪が起きた後じゃないと動けないはずじゃないか。
予防的見地からも機動的な保安処分をなし得る行政官庁が是非とも必要だ。それこそが我が庁だ


この言葉に同調する幹部は多かった。
意見は百出し、議論は必然的に破防法の解釈論、果ては破防法改正論にまで及んだ。

破防法では『暴力主義的破壊活動を行った団体に対する・・・・・・』と定められている。
これだけみると、我が庁も結局は事後的にしか動けないように見える。
だが、『予備・陰謀』規定を使えばうまくやれるんじゃないか


とにかく、破防法改正によって公安調査官に強制調査権、資料閲覧権を与えるべきだ

もっとも現在の人員では、強制調査権を与えられても、警察の"金魚のフン"になるのがせいぜいじゃないか

いや、それでも強制権獲得のため、やれることは何でもやるべきだ

青木理「日本の公安警察」

「破防法改正私案」

それは驚くほど大幅な公安調査庁の権限拡大を企図した破防法改正案だった。
つまり、過去に暴力主義的破壊活動を1度たりとも行っていなくとも、
公安調査庁が「危険」と判断すれば、どのような団体に対してであろうと調査が可能であり、場合によっては強制的な立ち入り検査すらなし得るというきわめて強権的な改正私案を作りあげ、自分たちの権益と不要論の払拭に足掻いた。

●「破防法改正私案」

この約1年半前にあたる1995年9月から12月にかけて。
公安調査庁本庁の総務部法規課のキャリア職員らが独自に、そして密かに、
あるプロジェクトをスタートさせた
。オウム調査で庁内が騒然とする中で始まったプロジェクトだった。
その成果は95年末、1通の文書にまとめられる。12月27日付の文書は「破防法改正私案」と題名がふられた

文書はプロジェクトの目的をこう総括した。

「当庁を取り巻く環境は、大きな変革を迎えており、
冷戦の終結による当庁不要論の渦巻く中でのオウム真理教による重大不法事案の発生、世論の破防法待望論など、従来からは予想だにしない状況となった。

当庁は、平成7(95)年6月頃より、オウム真理教に対する破防法適用に向けて鋭意調査並びに準備に取り組み、
(略)同年9月ごろには(略)適用に向けて動き出す寸前までに至った。
しかし、当時の総理大臣の慎重発言及びマスコミによる適用反対のキャンペーン
などにより、延期を余儀なくされた。(略)
そこで、法の不備を補い、かつ、当庁が発展する組織に変わりうるべく改正私案の作成を試みた


それは驚くほど大幅な公安調査庁の権限拡大を企図した破防法改正案だった。
改正私案の要点は数多い。
だが、最も重要な柱は、これまで任意でしか行えなかった公安調査官の調査に強制権を付与することだった
「従来の協力者を通じた任意調査を基本とした証拠収集は、
対象団体に調査活動の実態を知られることなく高度の情報が得られるなどのメリットがある一方、
協力者の獲得に一定の時間がかかり、
また、協力者保護のため弁明手続における証拠開示が困難であるなどの問題も抱えており(略)不十分の感がある


従って、今後、(略)従来の任意調査と併せて、
①事前の立入調査・質問権
②令状による臨検、捜索、差押(略)などの強制力をもった調査が実施できるようにする必要がある」
規制と調査の対象となる団体については、
①過去に暴力主義的破壊活動を行った疑いがあり、将来もこれを行うおそれがある団体
②過去に暴力主義的破壊活動を行っていないが、将来行うおそれがある団体――とした。


これを具体的に規定したのが改正私案の28条だった。
強制権はあくまでも行政機関に認められた行政調査であるとし、
令状などの手続きすらないまま調査が行えるとした上で、
拒否した場合には罰金20万円と規定。
また調査に必要と判断した場合、官公庁や公私の団体に対して報告や資料の提出を求めることもできることとした。
さらに暴力主義的破壞活動の中に新たに電波法違反(無線通信の妨害)、
有線電気通信法違反(有線電気通信の妨害)、公務執行妨害までを含め、
果てはこれらの「未遂」までをも暴力主義的破壊活動に包含しようと規定していた。


