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恐るべき公安👮‍♂️③-01諜報工作の手口「基本的な情報収集術(尾行・工作・面接・投入など)」

恐るべき公安③-01諜報工作の手口「基本的な情報収集術(尾行・工作・面接・投入など)」

悪名高い公安の
組織や手口に迫っていきます。

青木理「日本の公安警察」

青木理「日本の公安警察」

青木理(あおき おさむ)
1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
90年に慶応義塾大学卒業後、共同通信社入社。
社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、
2006年よりフリーとして活動



基本的な情報収集術

「警備警察全書」

公安警察の情報収集活動には「具体的に公安を害する事態、または犯罪のおそれがある」場合に「その予防・鎮圧に備えて行う情報活動」としての「事件情報活動」
さらに「おそれがない」場合でも「一般的に公安の維持または犯罪の予防・鎮圧に備えて平素から行う情報活動」としての「一般情報活動」までが加えられている。
要するに恐れがあっても無くても好き勝手に情報収集する仕組みになっている。

●「警備警察全書」

少々古い1冊の本から話を始めよう。
1962年に初版が出版された『警備警察全書』
出版元は立花書房という馴染みのない会社だが、
民間信用調査機関によれば「得意先」の70パーセントを「全国各都道府県の警察及び警察学校」が占め、主に警察官の昇任試験問題集、警察幹部による著書などを手掛けている、警察内では知らぬ人のない出版社である。
「警備警察全書」はかつて、公安警察官の教科書的存在だったとされる1冊だ。

同書の中に「警備情報収集の要領」と題した1節がある。
公安警察における情報収集の必要性について
「あらゆる警察活動の方針の樹立・決定、計画の策定・実施あるいは犯罪捜査の基礎となるものであり、情報収集活動は、これら治安維持上必要な資料を収集することであるから、たえず自己の職責を自覚し、情報収集に対する関心と熱意をもたなくてはならない」と強調した上で、
その情報収集の手段として以下の7つを列挙している。

(1)視察内偵
(2)聞き込み
(3)張り込み
(4)尾行
(5)工作
(6)面接
(7)投入

この7手法は、一部を除き今も公安警察の情報収集活動の基本である。

そもそも公安警察の情報収集活動は、その目的の違いによって
「捜査情報活動」
「事件情報活動」
「一般情報活動」
に分類される。

「捜査情報活動」は事件の発生後、捜査を目的に行われる情報収集作業であり、
直接の根拠は「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする」
と定めている刑事訴訟法189条2項に求められている。
この点では一般の刑事警察の捜査活動と法的な相違点はない。

だが公安警察の情報収集活動には「具体的に公安を害する事態、または犯罪のおそれがある」場合
「その予防・鎮圧に備えて行う情報活動」としての「事件情報活動」、
さらに「おそれがない」場合でも「一般的に公安の維持または犯罪の予防・鎮圧に備えて平素から行う情報活動」
としての「一般情報活動」までが加えられている。

こうした活動は
「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護を任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、
被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることをもってその責務とする」

と定めた警察法2条1項が理由とされ、公安警察はこれを根拠に7つの手法を駆使し、時には組み合わせ、あるいは応用を加えて情報の網を広げるための日常的活動を構築してきた。

本章では7手法を基礎に据え、最近の警察庁警備局など公安警察の内部資料を交えながら、その日常の情報収集活動の実態を追う。

青木理「日本の公安警察」

尾行

尾行によって「端緒・条件が見つかる」と強調していて、必要性があると主張している。通常でも3、4人の複数人数で尾行が行われ、対象者に気づかれないよう尾行者が入れ替わり、あるいは先回りし、待ち伏せするなど複雑な形態が取られており、交友関係や普段の行動パターンなどが漏れなく把握される。
「面識率」と言って、顔写真から本人を見つけ出す能力が重宝される。

●尾行

7手法のうち、尾行や張り込み、あるいは聞き込みといった手法は刑事警察においても使用され、公安警察にのみ特異なものではない。
だが尾行ひとつをとっても、公安警察においては慎重さと緻密さが段違いに高い。
何人かの公安警察官の口から刑事警察の尾行との同一視を拒否する強烈なプライドを含んだセリフを耳にしたこともある。
「警備警察全書」も尾行や張り込みに際しては「秘聴器(盗聴器=筆者注)を使用したりカメラを使用する場合は、とくに慎重な配慮が必要」と記述している。
これだけでも公安警察における尾行や張り込みの特殊性、密行性が推し量れよう。

公安警察の尾行対象者は当然、追尾されている可能性を常に念頭に置いている人物が多い。また特定の事件解決のために尾行や張り込みを繰り返す刑事警察に対し、
公安警察の尾行は情報収集が主目的である。
1度でも発覚したら作業は振り出しに戻ってしまう。
「情報収集活動が行われていることを知られた時点で作業は失敗」と言われるゆえんである。
尾行からはさまざまな情報が入手できる。
手元にある警察庁警備局の内部文書はその意義を
「対象を一定期間継続して、視察員が直接追尾し、
その間における対象の状態・動向・関係人物や場所について観察し、
必要な情報・資料を入手しようとする活動」と位置づけ

