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杜撰な”公証人”検察最大の天下り利権💰

杜撰な”公証人”検察最大の天下り利権💰

特高のように再び国民を支配しようとする警察👮や検察の
官僚組織や手口に迫っていきます。

青木理「ルポ国家権力」

青木理「ルポ国家権力」

青木理(あおき おさむ)
1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
90年に慶応義塾大学卒業後、共同通信社入社。
社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、
2006年よりフリーとして活動



公証人——検察最大の天下り利権

掲載:『g2』2010/12号

前代未聞のスクープ記事

元々、検察と国税は、馴れ合いの関係で、対峙することはない。
<公証人10人申告漏れ 全員判事・検事OB 経費計5000万水増し>
法務・検察と国税当局は”親密なパートナー関係”にあり、法務・検察のOBである公証人に国税当局が税務調査で切り込んでくるなどということは、前代未聞と受け止められたからである。

2001年3月16日、読売新聞の朝刊一面トップに、
興味深いスクープ記事が掲載された。
<公証人10人申告漏れ 全員判事・検事OB 経費計5000万水増し>

そんな大見出しを掲げた記事は、冒頭で次のように書いている。

<遺言状などの公正証書を作成する公証人約10人が、東京国税局の税務調査を受け、1998年までの3年間に総額約5000万円の所得の申告漏れを指摘されていたことが15日、明らかになった。
公証人は、法務大臣が任命する国の公務員で、申告漏れを指摘されたのは、全員が裁判官と検察官のOBだった。関係者によると、私的な旅行費用を仕事上の出張費として計上するなど経費を過大に申告していた。
(中略)福岡地検の捜査情報漏えい問題が批判を浴びたばかりだけに、
「判・検のモラル」が改めて問われることになりそうだ(以下略)>

読売が伝えた東京国税局によるこの税務調査結果は、
申告漏れの額こそさほど多くないものの、法務・検察関係者の間に大いなる戸惑いと波紋を広げていた。
法務・検察と国税当局は”親密なパートナー関係”にあり、法務・検察のOBである公証人に国税当局が税務調査で切り込んでくるなどということは、前代未聞と受け止められたからである。

青木理「ルポ国家権力」

特捜部を救った国税

査察部門を擁する国税は、調査の末に把握した脱税案件のうち、多額かつ悪質と判断したものを検察に告発する
これを受けて検察は、国税と緊密に連絡を取り合いながら告発内容を検討し、
脱税被疑者を取り調べ、起訴すべきは起訴して刑事責任を問う

国税からの告発を検察側で取り扱うのは、主に東京地検特捜部を中心とする特捜検察である。
つまり、特捜検察にとって国税の告発案件は極めて重要な仕事の1つであり、強大な調査力を持つ国税からもたらされる情報は、特捜検察の土台を支える柱でもあった。
「大物政治家に甘い」。
5億円もの闇献金を受け取りながら罰金20万円の略式命令ですませるという決着
世の検察批判は高まり、東京・霞が関の検察庁舎に黄色のペンキが投げつけられる騒ぎに発展したのはよく知られる通りである。
東京地検特捜部は当時、窮地に陥っていた

伊丹十三監督のヒット映画「マルサの女」(1987年)で広く一般に知られるようになった査察部門を擁する国税は、調査の末に把握した脱税案件のうち、多額かつ悪質と判断したものを検察に告発する
これを受けて検察は、国税と緊密に連絡を取り合いながら告発内容を検討し、
脱税被疑者を取り調べ、起訴すべきは起訴して刑事責任を問う
。国税からの告発を検察側で取り扱うのは、主に東京地検特捜部を中心とする特捜検察である。

つまり、特捜検察にとって国税の告発案件は極めて重要な仕事の1つであり、
強大な調査力を持つ国税からもたらされる情報は、特捜検察の土台を支える柱でもあった。その好例として挙げるべきは、1996年3月に死去した金丸信・元自民党副総裁による巨額脱税事件だろう。

1992年8月、東京地検特捜部は、運送業界大手・佐川急便グループの中核会社「東京佐川急便」から金丸氏が5億円の闇献金を受領していた事実を掴んだ
東京佐川急便の巨額資金流出事件をめぐり、特捜部が逮捕した渡辺広康前社長の供述がきっかけだった

これが新聞報道で明るみに出ると金丸氏は緊急会見して受領の事実を認め、
自民党副総裁と竹下派会長の座から退いた

しかし、特捜部は政治資金規正法違反で金丸氏を略式起訴するにとどまり、金丸氏本人の事情聴取にすら踏み切らなかった。
「大物政治家に甘い」

5億円もの闇献金を受け取りながら罰金20万円の略式命令ですませるという決着に
世の検察批判は高まり、東京・霞が関の検察庁舎に黄色のペンキが投げつけられる騒ぎに発展
したのはよく知られる通りである。
東京地検特捜部は当時、窮地に陥っていた。

これを救ったのが国税当局だった。金丸氏が30億円もの割引債を隠し持っている
――そんなマルサの極秘情報が翌1993年1月、東京地検特捜部にもたらされ、
3月6日に金丸氏を脱税容疑で電撃逮捕したことで世論は溜飲を下げ、特捜部は再び喝采を浴びた