つまり、過去に暴力主義的破壊活動を1度たりとも行っていなくとも、
公安調査庁が「危険」と判断すれば、どのような団体に対してであろうと調査が可能であり、場合によっては強制的な立ち入り検査すらなし得るというきわめて強権的な改正私案だった。

青木理「日本の公安警察」

盛り上がる改正論

●盛り上がる改正論

時計の針を再びオウムへの規制請求棄却後に戻す。
請求は退けられたものの、オウムに対する世論の反発は教団施設のある自治体を中心に広がりを見せ、その広範な忌避意識によって破防法改正論も盛り上がりを見せていった。
公安調査庁内でも直ちに改正の検討作楽が開始された。
作業には改正私案を作成したキャリア職員も中心メンバーとして加わった。
会議の場には間もなく、大枠で以下のような改正方針を記した文書が提出される。

・証拠の立証については、厳格な立証を要せず、自由な立証で足りるとの規定を設定する。
・弁明手続きの簡素化など規制手続きを効率化する。
・公安調査官に強制調査権限を付与する。
・多様な規制の在り方として

①保安処分としての本質から、処分性がない団体についても任意調査を可能とする。
②公安調査庁長官が「破壊的団体」を指定した場合、団体への質問権、立入調査権などを規定する。
③公安審査委員会によって暴力主義的破壊活動を行ったと認定された場合、
『指定破壞団体」(仮称)として質問、行政指導、罰則による間接強制を伴う立入調査権を規定する。


明らかに改正私案に沿った方針だった。
公安調査庁幹部たちの視野にも、請求棄却直後の会議で激論を交わした
破防法改正が現実感を持って立ち現れ始めていた。
そして1999年5月31日、法相陣内孝雄が公安調査局長・事務所長会議でこう明言するに至る。
「より有効で適切な団体規制ができるよう破壊活動防止法の改正を図る」

青木理「日本の公安警察」

「オウム新法」浮上

公安調査庁が破防法本体の改正を諦めたわけではないことだけは明白。

●「オウム新法」浮上

だが、結論を先に言えば、”オウム封じ込め”のための手段として公安調査庁が狙った破防法改正は結局のところ、挫折する

「自自公」与党体制下での破防法改正は、公明党の反発が予想された
これを危惧した官房長官野中広務が破防法の改正に難色を示したことなどによって、オウムをテコにした破防法改正は当面見送られた

代わって浮上したのがオウム真理教対策の特別立法としての
「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案」(団体規制法案)だった。
同法案は1999年12月3日成立した。
破防法改正が見送られたとはいえ、同法には公安調査庁が検討を重ね、
念願ともなっていた立ち入り検査権限が盛り込まれた


オウム対策といいながら、法制上は当然のこととして対象団体はオウムに限られず、拡大解釈される恐れも多分にはらんでいる。
法案に対しては「第2破防法にすぎない」との指摘も上がっている。
だが、公安調査庁にとっては痛し痒しといった状況もあるようだ。
破防法改正が当面は挫折した直後、ある公安調査庁の中堅幹部がこう語っている。
「究極的には破防法そのものを改正しなければならない。
でないと、このままでは当庁がオウム対策のための残務処理官庁に成り下がる恐れがある」

公安調査庁が破防法本体の改正を諦めたわけではないことだけは明白だろう。

青木理「日本の公安警察」

「政治家に接近せよ」

存亡をかけた治安機関として最も手っ取り早いのが「政治との癒着」である。
公安組織が生き残りのために公然と政治と癒着しようとしていることを示す文書
としてはきわめて貴重なものである。
「公安調査庁が入手した情報については、今後積極的に官邸、
関係機関に提報していくことを庁の基本方針として意思統一すべき」
「議員の最大関心事は、選挙及び地元情報であることは明らかである。
そこで、共産党など当庁得意分野に焦点を当てた地元選挙情報を作成し、
説明に赴くことが議員との関係を深めるのに効果的と考えられる」
監視対象を拡大し、一般市民を監視し、与党議員の選挙活動に役立つよう、
敵対する野党や共産党の情報を提供して、与党が勝てるように手助けするなど
酷い癒着を提案するまでに落ちた。

