中銀カプセルスタイル: 20人の物語で見る誰も知らないカプセルタワー(Nakagin Capsule Style)
クラウドファンディングで支援したこの本には、僕の名前が入っている。銀座八丁目に昨年まで存在していた、「中銀カプセルタワービル」についての本。僕は、このビルに2019年10月から11月にかけての1か月間住んでいた。
1972年に竣工したこのビルは、黒川紀章さんの設計によるもの。新陳代謝を意味する「メタボリズム」という建築コンセプトのもと、140個あるそれぞれ独立した「カプセルユニット」が日本のコアシャフトに固定されており、細胞が増殖・成長するように、建物自体も有機的に入れ替わりながら進化していく計画だった。残念ながら、解体されるまでの50年間、一度もカプセルユニットが交換されることはなかった。
1972年と言えば、科学の力が世界をよりよくすると信じられていた頃。アポロ16号と17号が相次いで月に降り立ち、月面探査が行われた。超音速旅客機のコンコルドが羽田空港に初めて着陸したのもこの年。みんな、科学の力が明るい未来をもたらすと信じていた。
残念ながら、1972年を最後に人が月を訪れることはなくなった。コンコルドも就航終了。空飛ぶ自動車や人型ロボットも実現しそうでしていない。みんなが思い描いた未来は、幻だったのか?
人間が月面に降り立つことはなくなったが、国際宇宙ステーションISSでは今日もまた世界5つの宇宙機関が協力して研究プロジェクトが進行中。速さと乗客数を競っていた旅客機は、現在はより燃費がよくて必要な数の乗客を乗せることができるものに変わりつつある。そして、中銀カプセルタワービルも解体されてはしまったが、そこから救出された23個のカプセルユニットが保存・再生されて、これから世界各地へ旅立とうとしている、と。
そんな感じで、50年前に思い描いた世界とはちょっと違うかもしれないけれど、世界はあきらかに進歩しているし、みんなで明るい未来を築こうと努力を続けている。
たった一ヶ月ではあったが、あのカプセルの中で過ごすことができたのはとても貴重な体験だった。そして、僕が住んでいたカプセルも、保存・再生され、第二の人生を歩むことが決まっている。銀座八丁目から飛び立ち、それぞれ物語は続いていく。
「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。