いわば特捜部は、国税の強力なアシストを背に受けて逆転満塁ホームランを放ち、
土俵際で面目を保った
といえる。
そんな法務・検察との蜜月を破り、東京国税局が法務・検察OBである公証人の
税務調査に切り込んだのは一体なぜだったのか。
疑問を解く鍵は、冒頭に紹介した読売の記事中に出てくる<1998年までの3年間>という1文に込められている。

青木理「ルポ国家権力」

東京地検特捜部の”背信”

特捜部の捜査は、国の予算を牛耳る最強の官庁=大蔵省を未曽有の逆風の只中に叩き込んだ。 当時の大蔵事務次官らが辞任に追い込まれたばかりか、100人以上の大蔵職員が処分を受け、果ては銀行局幹部が自殺するという、大蔵省にとっては死屍累々の惨状をもたらした。
あらためて記すまでもないが、国税庁は大蔵省の外局であり、主要幹部には大蔵キャリア官僚が就いている
そうした大蔵キャリア官僚にとってみれば、自らの組織に刃を向けてきた東京地検特捜部の捜査は、法務・検察による許し難き”背信”と映ったはずだ。
国税当局による公証人への税務調査は、「大蔵・国税」と「法務・検察」という日本の2大権力機関による水面下の暗闘であった。
<関係者によると、これらの公証人は、所得の申告に際し、
高級レストランで妻と2人で個人的に食事をした代金や、
家族旅行の費用などについて、公正証書を作成するための顧客との懇談・交際費として計上したり、遺言状作成のための出張旅費などとして申告していた

中には、後輩の地検検事正らとのゴルフ代も経費計上していた悪質なケースもあったという>(前出・読売新聞)
現下日本の公証人システムとは、法務・検察組織全体が営々と貪ってきた構造的利権の中核であり、法務・検察官僚に安楽と愉悦をもたらす強固な装置となっているからである。

97年秋から98年の春にかけて――。
東京地検特捜部は、いわゆる「大蔵接待汚職」の捜査に乗り出した。
当時の4大証券、すなわち野村、山一、日興、大和の各証券と第一勧業銀行による
総会屋への利益供与事件を捜査する過程で、証券会社や銀行側から度重なる接待を受けていた大蔵省(現・財務省)職員の存在が数多く浮上し、キャリア官僚を含む大蔵職員を特捜部が幾人も逮捕した
のである。

特捜部の捜査は、国の予算を牛耳る最強の官庁=大蔵省を未曽有の逆風の只中に叩き込んだ。 当時の大蔵事務次官らが辞任に追い込まれたばかりか、100人以上の大蔵職員が処分を受け、果ては銀行局幹部が自殺するという、大蔵省にとっては死屍累々の惨状をもたらした。

あらためて記すまでもないが、国税庁は大蔵省の外局であり、主要幹部には大蔵キャリア官僚が就いている。
そうした大蔵キャリア官僚にとってみれば、自らの組織に刃を向けてきた東京地検特捜部の捜査は、法務・検察による許し難き”背信”と映ったはずだ。
東京国税局が法務・検察OBである公証人の税務調査に切り込んでいったのは、ちょうどそんな時期にあたっていた。当時を知る検察OBが振り返る。

「公証人に関しては、以前から税務申告に問題が多いとささやかれ続けていました。しかし、法務・検察と大蔵・国税は”持ちつ持たれつ”の間柄であり、検察OBが大挙して就いている公証人は、国税にとって一種のタブーのような存在だった。
ところが、東京地検が大蔵接待汚職に手をつけたことで、一時的とはいえ、国税と検察の間に深刻な亀裂が入ったんです。
東京国税局が公証人の税務調査に踏み切ったのは、いわば“意趣返し”のようなものでした」

言葉を換えるならば、国税当局による公証人への税務調査は、「大蔵・国税」と「法務・検察」という日本の2大権力機関による水面下の暗闘であった。

その暗闘の結果、法務・検察の利権と化している公証人の実態が、
わずかながらも世に漏れ出てしまったのである。そうして漏れ出てきた公証人の「悪質な手口」は、前述した読売の記事にも一部紹介されている。

<関係者によると、これらの公証人は、所得の申告に際し、
高級レストランで妻と2人で個人的に食事をした代金や、
家族旅行の費用などについて、公正証書を作成するための顧客との懇談・交際費として計上したり、遺言状作成のための出張旅費などとして申告
していた。
中には、後輩の地検検事正らとのゴルフ代も経費計上していた悪質なケースもあったという>(前出・読売新聞)

たしかに「悪質」ではある。
しかし、それはあくまでも巨大な利権の外壁周辺に漂う腐臭の一端に過ぎなかった。現下日本の公証人システムとは、法務・検察組織全体が営々と貪ってきた構造的利権の中核であり、法務・検察官僚に安楽と愉悦をもたらす強固な装置となっているからである。

