【マリア・ジョアン・ピレシュ】祝「高松宮殿下記念世界文化賞」受賞!台湾でも大人気🎶世界的ピアニストのリサイタルツアー台北公演
ポルトガル出身の大ピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュ(ピリス)が、10月に台北、台中、高雄の3都市を巡る台湾リサイタルツアーを行いました。御年80歳、巨匠ピアニストのピレシュさんですが、台湾のファンからは親しみと尊敬の念を込め「阿嬤」(アマー/おばあちゃん)というニックネームで呼ばれ、台湾で最も人気を集めるピアニストの1人です。
台北公演のレポートなどについて記事にしました。
本日のピアニスト🎹マリア・ジョアン・ピレシュ(ピリス)
ポルトガルのリスボン出身であるピレシュさんは、NHK教育の『スーパーピアノレッスン』にも出演したことがある、日本でも大人気の世界的ピアニストです。幼少期から類まれな音楽の才能に恵まれ、ドイツで研鑽を積み、長いキャリアの中で傑出したソリストとして活躍、数多くのCDをリリースしてきました。今年9月発表の「高松宮殿下記念世界文化賞」で、マリア・ジョアン・ピレシュさんは音楽部門の受賞者に選ばれました。こちらの賞は「芸術界のノーベル賞」とも呼ばれ、過去には名だたる音楽家たちも受賞をしてきました。ちなみに今年は、演劇・映像部門で、台湾の映画監督である李安(アン・リー)も選ばれました。台湾のファンたちも「阿嬤」と李安の受賞を喜んでいます。授賞式は今月、11月19日に日本で予定されていますが、11月2日にはサントリーホールでピレシュさんが伴奏する「冬の旅」の公演もあり、今月も大注目です。
コンサートレポート
Pires in Taiwan - Tour 2024《皮耶絲重返台灣》
日時:10月5日(木)20:00
会場:國家音樂廳
ピアノ:FAZIOLI
台湾は台風の影響を考慮し各市が「停班停課」(台風休み)を発令します。学校や会社は強制的に休みになり、コンサートなどの公演も中止や延期になるなどします。予定されていたリサイタルツアーはちょうど台風の到来に重なり(10月1日台中、3日高雄、5日台北が予定されていた)公演を楽しみに待っていたファンは、心配しながら台風情報を見守りました。結果的に高雄公演が延期されましたが、3都市での公演は無事に行われました。
台中でのトークイベント
台中では10月13日に「Meet and Greet Maria João Pires in Taiwan 2024《皮耶絲 2024 台灣見面會 》」と題されたトークイベントも開催し、こちらのイベントはYouTubeでもライブ配信されました。
台湾の人たちのコミュニケーションへの積極性はいつも見習うべきだと思っていますが、YouTubeのアーカイブ映像を見ていただくと、英語を使って積極的に質問する台湾の方の様子が見られます。
そして、自らマイクを持って会場を移動し、質問した方にしっかり向き合いながら実に謙虚に答えるピレシュさんの様子も見られて興味深いです。質問をした人の中には台湾のピアニストで人気YouTuberの江老師(ジャンラオシー)の姿もありました。
また、このイベントで司会・通訳を務めているのは、台湾を代表する音楽評論家であり文筆家の焦元溥(ジャオ・ユアンプー)さんです。焦元溥先生は、数多くの世界的なピアニストにインタビューを行っており、その膨大なインタビュー録は本になって出版されています。『遊藝黑白』というこの本は、日本語にも翻訳されています。
今回のツアーの節目冊(有料プログラム)は、焦元溥先生によるインタビュー、楽曲解説も掲載された分厚いもので、1冊の本、出版物のような内容の充実ぶりでした。ちなみに台北公演当日はこちらのプログラムとCD(日本版がたくさん売られてました)販売コーナーも大盛況でした。上のYouTube映像の中では、焦元溥先生自身もピレシュさんを「アマー」と呼んでいるのが、聞いていただけます。
「阿嬤」(アマー)というニックネーム
台湾ではおばあちゃんを呼ぶときに「アマー」と呼びかけます。親しみを込めて呼びかける際の呼称で、発音はマ行の音ですしとても優しい響きの単語です。2022年に待望の初来台を果たしたピレシュさんが、台湾のファンの間で「阿嬤」(アマー)と呼ばれ、これほど台湾の人から愛されているのは、なぜなのでしょうか。かつてピレシュさんは、以下のようなコメントをしたそうです。
この発言はピレシュさんの人間性や謙虚な姿勢を表すものとしてファンに認知されただけでなく、最大の親しみと尊敬の念を込めて「阿嬤」(おばあちゃん)と呼ばれることになったきっかけとなりました。
イベントでは、アドバイスを聞いて涙を流すジャンラオシーを暖かく包み込むようなピレシュさんの姿が見られます。その存在感は、まさに酸いも甘いも噛み分ける、懐深い「アマー」のようです。
台湾では、コンサート本番だけでなく、イベントやインタビュー、SNS、YouTube動画などのコンテンツを通じて、アーティストの音楽性だけではなく、個性や人間性に触れる機会も多いように思います。それらの情報がネットを通じてたくさんの人にリーチする環境があり、このことがクラシック音楽を身近なものにしている要因にもなっているかもしれないと改めて感じました。
本日のプログラム
モーツァルト:ピアノソナタ K330
ピアノソナタ K333
ショパン:ノクターン Op.9-1,2,3
ノクターン Op.27-1,2
ノクターン Op.72
ドビュッシー:ピアノのために
本日のアンコール
ドビュッシー:アラベスク第1番
2024年ツアーのプログラムのプレイリスト↓
公演開始時、ピレシュさんは舞台にマイクを持って登場し、プログラムの変更(演奏順変更と追加)についてお話をしました。その際には上述の焦元溥先生も一緒に登場し、通訳してくださいました。プログラムの変更は、台中公演を受けてミュージックフローとプログラムのバランスを再考慮したためだそうです。台北公演では、元々後半で演奏される予定だったモーツァルトのピアノソナタをプログラムの開始に据え、予定になかったドビュッシーの「ピアノのために」という組曲を最後に演奏してくれました。舞台上でピレシュさんが「皆様がよろしければ、もう一曲披露したいと思います」と言うと、会場は喜びの歓声で盛り上がりました。
公演は8時から、途中休憩なしで行われました。休憩を挟まない分、高い緊張感と集中力を保ったまま鑑賞することになります。ピレシュさんは、楽章間など拍手のない部分で一旦離れた会場の集中力を、次の曲の演奏で見事に再度舞台上に引きつけます。後半にかけてそのような舞台と観客のインタラクションが強くなっていき、ともに大きな深呼吸をしているような一体感を生み出していきました。空間全体を大きな有機体に変化させるような、そんなカリスマに満ちた演奏でした。小柄な体から放たれるパワーとその演奏は驚異的です。演奏後は会場総立ちのスタンディングオベーション、歓声と拍手の嵐となり、圧倒的なリサイタルとなりました。
素晴らしいリサイタル体験でした。家に帰ってから、購入したプログラム(もはや1冊の本!)も楽しみ、録音を聞いてマリア・ジョアン・ピレシュの音楽の世界を探求しています。皆様も試聴リンクからぜひ音楽を聴いてみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。