尾行によって種々の作業を推進するための「端緒・条件が見つかる」と強調している。

尾行や張り込みによって得られる「端緒」にはさまざまなものがある。
対象者の行動範囲、行動や生活のパターンはもちろんのこと、機会があれば本人を始め、接触する人物の写真を隠し撮りすることも可能だ。
自宅以外の立ち寄り先はどこか。
異性関係はどうか。レストランや喫茶店では誰と会うか。
チャンスがあれば近くに席を取り、会話の内容を盗み聞くことも可能。
対象者が使ったカップから指紋を採取することもできる。
行きつけの飲み屋があれば、酒癖、交友関係、経済状態まで聞き出せるかもしれない。

店の雰囲気によっては、後に詳述する「協力者工作」の拠点としても使える。

尾行の手段も対象者の移動手段によって徒歩、乗り物などが考えられるが、
徒歩の場合には通常でも3、4人の複数人数で行われることが多い。
手法にも
「直列式尾行」
「併列式尾行」
「循環式尾行」
「曲角式尾行」
などさまざまなものがあり、
対象者に気づかれないよう尾行者が入れ替わり、
あるいは先回りし、待ち伏せ
するなど複雑な形態が取られる。
重要な対象者の場合、数十人単位の公安警察官が投入されることもあるという。

また、公安警察官にとっては対象団体メンバーの顔をどの程度まで記憶に焼き付け、実際に人物を特定できるかどうかが重要な資質とされ、内部では「面識率」と呼ばれている。
道を歩いていてメンバーを見かけたら尾行する、
あるいは手配されている被疑者を見かけて逮捕する、
路上で対象団体幹部が見知らぬ男と歩いていたら、
男の身元を割り出ずために尾行する、
集会に重要人物が参加していないか確認する

――そんな作業のためにも欠かせない技能とされる。
警察の交通部門が管理する運転免許の顔写真、団体の機関紙誌に掲載された写真、
あるいは集会などに参加した人物や撮影写真を頭にたたき込んで「面識率」の向上を図る

青木理「日本の公安警察」

視察

「視察」とは、対象人物の自宅や立ち回り先などを、あらゆる手法(家宅侵入など非合法を含む)を駆使して監視することをいう。

●視察

情報収集活動の筆頭に挙げられた「観察」は公安警察の情報収集活動の中でも、
最もべーシックな作業
である。「警備警察全書」もこう言う。
「集会・デモ・その他の行事、団体交渉・その他の争議の状況を視察する場合や、
組合本部、団体事務所等を視察して情報を収集する場合である。
これは情報収集としてもっとも一般的な方法である」

この1文のとおり「視察」は、調査対象団体の集会やデモ、
あるいは拠点や対象人物の自宅や立ち回り先などを、
あらゆる手法を駆使して監視することである。

集会やデモのケースで言えば、中核派なり革マル派なりの屋外集会に足を運べば、
周囲を取り囲むおびただしい数の公安警察官の姿を誰もが見かけることが可能だ。
また屋内で行われる集会でも視察が行われるケースは多い。
ただし屋内集会に公安警察官が立ち入る場合、2章で触れた「東大ポポロ事件」のように視察活動が発覚する危険性があるほか、憲法に定められた集会結社の自由と絡む法的問題も残されており、トラブル発生の可能性が高い。公安警察内部でも第一線の公安警察官に対して注意を促している。

手元に集会視察への潜入時における公安警察官の"心構え"とでも言うべき留意点を挙げた内部文書がある。
作成したのは警察庁警備局。一部を列挙する。

(1)集全には自然な形で入場し、その場の空気に溶け込むよう注意すること
(2)会場内では視察しやすく、連絡または退避しやすい場所に位置すること
(3)全場内に視察員が数名いるときは、1ヵ所に集まることのないよう分散すること
(4)メモ・写真撮影・録音などは秘匿して行うこと。その場合、原則として防衛員をつけること
(5)視察員が関係者に不審を抱かれたと認めるときは、速やかに退場すること。
退場時には休憩時間、手洗い、喫煙などの所用にかこつけるなど不自然でないように注意すること。

青木理「日本の公安警察」

拠点・アジトの視察

適当な監視場所がなければ、民家の1室やマンションなどを借りるケースもある。最近は監視用の家を建設したりもするようである。公安警察の情報収集活動は「点」から「線」、さらには網の目状の「面」へと展開され、その人や組織の行動など全てを炙り出そうとする。