青木理「ルポ国家権力」

美味しい公証人システム

ハンコをつくのが仕事

極めて特殊な地位にある公務員と記した理由はここにあるのだが、
公証人が重大なミスを犯した場合はもちろん国家賠償請求の対象となり、
公証人は、こうした約束事を記した文書に公的な権威を与える役目を担っている。
離婚の慰謝料のケースなら、支払いを拒む元夫の給与などを元妻が差し押さえることができるし、国家を背景として公証人が権威を与える公正証書の威力は絶大であり、裁判で勝訴した際の確定判決とほぼ同等の効力を持つ。

公証人とは、極めて特殊な地位にある公務員である。
今から百年以上も前にあたる明治期の1908年(明治41年)、
ドイツの公証人制度を参考にして制定されたという公証人法は、
その任免について次のように定めている。

第11条
公証人ハ法務大臣之ヲ任シ及其ノ属スへキ法務局又地方法務局ヲ指定ス

明治期につくられた法規のためひどくわかりづらい文章だが、
要するに公証人とは、法務大臣が任命し、法務省民事局の出先機関である法務局が管轄する国家公務員といえる。

ただ、国から給与を受けているわけではなく、弁護士などと同様に独立採算制で業務を営み、それぞれの公証役場を維持・運営している。
極めて特殊な地位にある公務員と記した理由はここにあるのだが、
公証人が重大なミスを犯した場合はもちろん国家賠償請求の対象となり、
法務省も次のように説明
している。

<公証人は、国家公務員法上の公務員ではありませんが、
公証人法の規定により法務大臣が任命し、公証行為という国の公務を掌るものですから、実質的意義における公務員であり、刑法の文書偽造罪等や国家賠償法の適用については、公務員に当たるとされています>(法務省ホームページから)

全公証人が加盟する日本公証人連合会によれば、
2010年11月2日時点で全国に置かれた公証役場の数は290で、
公証人の総数は498人
。その最大の役割は、法務省がいう「公証行為」――すなわち公正証書の作成である。

たとえば借金や不動産の賃借、あるいは離婚に伴う慰謝料や養育費の支払い、
さらには遺産相続に関する遺言・・・・・。
私たちの社会には、さまざまな場面でさまざまな私的な約束事が生じる。
これらはすべて私的な約束事に過ぎないが、場合によっては当事者の人生を根底から左右しかねない重大事となる。
公証人は、こうした約束事を記した文書に公的な権威を与える役目を担っている。

国家を背景として公証人が権威を与える公正証書の威力は絶大であり、
裁判で勝訴した際の確定判決とほぼ同等の効力を持つ。


金銭貸借を例にとれば、借り手側の返済が滞った場合、貸し手側は即時に強制執行が可能となる。離婚の慰謝料のケースなら、支払いを拒む元夫の給与などを元妻が差し押さえることができるし、遺産の取り扱いなどを記した遺言を公正証書として残しておけば、それは圧倒的な効力を発揮し、死後に遺族間で泥沼の訴訟となるような事態を回避できる。このほか、株式会社や有限会社、あるいは社団法人の設立時につくる定款なども公証人の認証が必須と定められており、公証人にとっては大きな仕事だ。

その公正証書などの作成にかかる費用は法令で定められている
会社設立時の定款認証1回の手数料が5万円
遺産総額が5000万円から1億円の間の公正証書遺言の作成なら、4万3000円の手数料が必要となる。1件の手数料が大きいこともあり、全国の公証人が得ている年間売上高は1人当たりの平均で3300万円
独立採算制で業務を営んでいるため、ここから事務所の家賃や人件費などの経費を捻出することになるが、逆にいえば公証業務に家賃や人件費以外の経費などほとんどかからない

数年前まで東京都内で公証人を務めていた人物が明かす。

公証人は、その公証役場のある場所によって業務実態に相当な差があります。
大都市部の公証人は顧客も多く、1億円以上を売り上げるケースもあるが、家賃や人件費も高い。大都市部から外れた公証人は、顧客が少ないものの、家賃や人件費はあまりかからない。

景気低迷などの影響で売り上げは漸減傾向を続けていますが、平均的に見れば、経費は売り上げの3分の1から半分程度と見ればいいと思います」

とすれば、多くの公証人が最低でも売り上げの半額
――つまりは平均で1500万円以上の収入を得ているとみて間違いない。
「あまりいいたくないけれど、机に座って文書にハンコをつくのが主な仕事」(
前出・元公証人)
という業務内容に鑑みれば、相当においしい仕事」といえるだろう。

青木理「ルポ国家権力」

7割が判事と検事のOB

それによれば、2005年3月時点で全国に配された516人の公証人のうち、
裁判官の出身者が約28%で146人
法務局の役人である法務事務官らが約30%で153人、
そして問題の検察官出身者は公証人全体の約42%にあたる217人となっている。つまり、判事と検事OBが公証人の約7割を占め中でも検察官が最大勢力となっていることが明確に浮かび上がる。

