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作詞講座 第七回 「断片とコラージュ」

今でこそ、忌み嫌われるようなアイテムになってしまった「煙草(たばこ)」だが、一昔前は、重要な歌詞アイテムだった。
煙草の銘柄が出てくる歌詞もある。

ポケットで折れていたハイライト
おかしくて吸う気にもなれず
かじりかけの林檎をただ思い切り
投げつける都会の闇に

狂った果実  アリス(作詞:谷村新司)

ハイライトという銘柄が使われている。たぶん、この歌の情緒を考えると、少し安っぽい、少しありふれた煙草の銘柄(当時)として、歌詞にでてくるのはハイライトでなければならなかっただろう。
他にも、私がざっと思いつくだけで、こんな銘柄が歌詞に登場する歌がある。

  • ショートピース

  • ジタン

  • ゴロワーズ

  • イブ

  • しんせい

昔は、煙草の銘柄だけで、共通のイメージを、聴く人に持たせることができたが、今ではそんな感覚も無くなってしまった。
それでも、なにか使えそうな煙草があれば、メモしておこう。

では、煙草に続いて、歌詞のアイテムとして、電車、路線名はどうだろう?

それぞれの道を選び ふたりは春を終えた
咲き誇る明日は あたしを焦らせて
小田急線の窓に 今年もさくらが映る
君の声が この胸に 聞こえてくるよ

SAKURA いきものがかり(作詞:水野良樹)

「小田急線」という路線名である。この小田急線といいうニュアンスは、関東地方に住んでないとわからないかもしれない。
地方から出てきた若者が住まいを借りるのは、多くは東京の西側の地域。それで、小田急線と、京王線、中央線、西武線、東武線、それぞれに雰囲気を持ってる。
すこししゃれて、背伸びしたイメージを持つのは小田急線沿線か。
言葉で全部を語るのは難しいが、この歌詞には小田急線である理由がある。

先に上げた東京の路線も、歌詞に使われている。
東京に限らない、あなたなら、どんな路線を歌詞に入れようか?
メモしてみて欲しい。

東北本線いつ乗っても
お茶がこぼれて一人笑う
終点まで行くつもりが
ふと仙台あたりでおりたくなる

終点まで満員 山崎ハコ

鉄道は情緒の塊で、どんな路線でも歌になりそうだ。
ワンフレーズで、そこから、共感する情緒を醸し出す、そんなフレーズを見つけられたらいい。

そんな、いつか歌詞で使うためのフレーズのメモをつけていくこと。
それが、作詞にとって大切だ。
フレーズが歌詞を構成するための断片となり、その断片をコラージュして全体を組み立てる。
そんな歌詞の作り方がある。

普段から歌詞に使えそうなフレーズを、思いついた、見つけたときに、すぐメモするようにする。
ちなみに、私の場合は、Microsoft 社の OneNoteというアプリを使ってる。思いついたらスマホを取り出してササっとメモ。OneNote であれば、後でiPad でも PC でも、同じアプリを使って、見ることも、書き足すこともできる。
将来、歌詞の断片となるフレーズのストックをためよう。

作詞講座の第一回でテーマを決めることが大切と語ったが、では具体的な作り方のひとつとして、そのテーマにまつわる色々なフレーズをイメージしてメモしてみよう。

僕が投げかけた光は屈折して
君のところまで届かない
多面体のような世界に囲まれて
まるでとらわれ人のよう
~~~
ファインダーの中見えていた風景も
波長を間違えた思い出だね
どこから懐かしい歌が聞こえて来たら
少し笑顔を取り戻す

君が心から投げかけた優しさも
クォーツの中で分散する
君と僕の間に隙間ができないほど
強く強く抱きしめる

プリズムプリズン 頭慢

以前にも例示したが、私の「プリズムプリズン」という歌。
「プリズム」というテーマで歌詞を書こうと思った。その時に行ったことは、WikiPediaで、プリズムの章を開く事だった。
そして、そこに出てくるフレーズをどんどんメモしていった。

  • 屈折

  • 多面体

  • 波長

  • クォーツ

それが、歌詞の断片となる。そのフレーズをつなげてコラージュして、歌詞を組み立てる。
そんな方法で、この歌は作った。

既存の歌で、そんな風に、断片→コラージュで、歌詞を作った歌があるかどうか、そのあたりは作詞をした人に聞いてみないとわからない。
唯一、この歌は、それに近い作り方をした歌だとわかる。それは、作詞家のひとがはっきり語ってる。

よこはま たそがれ ホテルの小部屋
くちづけ 残り香 煙草のけむり
ブルース 口笛 女の 涙
あの人は 行って 行ってしまった
あの人は 行って 行ってしまった
もう帰らない

< よこはま・たそがれ 五木ひろし(作詞:山口洋子)>

この歌は、過去の演歌の歌詞を調べ、よく出てくるフレーズを並べたのだそうだ。

最後に、もう一曲、私の歌から。

子供の頃には歳ばかりを
聞かれたことを思い出した
軍刀を下げた憲兵目立つほど殺される
白い顎髭の老人が笑う

天安門楼上を爆発せよ
ビジネスマンの役はもう終わり
中国服を手に入れロシア国境を目指せ
行動に移れとメールがくる

ソウル東京パリロスローマ北京
This is no your place. I don't know where I belonged.

垣間見た未来が明日の延長であるとは限らない
思い出した過去の先が昨日であるとは限らない

< Dead December 頭慢(作詞:頭慢+ノブさん)>

この歌詞は、音楽仲間のノブさんこと秋葉信雄氏の短編小説集「Dead Dcember 死んだ師走」の中におさめられた、いくつもの小説からフレーズを拾い集めて歌詞に構成した歌である。
ただし、サビのフレーズ「垣間見た・・」は、私のオリジナル・・といいうか、この小説集の書評を私が書いたときの文章からのコラージュだ。
小説の作者にことわりもせず、歌詞にしたので、本人の前で発表するときは、おっかなびっくりだったのだが、気に入ってくれて、本人も歌ってくれた。

普段から歌詞にするといいなと思うようなフレーズをメモしていくこと。
これが歌詞を作る際の大切なネタとなる。
また、まとまって、これをテーマにというときには、何か他人の文章からフレーズを抜き出して歌詞の断片としてもいいだろう。
それらのストックをコラージュして歌詞に組み上げる方法がある

作詞講座第七回のまとめ
「フレーズを歌詞の断片としてメモ、それをコラージュして歌詞に組み上げる」

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