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神様への願い

「神は死んだ」ってどこかの偉大な哲学者が言っていたけど、その言葉は嘘だと思う。だって、僕の目の前に神様が現れたからだ。神様は僕が想像したとおりの身なりをしていた。80歳くらいの白髪のおじいちゃんで、白くて長いひげを生やして、古臭い杖をもって、頭の上に黄色い輪っかみたいなのが浮かんでいる。そして神様はお決まりの一言を僕に投げかけた。

「お前の望みを一つかなえてやろう」。

本当に望みをかなえてくれるのだろうかという疑問をもつ一方、目の前にいるのはマジの神様で願いを叶えてくれるんじゃないかという淡い期待もあった。ほとんどの人が人生で必ず一回は考える願いであろう「お金持ちになりたい」という願いはあえてやめにした。今はお金なんかの物理的なものよりも精神的な問題を解決したかったからだ。僕の今の状況を伝えておこう。僕は極度に他人の視線を恐れ、何気ない一言に傷つき、いつも家に一人きりでこもって悩んでいる陰気な人間だ。何のために人は生きているんだろうと何度思ったことか。こんな状態なので、もちろんお金がほしいなんて思うこともない。神様への願いは決まった。

「優しい妻と子供に囲まれた幸せな家庭をもち、多趣味でたくさんの友達がいる生活をしてみたい!」

神様はにこやかに言った。「もちろん、良いだろう」

「パパっ!ねてないではやく遊ぼ!」3歳になる息子の声で目が覚めた。神様は本物だった。幸せな生活が始まった。休日には、4LDKのマイホームで息子とトミカの車で遊んだり、家族3人で大型ショッピングモールにいき、ゆったりと買い物をする。仕事終わりには友人たちと飲みにいって、どうでもいい小話を日付が変わるまで永遠と話すのだ。釣り、カフェ巡り、読書、音楽、映画鑑賞、写真などの趣味を持ち、毎日が充実していた。ただ、こんな充実した日々を過ごしていても一つだけ、手に入れることができないものがあった。それは、神様の願いをかなえる前には有り余るほどにあったもの、つまり「時間」だった。いつしか、一人きりで何も考えずに過ごす時間が欲しいと思うようになった。でも、周りの環境がそれを許さなかった。子育て、友人との遊び、趣味、それらすべてが辛くなってきた。と思っていた矢先、いいタイミングで神様がすっと僕の目の前に現れて言った。

「お前の望みを一つかなえてやろう」

僕は即答した。

「願いを叶える前に戻してほしい」

神様はため息をつきながら微笑んだ。

気が付けば一人で真っ暗な天井を見上げていた。ようやく時間を取り戻すことができたという安堵感でいっぱいだった。

数か月後、神様が現れてまた願いを叶えてもらった。

「パパっ!ねてないではやく遊ぼ!」陽気な息子に起こされ、一緒にトミカのおもちゃで遊んでいた。

神様は僕に言った。

「もうわかっただろう?こういうものなんだよ、人間というものは、、、」

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