そして問題なのは、どのような人物が公証人の職に就いているのか、という点である。

公証人法は、公証人になることができる資格について次のように定めている。

第12条
①左ノ条件ヲ具備スル者ニ非サレハ公証人ニ任セラルルコトヲ得ス
一  日本国民ニシテ成年者タルコト
二  一定ノ試験ニ合格シタル後六月以上公証人見習トシテ実地修習ヲ為シタルコト
②試験及実地修習ニ関スル規程ハ法務大臣之ヲ定ム

これも文章はひどくわかりにくいが、字義通りに受け止めれば、
成人の日本国民であって公証人の資格試験に合格し、6ヵ月以上の実地研修を経れば誰でも公証人になれるということだろう。
ところが驚くべきことに、この手続きを経て公証人に就任した人物は、過去に1人もいない。
いや、正確に記すならば、明治期の1908年に公証人法がつくられて以来の実に1世紀以上、公証人法 第12条に定められた試験そのものが1度たりとも実施されていないのである。

それでは全国に約500人いる公証人は、1体どのように選ばれてきたのだろうか。
再び公証人法を繙げば、続く第13条に次のような規定がある。

第13条
裁判官(簡易裁判所判事ヲ除ク)、検察官(副検事ヲ除ク)又ハ弁護士タルノ資格ヲ有スル者ハ
試験及実地修習ヲ経スシテ公証人ニ任セラルルコトヲ得

本来行われるべき「一定ノ試験」は法制定から1度も行われず、
基本的には第13条の規定のみに基づき、全国約500人の公証人は選ばれ続けてきた。そう、判事と検事の出身者だけがほぼ独占的に就任してきたのである。

私と『g2』誌の担当編集者は、全公証人が加盟する日本公証人連合会と、
公証人を所管する法務省民事局に文書などで何度か取材を申し入れた。

しかし、日本公証人連合会も、法務省民事局も、木で鼻をくくったような対応に終始するだけで、全国の公証人の売上高などのデータはおろか、その出自に関する情報さえ一切明かそうとしなかった。あまりに馬鹿げた対応であり、公証人という職の公的性格を踏まえれば異常といわざるを得ないが、私の手元には公証人の出自の内訳を記した1枚のペーパーがある。ある検察関係者から入手したもので、2005年3月段階で作成された文書である。

それによれば、2005年3月時点で全国に配された516人の公証人のうち、
裁判官の出身者が約28%で146人、
法務局の役人である法務事務官らが約30%で153人、
そして問題の検察官出身者は公証人全体の約42%にあたる217人となっている。

つまり、判事と検事OBが公証人の約7割を占め、
中でも検察官が最大勢力となっていることが明確に浮かび上がる。

その上、最も"美味しい仕事"である大都市圏の公証人は、
判事と検事のOBが完全に独占してきた
のである。

自身も元検事であり、浦和地検(現・さいたま地検)検事正を最後に検察を退官して
蒲田公証役場の公証人に転出した経験を持つ清水勇男弁護士(第一東京弁護士会)がいう。

「一般の検察官の定年は63歳ですが、他の省庁と同じように、
定年が間近になると徐々に肩たたきが始まり、検察を去っていく。
そうした検察官OBの受け皿となっているのが公証人で、
公証人の職は法務・検察組織全体の人事政策の一環に組み込まれているんです」


法務・検察組織の人事政策に組み込まれた公証人システム――。
その利権のカラクリをさらに深く知るには、
法務・検察組織の全体像を俯瞰しておかねばならない。

青木理「ルポ国家権力」

あまりに恵まれた検察官の待遇

検事総長の給与は国務大臣と同格で、年収は実に約2900万円
高検検事長は大臣政務官と一般職の国家公務員では最高となる
東大総長、京大総長と並ぶ顔が与えられている。
検事長の中でも、東京高検検事長はさらにワンランク上をいく。
私の手元にある法務省の内部文書によれば、事務次官級の給与を得ている検事の合計人数は実に59人。
他省庁で外局の長官級――たとえば国税庁長官や金融庁長官など――
にあたる給与を得ている者に至っては、82人にも上っている。

いうまでもないことだが、通常の中央省庁において官僚トップの座に君臨するのは事務次官である。
だが、司法試験をパスした検察官が組織の中枢を占める法務・検察は、
検事総長を頂点とする独特の組織形態を取っている。

その”権力序列”
(1)検事総長、
(2)東京高検検事長、
そして(3)大阪高検検事長
あるいは最高検ナンバー2の次長検事
の順となり、以下、札幌から福岡まで計6ヵ
所の大都市に置かれた
高検検事長と法務事務次官がそれに続く。

このうち検事総長と次長検事、それに各高検の検事長を合わせた計10人は内閣が任免し、天皇の認証を受けて就任する「認証官」である。
一方、法務事務次官は将来の検事総長候補とされる人物が就くケースが多く、
組織内における現実の政治力と単純比較するのは難しいが、あくまでも外形的な”権力序列”に従うならば、事務次官よりは「認証官」の方が格上だろう。
すなわち、各省庁では官僚トップの事務次官が、
法務・検察においては11番目の役職に過ぎない
ことになる。

