[暮らしっ句]風光る[俳句鑑賞]
窓の字に心がありて 風光る 近藤千雅
作者に心があるから「心」が見えたわけですが、「窓」と「心」の取り合わせが新鮮でした。
最近、「意識」研究の話をよく聞くのですが、「目の前の点を見つめていて下さい」と云われているのに、別のことを話しかけられると「見ているはずの点が消える」という実験があるそうです。
このことから「見ているというのは実際には脳が見ている」と結論づけられるのだとか。脳がほかのことに意識を向けると、目から入ってる情報はスルーされてしまう。
もしかしたら「窓」という漢字には、そのあたりの意味も込められているのかも。意識の「窓」は「心」次第で開いたり閉じたり、時には曇ったり、世界を輝かさせたり!
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風光る 心あかせる人の居て 平保子
「心あかせる人」、ひらたくいえば「何でも話せる相手」ですね。そんな相手、関係に恵まれるには、どこにポイントがあるのでしょう?
SNSを思い浮かべると、コンテンツが素晴らしくても「いいね」があまりつかない人がいます。だいたいそういう方は発信オンリー。それに比べて「いいね」の多い人は双方向の人が多いように思います。相手の記事を読む人です。が、これが簡単ではありません。たまにならともかく、?な話を読み続けるのは苦行ですから。
そう考えると、何でも話せる相手というのは、お互いが好意を持っていて、リスペクトがある関係と云えそう。
そんな関係、自分もそういう存在であれば、それは幸せですね。
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風光る ほんとうのこと言いそうに 中原幸子
上の句に続けて鑑賞するとおもしろい。一応、解読しておくと、先の句は「心あかせる人」がいることで世界が輝いて感じられるという句。
それに対してこの句の「風光る」は、「相手が一瞬だけ、いい人に感じられた」ということでしょう。実際には、まだよく知らない相手なので、その「輝き」はイリュージョンの可能性がある…… と、作者は危ういところで分別した。まあ、光り物には要注意~
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転んでも すぐ起きる児や 風光る 開田梅月
持てる力 出しきりし子や 風光る 小阪喜美子
子どもは風の子と云いますが、輝く存在でもあります。「子光る」という言葉を作りたいほど。そして、それにセットなのが「母」です。
一昨日は入学式だったらしく、親子連れをたくさん見かけたんですが、「信号変わったよぉ、ひだり見てぇ、みぎ見てぇ、さぁ、わたるよぉ~」 その声は唄ってるようで、でも甘くはない。コワイとか優しいとか、そんな言葉ではとても言い尽くせないものがありました。「母」の場合は「光る」というのとはちょっと違う。「照らす」かな。そんな母がいて子がいれば、そりゃあその家庭は明るい~
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計画の旅路 これより風光る 稲畑汀子
ここからは大和なりけり 風光る 野澤あき
風光る丸木の橋を トムソーヤ 松本きみ枝
光っているのは、作者の心にある期待と抱負。
未知の世界に足を踏み入れる胸の高鳴りが「風光る」と表現されている。
自分のことでいうと、散歩大好きなんですが近所の散歩だけでは、どうも足りないものがある。何となく気づいてはいたのですが、答えはここにありました。未知への期待と不安、冒険、挑戦、そういうのも必要なんですね。さて、どこへ行こう?
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老いたれど 朝の身仕度 風光る 片渕清子
冒険や挑戦もいいけれど、毎日の暮らしも奥が深い。おひとり暮らしと察せられましたが、誰が見ていなくても、誰のためでもなくきっちりやる。
すると身の回りのもの、見慣れたものが輝いてくる…… よしっ!
こっちの世界もかなり素敵。
出典 俳誌のサロン 歳時記 風光る
歳時記 風光る
ttp://www.haisi.com/saijiki/inuhuguri1.htm
見出し画像は、tibihimeさんの作品です。
ありがとうございました。