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ナチュラルボーンチキン、中年でこのまま朽ちる可能性のある女に効く本。

タイトルひどいですが、まさにそのように感じました。
本の感想って年々言葉が浮かばなくなっているのですが、この本は久しぶりに心を揺さぶりました。
主人公は文芸社で労務課にいる40代の事務員の女です。似たようなご飯を自炊し、ルーチンが決まっており、友達も恋人も家族もいない女でした。
ところが、足の捻挫で在宅ワークの延長を希望するような、ともそれば不真面目な若い、いわゆる陽キャな編集者と出会ったことで生活が一変します。
つまらない生活にやすらぎを見出していたはずなのに、調子が狂いはじめます。陽キャな編集者は平木さんという女性でホスト通いをしていたりします。その方が主人公に騙し討ちみたいな感じでライブに誘います。
そこでヘビメタ系バンドの方と知り合います。もともと、平木さんは交流があるそうでーー前半の閉じた世界から、過去の灰色の粉塵から色が戻ってきて、最後はとても穏やかな終わり方をするのです。この本のカテゴリは恋愛小説といっても過言ではないのですが、中年の生き方について語っている本でもあります。
私も生き方を模索しており、疑問をもっており、どうしたらいいのかわからず過去を振り返ることもできていないおばさんです。
そうしたときに、こちらの主人公の世界への「ひらきなおり」方をみていると心が救われていくようです。
そして出会った「まさか」さん。こちらが素晴らしく丁寧でいい。
私も好きになりました。この人も世界を開いてくれました。
そこはちょっとご都合主義な気もしますが、夢をみたっていいですよね。本書は救いであり、小説なのですから。
みんながもっている、あたりまえのもの。結婚。やりがいのある仕事。子供。それらを凌駕する推し活。恋愛。なんでも話せる友達。お金。仲のいい家族……全部もっていないといけない、わけでもいのに、私ももっていないものを数えてもっている人を羨ましいと感じてしまいます。それらを手に入れるためにどうしたらいいのかと不安になる夜もあります。過去の失敗を悔やんでしまうこともあります。
本当の意味で「持っている」と思えるものはこの世では少ないのに手にしたいと願ってしまうのが人間です。
死んでももっていけるものなど、ありはしません。物理的に持つことはできても、それ以外の意味を成しえません。物理的でもいいから持ち、他人からの虚栄心、安心がほしいから持つのでしょうか。もっても安心できないのなら「持つ」意味はありませんよね。
なにももっていないからこそ、二人はこのひとになら殺されてもいいかと達観した気持ちとなったのでしょう。
怖い、から勇気をもって一歩足を踏み出した瞬間です。
まさかさんが、優しすぎるというのもありますか(^^)
ともかく感情がつまった一冊。社会問題にも触れている気がするし、さすがとしかいいようがありません金原さん!

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ミツモト烏兎
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