事務次官の地位が低い上、これほど多数の「認証官」を抱えているのは、
他の中央省庁では、在外公館の大使が「認証官」となる外務省ぐらいしかない。
当然、法務・検察組織は給与面での待遇も他省庁に比べてケタ外れに厚い。

検事総長の給与は国務大臣と同格で、年収は実に約2900万円
高検検事長は大臣政務官と一般職の国家公務員では最高となる
東大総長、京大総長と並ぶ顔が与えられている。
検事長の中でも、東京高検検事長はさらにワンランク上をいく。

また、全国各地に配された地検トップの検事正は、多くが他省庁の事務次官とほぼ同列の待遇――年額で約2300万円もの給与が支払われている。
意外と知られていないが、東京地検特捜部長も地検検事正と待遇はほぼ横並び。
つまり、他省庁ではトップに君臨する事務次官級の給与には掃いて捨てるほど転がっていることになる。

私の手元にある法務省の内部文書によれば、事務次官級の給与を得ている検事の合計人数は実に59人。
他省庁で外局の長官級――たとえば国税庁長官や金融庁長官など――
にあたる給与を得ている者に至っては、82人にも上っている。

他人の財布を覗き込むなど下世話なことだと承知の上で記すが、
検察官とは、あまりに恵まれ過ぎた待遇を付与されているのではないか。
そんな法務・検察組織の人事政策に組み込まれた公証人制度について、
前出とは別のヤメ検弁護士の1人がこう明かしてくれた。

「端的にいってしまえば、公証人は法務・検察と競判所の天下り先になってきたわけですが、検察でいえば、地検の検事正どまりで退職したOBにあてがわれるのが慣習となっており、検事長以上を務めたら公証人になれないのが法務・検察内における「暗黙のルール」です。
認証官である検事長まで上り詰めた大物ヤメ検なら、
弁護士に転身しても企業の顧問や監査役などに引っ張りだこですから・・・・・・。
公証人とはつまり、地検の検事正どまりで退職せざるをえなかったOBへの”ご褒美”、”アメ玉”のようなものになっているんです

青木理「ルポ国家権力」

「経済合同」という奇妙なシステム

10年で後任に職を譲ります」という一筆を法務省に入れさせるんです。
すべてを差配しているのは、法務省の官房人事課でしょう」
肩たたきを間近に控えた検事正の中には、各地の公証人の任期一覧表のようなものをつくって、「次はここの公証人が空きそうだな」「ヤメるなら来年がベストのタイミングだ」なんて話に熱中している人もいたし、まだ検事長への出世の芽が残っているのに、それを蹴って退職し、公証人になってしまった人もいたくらいです」

東京では『5割合同』、大阪では『10割合同』というのが一般的です。
東京の場合、それぞれの公証人が売り上げの5割を公証人の合同役場に納め、
それを各地の公証人へ均等に分配する

大阪なら、売り上げの全額を納めて分配するんです。
納めた額よりも分配で得た額の方が多い公証役場は『もらい役場』と呼ばれ、
公証人の仲間内では少し肩身が狭い思いをしますね

実はこの「経済合同」に参加できるのは基本的に判事・検事OBの公証人だけだ、
と法務省関係者は明かす。

検察官の定年は、特例的に65歳となる検事総長を除けば、前述の通り63歳である。しかし、60歳を目前に控えた時期になると、認証官である検事長以上の地位へと上りつめていく者を残し、肩たたきがはじまる。その際の再就職先として真っ先に提示されるのが公証人の職だという。
しかし、その提示内容にも法務・検察内のヒエラルキーが厳然と存在する
ヤメ検弁護士が続けていう。

「たとえば、有力地検の検事正で退官すれば、大都市の有力な公証人があてがわれます。景気が低迷し、公証人全体の収入が下がっている現実はありますが、
大都市の公証人であれば、在職中の年収がほぼ確保される。
他の地区の公証人であっても、退官時の年収の7割以上は確保されているはずです」

今度は法務省元幹部の話。

「検察官が公証人に転じた場合、10年間で後任に職を譲らねばなりません。
これも法務・検察内では「暗黙のルール」ですが、
中には10年を超えても居座ってしまうケースがあり得るから、検察官から公証人に転じる際は、「10年で後任に職を譲ります」という一筆を法務省に入れさせるんです。すべてを差配しているのは、法務省の官房人事課でしょう」


もう1度整理して記せば、こういうカラクリだ。
60歳を間近に控えた地検検事正を例にとると、
検事長などへの出世の見込みがなくなった時点で、
法務省はこの検事正の地位に"ふさわしい場所"の公証人への転出を勧める。
これに応じて検事正が転身すれば、巨額の退職金をもらった上、
最長で10年間――すなわち70歳近くまで公証人の職を保証されることになる。


前述のように地検検事正の年収は中央省庁の事務次官と同等の約2300万円である。公証人となった場合、それとほぼ同額か、あるいは7割以上の年収が確保されるというから、
つまりは70歳近くまで年2000万円前後の収入を得ることとなる。
わずかな退職金と年金をあてにしながら老後の生活設計を描くのに
汲汲とする一般サラリーマンから見れば、溜息が出るほど優雅な話ではない
か。

