[暮らしっ句]しやぼん玉2[俳句鑑賞]
危ふさを膨らませをり 石鹸玉 金森教子
「バブル」というやつですね。こないだも超富裕層は「もう売った」という話が聞こえてきました。まあアテになりませんげとね。売ったのは一ヶ月か二ヶ月も前のことで、また、しれっと買い戻してるかもしれませんから。
しかし実体経済が低迷している以上、長くはつづきません。それは確か。まさに「危ふさを膨らませをり」状態。
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あやふさを風に預けて しやぼん玉 佐藤みほ
これも相場に結び付けられますね。相場なんて自分の大事な財産を「風」に預けているようなものかも。「わーい、上がった~上がった~ パン!」
切り替えましょう。
「あやふさ」というのが自分の中のネガティヴな不安や疑心なら、そんなものは「風」さんに回収してもらった方が良い。
「風」さんはどうするか? パン!です。そっちのイメージはありがたい~
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しやぼん玉 学費の足しにせむと吹く 山野みどり
子どもの学費を十分に用意できなかった親御さん。せめてこれを足しにしてと「しやぼん玉」を吹いた。
「しやぼん玉」が「足し」になるの? なるわけありません。どうすることもできない、という意味の云い換え。
おそらく作者は、お金にならないことを大事にされてきたのではないかと思います。しかし、いざお金が必要になると気持ちが揺れた。
でも…… というのが詩のマジック。世の中、人生、お金だけじゃないはず! 届け、この気持ち!
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何捨てて 大人になりし しやぼん玉 森茉明
哲学の問いのよう。少しずつ読み解いてみます。
普通に云えば、大人になるのは、さまざまなことを身につけること。経験、ノウハウ、貯蓄等々。この句は、まずそこからして反転させています。大人になるのは捨てることだ云わんばかり。
でも、そんなふうに投げかけられると、「あれも欲しい、これも欲しい」と云っていたのでは大人になれない、なんてことが思い浮かびます。嫌なこと辛いことも我慢しなければというのは「我を捨てる」ということでもあります。
しかし、この句にはもう一つの反転がある。そうやって大人になった姿が「しやぼん玉」だというのです。玉や大樹ではない。
してみると、作者の云う「大人」は世間の常識とは違う。云うなれば「仙人」や「羅漢」のような存在。でも、ようやく超人に成れたというのに、それがはかない「しやぼん玉」というのは、これ如何に?
おそらく一般人が見れば、「仙人」や「羅漢」だって吹けば飛ぶような存在に見えるのでしょう。何しろ自分で稼いでいないのですから!
しかし、作者はそんな存在こそが「大人」だと見ている。深い。
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両手あげ ややの追ひつく しゃぼんだま 吉弘恭子
仏教には「菩薩」という概念があります。悟って上の世界に行ける実力があるのに、人々を救済するためにこの世に留まっている仏さま。
その「しやぼん玉」は、あたかもそんなふうに地面に近くにとどまってくれていた。
おもしろいのは「両手あげ」とされているところ。「菩薩」の救済も本人が気づいて手を伸ばさないと届かない……そう説かれているかのようです。
お説教っぽくなったので最後にお口直し
シャボン玉ふくやうなキス してみてよ 中谷喜美子
しやぼん玉 吹いて寄り目になつてゐし 青山悠
旅人になりたくて吹く しやぼん玉 篠藤千佳子
野に吹けば 野のいろをして しやぼん玉 服部早苗
出典 俳誌のサロン 歳時記 しやぼん玉
歳時記 しやぼん玉
ttp://www.haisi.com/saijiki/shabon.htm
見出し画像は、corocoroccoさんの作品です。
ありがとうございました。