●「政治家に接近せよ」

最後に、破防法改正以外における最近の公安調査庁の動向にも目を向けておこう。
組織自体が長らく存亡の危機に瀕してきた以上、生き残りのための手段は必然的に絞られていく
治安機関として最も手っ取り早いのが「政治との癒着」である。

公安調査庁が必死で政治に取り入ろうともがいていたことを示す内部文書が手元にある。
題して「情報提報と活用の在り方について」。「草案」と記されているが、
1998年3月25日付で作成された純然たる公安調査庁の内部文書であり、
この文書もまた、表紙に「取扱注意」の刻印が打たれている。
公安組織が生き残りのために公然と政治と癒着しようとしていることを示す文書
としてはきわめて貴重なもの
である。
公安調査庁は何を狙っているのか。一部を引用する。

「はじめに
平成8(1996)年来、省庁の再編や行政機能の見直しに取り組んできた
政府の行政改革会議は、平成9(97)年12月3日に公表した「最終報告」において、
公安調査庁を法務省の外局として存置することを認める一方で、
公安調査庁の「今後の在り方」に関し、
①組織のスリム化を図る、
②相当数の人員を在外における情報収集活動の強化、内閣における情報収集、
分析などの機能の充実のために充てるものとするなどの改革案を提示した。


(略)行政改革会議が内外情勢の変化に伴って、
団体規制機関としての公安調査庁査庁の存在意義に疑問を呈しながらも、
存置を認めかつ具体的な改革案について政府に検討を委ねたのは、
その背景に公安調査庁の情報機能を有効に活用したいとの政府の思惑があったためであり、
公安調査庁存置の決定は、情報機関としての活用を前提にしたものである」

滑稽なほど自家撞着的に意義を断じた文書は以下、

「公安調査庁が入手した情報については、今後積極的に官邸、
関係機関に提報していくことを庁の基本方針として意思統一すべき」


と続き、「情報提供分野」の1つとして驚くべき1項目が明示される。
再び文書を引く。

「議員の最大関心事は、選挙及び地元情報であることは明らかである。
そこで、共産党など当庁得意分野に焦点を当てた地元選挙情報を作成し、
説明に赴くことが議員との関係を深めるのに効果的と考えられる」


情報機関たろうとする公安調査庁が、職務として収集した選挙情報を特定の議員に提供する――。
明確な謀略機関化
であろう。
公安調査庁と政治との結合に関しては、過去に「パチンコ疑惑」としてマスコミや国会で問題化した事案が公安調査庁作成の調査資料によるものだったことが分かっている。
情報機関が政治と癒着することは必然でもあろうが、
それを文書で公言するのはタブーとも言うべき所業だった。

青木理「日本の公安警察」

伊丹万作「騙されることの責任」

もちろん、「騙す方が100%悪い」のは紛れもない事実である。
その上で更に「騙されることの責任」を考えよう。

伊丹万作「騙されることの責任」

もう一つ別の見方から考えると、いくら騙す者がいても誰1人騙される者がなかったとしたら今度のような戦争は成り立たなかったに違いないのである。
つまり、騙す者だけでは戦争は起らない。騙す者と騙される者とがそろわなければ戦争は起らない一度騙されたら、二度と騙されまいとする真剣な自己反省と努力がなければ人間が進歩するわけはない騙されたとさえいえば、一切の責任から解放され、無条件で正義派になれるように勘違いしている人は、もう一度よく顔を洗い直さなければならぬ。
伊丹万作「戦争責任者の問題」より


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