前出のヤメ検弁護士が苦笑しながらいう。

「検察を退官して弁護士に転じ、世間の耳目を集める刑事事件などで辣腕を振るうヤメ検もいますが、弁護士業にはそれなりの才覚と営業努力が必要です。
その点、公証人は安定収入が確保され、何よりも仕事が圧倒的にラク(笑)。
だから、肩たたきを間近に控えた検事正の中には、各地の公証人の任期一覧表のようなものをつくって、
「次はここの公証人が空きそうだな」
「ヤメるなら来年がベストのタイミングだ」
なんて話に熱中している人もいたし、
まだ検事長への出世の芽が残っているのに、それを蹴って退職し、
公証人になってしまった人もいたくらいです」

その上、公証人の世界には不可思議な”慣習”が根付いている

前述したように、公証人はその配置された公証役場の場所によって売り上げや収入に大きな差が生じうる。大都市圏中心部の公証役場であれば、公正証書の作成業務にせよ、会社定款の認証業務にせよ、仕事の絶対量も売り上げも高くなるだろうし、逆に大都市圏中心部から外れた公証役場は仕事の絶対量も売り上げも少なくなるのは必然だ。
その差を埋めるためなのか、公証人の世界では「経済合同」という
奇妙なシステムが形作られている
という。

前出の元公証人・清水勇男弁護士が語る。

東京では『5割合同』、大阪では『10割合同』というのが一般的です。
東京の場合、それぞれの公証人が売り上げの5割を公証人の合同役場に納め、
それを各地の公証人へ均等に分配する。
大阪なら、売り上げの全額を納めて分配するんです

納めた額よりも分配で得た額の方が多い公証役場は『もらい役場』と呼ばれ、
公証人の仲間内では少し肩身が狭い思いをしますね」


売り上げや収入の”地域格差”を埋めるためのシステムといえば麗しくも聞こえるが、実はこの「経済合同」に参加できるのは基本的に判事・検事OBの公証人だけだ、と法務省関係者は明かす。

だとすれば、こうしたカラクリをどう評するべきだろうか。

これはやはり、一般にはあまり知られないものの極めて公的な任務を負う公証人という職業
――法務省の言葉を借りるならば、<公証行為という国の公務を掌るもの>であり、<実質的意義における公務員>という職業――
を法務・検察官僚らが私し、その巨大な利権を判事OBと分け合いつつ、
人目につかぬ薄暗き“湿地帯”の如き場所で利益を貪り食っているに過ぎないのではないか。
それを端的に示す具体例がある。

青木理「ルポ国家権力」

検察最大の天下り利権

2002年4月、身内であるはずの大阪地検特捜部に電撃逮捕された
これがウラ金告発の口封じを狙ったものだったのはもはや周知の事実だが、
法務・検察組織が強権を行使する前の段階で懐柔のため三井氏にちらつかせてきたのが、公証人の職だったという。
近年の特捜事件は『はじめにストーリーありきの捜査』などと批判されていますが、これはつまり、幹部の描く筋書通りの事件づくりに現場が突き進んでいったことを意味しています。
組織の論理に忠実な検事を退職後まで厚く遇するという病理のなせるわざであり、
公証人という天下り利権がそれを下支えする大きな要因になっている

元大阪高検公安部長の三井環氏が逮捕・起訴された事件については、いまさら詳しく記すまでもないだろう。
三井氏は高検公安部長に在職中、法務・検察が組織ぐるみで営々と続けてきたウラ金づくりという犯罪行為を内部告発しようと決意し、メディア記者との接触を続けていたが、
2002年4月、身内であるはずの大阪地検特捜部に電撃逮捕された。
これがウラ金告発の口封じを狙ったものだったのはもはや周知の事実だが、
法務・検察組織が強権を行使する前の段階で懐柔のため三井氏にちらつかせてきたのが、公証人の職だったという。

三井氏がいう。
「私がウラ金告発を決意し、マスコミの記者と接触していることを知った(大阪)高検の幹部が、いってきたんですよ。
『おかしなことを考えるのはやめろ。もし思いとどまるなら、神戸の公証人のポストを用意してやる』ってね。
神戸は私の自宅もある地元だし、神戸の公証人職は本来、検事正経験者にあてがわれてきたポストです。
まだ検事正になっていなかった私にそれを与えようというのは、
高検幹部にしてみれば相当な厚遇を提示したつもりだったんでしょう。

私は公証人になりたいとも思わなかったし、告発をあきらめるつもりなどなかったから、蹴飛ばしてしまいましたけれどね・・・・・・

当時、大阪高検公安部長としての三井氏の年収は、2000万円を軽く超えていた。
三井氏によれば、大都市・神戸の公証人なら、その収入がほぼ保証されるのは確実だったという。
しかし、三井氏はその提示を蹴り、内部告発の意思を曲げず、その結果として大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、1年以上にわたる獄中生活まで余儀なくされた。