●拠点・アジトの視察

集会視察以上に重視され、より実戦的なのが調査対象団体の拠点やアジトに対する視察だ。集会やデモ視察とは対照的に、固定した場所に対する継続的視察活動である。

一例を挙げれば、新左翼セクト「中核派」の拠点「前進社」。
かつて東京都豊島区にあった同派最大の拠点だが、今は移転して東京都江戸川区松江に位置している。
同所に対しては、公安警察だけでも複数の視察拠点を置いているとみられる。
詳細は不明だが、全国各地にある共産党の本支部や有力な左翼セクトの拠点、
朝鮮総連関係の施設、さらに最近であればオウム真理教の拠点施設など

公安警察側によって重要とみなされた場所は、ほとんどが公安警察の視察下に入っているとみてよい

拠点に対する視察は尾行や張り込みといった手法と組み合わされることが多い
拠点視察によって確認した人物を尾行し、張り込みをすることで、
公安警察の情報収集活動は「点」から「線」、さらには網の目状の「面」へと展開される。
某所の拠点から出た人物を尾行し、別のアジトを発見したら直ちに周辺の基礎調査を行った上で視察場所を設定し、そこから出入りする人物を辿ることでさらに新しいアジトを見つけ出す。こうした作業を反復継続することで
公安警察の情報収集活動は網を広げていく

では実際の視察活動はどのような手順を辿って実施に移されていくのか。
多くの公安警察官が「場所の確保に最も神経を使う」と証言している。

視察対象を見渡せる場所にアパートやマンションなどがあれば問題はない
古びたアパートを借りる場合もあれば、マンションを借りる場合もある。
適当な場所がなければ、民家の1室を借りるケースもある。
だが借り上げようとした民家が対象団体関係者宅であったりしたら論外で、
事前に綿密な下調べ=基礎調査が実施される


設定された視察拠点は、重要度に応じたレベルが設定されている。
24時間体制の張り込み要員が常駐するところもあれば、
昼だけ人を配置して夜間はカメラだけを置いている場所もあり、
1ヵ所の対象に対して複数の拠点を置く場合には、カメラを置く拠点、
出入りする人物を追跡する要員を置く提点などに分散される
こともある。

視察可能な場所にアパートやマンションどころか、民家すらみつからない場合はどうするのか。ある公安警察OBがこう言って笑ったことがある。

「目の前が畑なら、畑にカメラだけ設置する。
刈り取りの終わった田んぼに積まれたワラの中に拠点を作った際には、捜査員が腰を悪くした。
2週間に1度、ある人物がある道を通るかどうかを確認するためだけに拠点を作ったこともある。
頻繁に捜査員が交代すると不審に思われるので長時間勤務にしたら、担当者が心臓病になってしまった」

青木理「日本の公安警察」

慎重な視察活動

公安警察の視察活動は臆病なほど慎重だ。ただ、最近は揉み消せることで強気になり、気付かれることを恐れなくなり、堂々と視察活動をしている公安も増えてる模様。

●慎重な視察活動

視察拠点の維持にも細心の注意が払われる。
例えば拠点への出入りや食事。弁当や飲食物は近隣の同じ店ばかりで買わないのが原則で、家で作った弁当を持ち込むのが最善。従業員や近隣住民に顔を覚えられ、発覚の危険度が高まるほか、買った弁当ばかりでは排出されるゴミが不自然になる。
出入りや物資運搬に使う車両もレンタカーや警察車両を極力使わないように配慮される

一般の車両はお守りや飾り、カバーなどによって生活の臭いが漂うが、
生活感のない警察車両やレンタカーは、佇まいの不自然さを覆い隠しようがない。
当然、視察員は拠点に合わせた服装や振る舞いが要求される。
拠点は古びたアパートのこともあれば、高級マンションのこともあり、その場所に合わせた自然な服装、行動を取らねばならない。公安警察の視察活動は臆病なほど慎重だ。ある公安警察幹部がこう語ったことがある。

「近くを通りかかったときに視察場所を知っていると、
どうしてもその方角に視線が流れてしまうから、必要以上に視察場所の住所は覚えないようにしている。我々の視察では対象から出入りした人物が視察拠点の方角を見ただけで、撤収してしまうぐらいだ

青木理「日本の公安警察」

伊丹万作「騙されることの責任」

もちろん、「騙す方が100%悪い」のは紛れもない事実である。
その上で更に「騙されることの責任」を考えよう。

伊丹万作「騙されることの責任」

もう一つ別の見方から考えると、いくら騙す者がいても誰1人騙される者がなかったとしたら今度のような戦争は成り立たなかったに違いないのである。
つまり、騙す者だけでは戦争は起らない。騙す者と騙される者とがそろわなければ戦争は起らない一度騙されたら、二度と騙されまいとする真剣な自己反省と努力がなければ人間が進歩するわけはない騙されたとさえいえば、一切の責任から解放され、無条件で正義派になれるように勘違いしている人は、もう一度よく顔を洗い直さなければならぬ。
伊丹万作「戦争責任者の問題」より


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