埋められた線路の上を歩く
いつもの独演会は大体三席だけど、今日は濃厚な二席だった。こういうプログラムも良いな。めちゃくちゃ面白かった。独演会は深い噺が聴けるから好き。
萬橘師匠もこの会場にいらっしゃるのは初めてだったようで、どんな客層なのかを長めのマクラで探ってた。各地から集まってきたファン層という印象だった、私は。
「洒落小町」は内容があまりに新鮮だったから新作かと思ったけど、後で調べたら古典だった。たぶん、萬橘師匠の解釈が入ってるから新しく聞こえたんだ。フツウな奥さんが畳み掛ける洒落を言う話芸に圧倒された。この人は時代が違えば世間に注目されて芸人になれたんじゃないか。こういう隠れた天才だって江戸にいたはず、と思わせる萬橘師匠がすごい。
「妾馬」は正直あまり好きな噺ではないけど、萬橘師匠が話すと全然印象が違った。まさかこの噺で泣くとは。理不尽な階級制度、女だから、庶民だから、家来だから、殿だから、こう喋って、こう振る舞うのがフツウでしょと、各々与えられた環境でその役を演じる人たちに、八五郎が「お前、本当にこんな所来たかったのか?もし嫌なんだったら、あんちゃんが今すぐお前をここから連れ出すぞ」と言ってくれた時、涙が吹き出した。
今回の会のテーマは、人間はどう足掻いたって不平等だし、差があるし、他人との高低差を見て「あいつよりは上だ」と思ったりしないと、バランスが取れない生き物なんだから、それをちゃんと認めろよ、綺麗事ばっかり言うんじゃねえということかなあと、帰り道、豊洲駅の埋められた線路の上を歩きながら考えていた。