しかし、もし三井氏が「法務・検察組織の掟」に服従して告発を断念し、
神戸の公証人という懐柔策の提示を受け入れていたならば、どうなったか。
三井氏は逮捕された2002年当時で57歳だったから、
「公証人の職にとどまれるのは十年間」という法務・検察内部の”暗黙のルール”に従ったとしても、いまなお神戸の公証人として優雅で安楽な生活を謳歌できていたことになる。

前出のヤメ検弁護士がこう強調する。

そこが最大の問題なんです。つまり、法務・検察組織の論理に徹底して忠実に振る舞い、ある程度の出世を果たしたならば、民間企業ならあり得ないような厚週が70歳近くまで約束される。
近年の特捜事件は『はじめにストーリーありきの捜査』などと批判されていますが、これはつまり、幹部の描く筋書通りの事件づくりに現場が突き進んでいったことを意味しています。
組織の論理に忠実な検事を退職後まで厚く遇するという病理のなせるわざであり、
公証人という天下り利権がそれを下支えする大きな要因になっている
んです」

青木理「ルポ国家権力」

公証人の杜撰な業務

公証人の杜撰な仕事として、「統一協会が美味しい顧客」だった可能性が疑われる。統一協会の巨額寄付が長年社会問題になっていながら、そのマインドコントロール下の巨額献金の取り消しを阻んでいたのが「陳述書」などである。
86歳の信者が地元教会の幹部に連れて行かれた公証役場で署名をした「今も昔も存在したことのない地名が書かれた陳述書」があり、それが返金を求める栽培で有効とされ、被害者救済を阻んでいた事実である。
以下の商工ローンのように、統一協会が持ち込む大量の「陳述書」などの証書作成の仕事は、腐敗公証人の美味しい商売であった可能性が高い。
もしかしたら、検察OBとの癒着が、統一協会が起訴されない裏取引になっていた可能性もあるかもしれない。

公証人のひどく杜撰でデタラメな業務実態がたびたび発覚しているからである。
例えば、高金利の代わりに無担保でも連帯保証人がいれば融資する商工ローンは、
その暴力的な取り立てが過去に大きな社会問題となったが、債務者や連帯保証人が知らぬうちに金銭貸借の公正証書が作成されてしまう事例が2000年ごろから頻発し、2003年ごろに相次いで裁判沙汰となった。
融資の際、金融業者が債務者にきちんと説明しないまま、公正証書作成委任状に署名・捺印させてしまうんです。そして、公証役場には業者の従業員が債務者の代理人としてやってくる。公正証書は裁判の判決と同等の力を持ちますから債務者にとっては大問題なのですが、大半の公証人は債務者の意思確認など取らず、書類だけ揃っていればハンコを押してしまう。中には、特定の公証人に同様の証書作成依頼を大量に持ち込んでくる業者もいました。これを受ける公証人は『ハンコを1件押していくら』という手数料収入ですから、公証人にとっても極めて美味しい顧客なんです」
指摘されたミスには、こんな信じ難いようなものが多数含まれていた。
『遺言者の印鑑と印鑑証明の印影が異なっているのに、公正証書遺言を作成してしまった』「債務弁済の公正証書で『無利息』と書くべきところを『利息の定めなし』と書いてしまった」「公正証書に記す債務弁済の期限を十年以上も誤って記してしまった」………………。
いずれのケースも、当事者にとっては人生を破滅に導きかねない致命的ミスであり、遺言では過去に公証人が幾度も訴えられている


こうして法務・検察が利権化している公証人システムについては、
実をいえば国会審議などで幾度か批判の俎上に載せられてきた。
法務・検察の利権と化していること自体はもちろんだが、
公証人のひどく杜撰でデタラメな業務実態がたびたび発覚しているからである。

たとえば、中小企業向けの貸金業「商工ローン」をめぐって噴き出した批判はその1つだろう。
高金利の代わりに無担保でも連帯保証人がいれば融資する商工ローンは、その暴力的な取り立てが過去に大きな社会問題となったが、債務者や連帯保証人が知らぬうちに金銭貸借の公正証書が作成されてしまう事例が2000年ごろから頻発し、2003年ごろに相次いで裁判沙汰となった。1体どうしてこのようなことが起きたのか。前出の元公証人が打ち明ける。

融資の際、金融業者が債務者にきちんと説明しないまま、公正証書作成委任状に署名・捺印させてしまうんです。そして、公証役場には業者の従業員が債務者の代理人としてやってくる。公正証書は裁判の判決と同等の力を持ちますから債務者にとっては大問題なのですが、大半の公証人は債務者の意思確認など取らず、書類だけ揃っていればハンコを押してしまう。
中には、特定の公証人に同様の証書作成依頼を大量に持ち込んでくる業者もいました。これを受ける公証人は『ハンコを1件押していくら』という手数料収入ですから、公証人にとっても極めて美味しい顧客なんです


