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[黒小噺]ウナギの人口論

滋養強壮に効くとされる鰻
鰻自身は、どうやって「精」をつけているのでしょう?

ニュース・キャスター「先生のご著書、たいへん興味深く拝見させていただきました。ウナギについてのご研究もさることながら、人口削減の因暴論について一石を投じる見解が印象的でした」

ウナギ学者「人口論は専門ではありませんし、因暴論についてふれるのもどうかと思ったのですが、今は二極化が進んで、違う意見の相手とは話もしなくなってるじゃないですか。それが一番の問題かと思い、新しい視点を提供したいと」

ニュース・キャスター「先生から、内容をご紹介いただけますでしょうか」

ウナギ学者「わかりました。いわばウナギの稚魚の人口論なんですが……
 ウナギの稚魚を空輸すると、途中で大半が死んでしまうのです。どんなに環境を整えても生存率2割程度でした。
 ところが、その水槽にナマズを入れると、稚魚の2割はナマズに食われるんですが、8割が死ななかったんです

ニュース・キャスター「捕食者がいることで、かえって生存率があがったと?」

ウナギ学者「にわかには信じがたい事実ですが、生命の危機が潜在的な生命力を引き出したのです」

ニュース・キャスター「鰻を食べると精がつくと云われますが、ウナギ自身はそんなふうにして潜在力を発揮していたのですね。
 で、先生はそれを人間社会にも当てはめて考えられた」

ウナギ学者「環境問題、エネルギーや食糧の不足、パンデミック等々、今日の世界は幾つもの深刻な問題に直面しております。それが仕組まれたものであると考えると因暴論になってしまいますが、人口が急減しかねない危機があることは確かなんです」

ニュース・キャスター「その危機が逆に人々の潜在的なチカラを引き出すかもしれない?」

ウナギ学者「その可能性があると思います。さまざまな問題によって相当の被害が出ても、かえって強くなる人が出てくるのではないでしょうか」

ニュース・キャスター「ということは、もし超国家的な権力が存在するのなら、いわば親御心として、危機を創りだしている可能性があると?」

ウナギ学者「一応、大学に籍を置く身ですので、超国家権力が存在するかのような発言は控えさせていただきますが、危機には悪い面ばかりでなく良い面もあると指摘したかったのです」

ニュース・キャスター「なるほど。しかし、ウナギの稚魚と人間とでは違う面もあるとも書いておられましたね」

ウナギ学者「ウナギの場合は、目の前に恐ろしいナマズがいるわけです。すべての稚魚が危機感を共有します。ところが、人間社会の危機、食糧危機にせよ、異常気象にせよ、パンデミックにせよ、すべての人が目の当たりするわけではありません。苦しむ人たちを対岸の火事のように、他人事として眺めていると、潜在的な生命力は発動しないと思います

ニュース・キャスター危機をちゃんと認識して乗り越える行動を起こさない意味がない?」

ウナギ学者「誰々が悪企みしているとか、そのせいでひどい目に遭っているとか、単に怒ったり、悲観したりしていても潜在的な生命力は目覚めないと思うんです。どうすれば試練を潜り抜けられるか? 必死になってそれを追い求めた者にだけ火事場の馬鹿ヂカラが出る

ニュース・キャスター「ウナギって、てっきり。のらりくらりと生きてるんだと思ってましたが違ったんですね」

ウナギ学者「どちらかというと、権力とかそのブレーンのほうが、ウナギ的じゃないですかね。あの手この手でやってきますから」

ニュース・キャスター「といいますと?」

ウナギ学者「ククチンへの反発が高まってくると粉末化して冷たい食品に混ぜるとか、一人が打つとその成分が周囲の人に移行する、そんな仕組みのククチンを開発するとか。どんなに被害が出ても、まったく懲りずに、次から次に新しい手を繰り出してきますから……」

ニュース・キャスター「え? もうククチンの注射はしなくてよくなるんですか?」

ウナギ学者「それは… はい。間もなく」

ニュース・キャスター「そりゃあいいですね。そうやって癌のククチンとか太らないククチンとか、どんどんバラ撒いてくれればいいのに!」

ウナギ学者「…………」

ニュース・キャスター「先生が脅かすようなことをおっしゃるから、これからは危機感を強く持たないと生き残れないかと心配になりましたが、やっぱり、ニンゲンはウナギとは違うんだ。安心しました。
 だいたい物事を疑うのは性に合わないんです。ましてや専門家の薦めることならありがたく信じたいじゃないですか。それに明るい気持ちでいたほうが免役も活性化するといいますしね」

ウナギ学者「わたしが云いたかったのは、危機意識が眠っている生命力を目覚めさせるということで……」

ニュース・キャスター「そうでした。そうでした。先生がおっしゃりたいのはこういうことでしょう。
 員暴論者が恐ろしい話をまき散らしてくれるおかげで、一般人の刺激になると。員暴論者がいわばナマズに相当するわけですね。彼らにも存在価値があるわけだ」

ウナギ学者「…………」

ニュース・キャスター
「これからは時々、私も員暴論に目を通すことにしますよ。そして、

ギョっとします!

 ナマズだけに~ いや、失礼。ワハハハハ……」


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