呆れ果てた話だが、公証人の杜撰な仕事ぶりに関しては、
当の法務省による驚愕の内部調査結果も2005年初めに表沙汰となっている。
各地の法務局が作成した2003年分の「公証役場検閲報告書
が弁護士らの情報公開請求で明らかになり、
当時550人以上いた全国の公証人のうち、
実に59.4%が何らかのミスを指摘されていたことが判明したのである。

指摘されたミスには、こんな信じ難いようなものが多数含まれていた。

『遺言者の印鑑と印鑑証明の印影が異なっているのに、公正証書遺言を作成してしまった』
『債務弁済の公正証書で『無利息』と書くべきところを『利息の定めなし』と書いてしまった」
「公正証書に記す債務弁済の期限を十年以上も誤って記してしまった」………………。

いずれのケースも、当事者にとっては人生を破滅に導きかねない致命的ミスであり、遺言では過去に公証人が幾度も訴えられている
こうした問題が浮かび上がる度に国会では、法務・検察の利権と化している公証人制度に批判の声が上がり、2002年からは法務省も公証人の一部公募に踏み切らざるをえなかった。公証人法が制定されて以来百年で、初めてとなる大きな方針転換だったといえるだろう。

ところが、現在までに公募で採用されたのは京都で司法書士の男性が公証人に就いたケースなど2例があるだけで、法務・検察と判事OBが公証人職を独占する構図はいまもほとんど変わりがない。利権のカラクリは、微動だにしていないのである。

法相の諮問機関である法制審議会・刑事法部会メンバーなどを歴任し、
刑事司法の問題点に詳しい山下幸夫弁護士(東京弁護士会)がいう。

公証人が法務・検察の利権と化し、デタラメな業務実態がまかり通っている。
これはひどい話だし、もちろん大問題なのですが、そのために公証制度がひどい機能不全になってしまっていることも深刻な問題なんです」

どういうことか。
山下弁護士の話を続ける。
「公証制度とは本来、紛争を未然に防止する『予防司法』の役目を担い、
司法や市民にとっては極めて大切なシステムです。
日本が制度設計の参考としたドイツはもちろん、欧米ではもっと公証制度がきちんと運用され、
一般にも広く活用されている。
たとえば科学実験結果を公証したり、尊厳死や臓器提供の意思などを公正証書として残しておくなど、さまざまな分野でもっと活用する余地がある。
ところが日本の公証制度は判事と検事の利権となっていて、公証人は老人だらけ。
だいたい、刑事事件ばかりやってきた元検事に民事案件なんかわからない。
若い法曹志望者などに公証人の門戸を広く開放するべき
です」

青木理「ルポ国家権力」

巨大な構造腐敗

本来は司法権の砦であるべき判事=裁判官も、
法務・検察の意向に配慮せざるをえないということを意味する。
広く知られるようになってきたが、現下日本の刑事司法は、
公訴権を基本的に独占する検察が起訴すれば、その有罪率は99%を超える。
逮捕状にせよ、勾留状にせよ、検察や警察の請求を歳判所が却下する率は
ゼロコンマ数%以下という惨状を呈しており、検察の暴走を許してきたのは、
ひたすら検察に追従するだけの裁判所であったことは疑いようのない事実
だろう。

そしてもう1つ、忘れてはならぬ視座がある。
繰り返し記してきたように、約500人いる公証人は、検事や判事OBの金城湯池と化し、その差配は基本的に法務省が取り仕切る。
とすれば、検事が「法務・検察組織の掟」に忠実となるのはもちろんだが、
本来は司法権の砦であるべき判事=裁判官も、
法務・検察の意向に配慮せざるをえないということを意味する。

広く知られるようになってきたが、現下日本の刑事司法は、
公訴権を基本的に独占する検察が起訴すれば、その有罪率は99%を超える。

逮捕状にせよ、勾留状にせよ、検察や警察の請求を歳判所が却下する率は
ゼロコンマ数%以下という惨状を呈しており、検察の暴走を許してきたのは、
ひたすら検察に追従するだけの裁判所であったことは疑いようのない事実
だろう。

その要因の一端が、公証人という「薄暗くも甘き利権」を検事と判事がともに貪り食ってきた構図からも垣間見えてくる
一般にあまり知られぬ存在である公証人システムとはやはり、
この国の刑事司法を歪める巨大な構造腐敗
であり、真の検察改革のためには絶対的に見直しが必要な課題にほかならない。

青木理「ルポ国家権力」

伊丹万作「騙されることの責任」

もちろん、「騙す方が100%悪い」のは紛れもない事実である。
その上で更に「騙されることの責任」を考えよう。

伊丹万作「騙されることの責任」

もう一つ別の見方から考えると、いくら騙す者がいても誰1人騙される者がなかったとしたら今度のような戦争は成り立たなかったに違いないのである。
つまり、騙す者だけでは戦争は起らない。騙す者と騙される者とがそろわなければ戦争は起らない一度騙されたら、二度と騙されまいとする真剣な自己反省と努力がなければ人間が進歩するわけはない騙されたとさえいえば、一切の責任から解放され、無条件で正義派になれるように勘違いしている人は、もう一度よく顔を洗い直さなければならぬ。
伊丹万作「戦争責任者の問題」より


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