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人生でもう二度とやらないであろう傑作『WHITE ALBUM2』 レビュー
プレイ中、あまりの辛さに「クリアしたらもう二度とやらない」と決めた大傑作。
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こんにちは、作家の八重野統摩と言います。ゲームが好きです。
先日、新刊刊行を祝した打ち上げにて、担当編集のAさんとゲームの話題で盛り上がっていたところ「ゲーム好きを自称しているのに『WHITE ALBUM2』をやっていないのは、人生を損しています」と真っ直ぐな目で言われてしまいました。
確かにあの日あの時のAさんの眼差しは、大手出版社の編集長さんのものではなく、自分の好きなゲームを熱心に布教するただのオタクゲーマーのものでした。
私もオタク、もとい、ゲーマーだからわかります。ゲーマーがあの目でゲームを薦めてくる作品は、高確率で本当に良いものだと。
そうして始めた『WHITE ALBUM2』ですが、これが案の定、冗談抜きで大変に面白かったので、この感情を自分なりの言葉にしておかないと、という気持ちになりました。じゃないと三ヶ月後には忘れちゃうんですよね。
別にどこかから原稿料をもらっているわけでも、収益を目的としているわけでもないので推敲も足りない乱文ではありますが、どこかの誰かに少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
作品紹介&ネタバレなしレビュー
さて、この『WHITE ALBUM2』(以下、WA2)のあらすじは極めて単純明快で、あえてサッと説明するとすれば、
北原春希、冬馬かずさ、小木曽雪菜の三人による三角関係を、複数年分にわたってお届けする
地獄の青春群像劇。
と、なります。要は三角関係ものです。それ以外の要素は一切なし。ファンタジーもミステリもSFもありません。
ただひたすら《三角関係》という一品だけで客と勝負する、頑固親父が経営するラーメン屋みたいな硬派なノベルゲーム、それが『WA2』です。
ダブルヒロインその1 小木曽雪菜
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主人公とは違うクラスの女の子。
素直。明るい。優しい。なのでとてもかわいい。
ダブルヒロインその2 冬馬かずさ
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主人公の隣りの席でむすっとしている女の子。
素直じゃない。明るくはない、優しくもない。だけどとてもかわいい。
そうですね。二人ともとてもかわいいですね。
そしてプレイヤーは、主人公の北原春希くんと同じ目線に立ち、この二人のうちのどちらか一人だけを最終的に選ぶことになります。
このゲーム、言ってしまえば本当にただそれだけのゲームなんですが、その片方だけを選ぶというのが、まあ辛い! 本当にとても辛い。たぶんこのゲームを未プレイの方の想像の3倍くらい辛いです。
わざわざ言うまでもないことなのですが、片方を選べば、当然ながらもう片方はとんでもないくらいに傷つきます。
しかも重要なポイントとして、かずさと雪菜はお互いに憎しみあっているわけでは全くありません。
むしろ互いに尊敬し合う、無二の親友と呼んで差し支えない間柄なので、自分が選ばれてもなかなか素直に喜べなかったり、春希くんが別の相手を選ぶことを表面的には促したりもします。
しかし当然、そんなやり取りがあるたびに、二人のヒロインの心はどんどん傷だらけになります。わりと自業自得とはいえ春希くんの心もボロボロになり、全員分の苦しみを見させられる我々プレイヤーの心もなかなかにズタズタになります。
途中で思わず「なんで金を払って、少なくない時間を割いて、こんな辛い気持ちにならなければいけないんだろう?」となるほどですが、フィクションを通じてこれほど辛い気持ちになれるというのは、それだけでなかなか貴重なことではないでしょうか。
こんなふうに書いてしまうと「マゾ向けの恋愛ゲームなの?」などと思われかねませんが、決してそんなことはなくて、三角関係を軸にした人間ドラマの描写はそれこそ見事の一言です。
私はシナリオライターではないので完全な同業者ではありませんが、それでも同じ物書きとして「よく三角関係という要素ひとつでここまでの量を、これほどの質で書けるなあ!」とシナリオライターの丸戸史明さんに感服してしまいました。
恋愛に何らかのトラウマがある方や、メンタルが弱っている方にはさすがにお薦めできませんが、その二つに当てはまらず「とにかく良作のノベルゲーをやりたいんだ!」という方には全力でお薦めできる、『WHITE ALBUM2』とはそんな作品です。
色々と種類がありますが、とりあえずこの『WHITE ALBUM2 EXTENDED EDITION』を購入すれば大丈夫です。私も、既に一人の友人に薦めました。
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おかげで、深夜2時に実況のLINEが容赦なく飛んできます。楽しんでもらえているようで何よりです。既読無視しました。
このレビューで多少なりとも興味を持たれた方がもしもいらっしゃいましたら、是非『WHITE ALBUM2』をプレイしてみてください。
そして、以下からはネタバレありのレビュー……というより、個人的なプレイ後の感想です。文章のテンションもだいぶ違います。
未プレイの人は決してお読みにならず、どうぞまずは『WHITE ALBUM2』をお買い求めいただき、存分に辛い気持ちを味わってから、またこの先をお読みいただければ幸いです。
ネタバレありレビュー・個人的感想
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八重野統摩じゃない、八重野冬馬でいい。
などと、意味わからんことを思わず口走ってしまうくらい、最初から最後まで冬馬かずさ派でしたね、私は!
私は本名が彼女と同じく「統摩(トウマ)」ということもあり、自分と同じ響きの名前を持つヒロインを好きになれるか始めのうちはちょっと――いやだいぶ心配だったのですが、そんなものはまあ杞憂でした。
もう、完全に骨抜きでした。婿入りして冬馬統摩というひどい語呂の名前になっても最悪許せると思いました。かずさがピアノを弾いて、僕は小説を書いて、そうやってウィーンで仲良く暮らしたらいいじゃんって本気で思いました。
それくらい彼女に入れ込みすぎていたせいで、かずさルートを最初にクリアしたあと、三日くらい雪菜ルートをやりませんでした、というか、できませんでした。
わりと本気で「私のWA2はここで終わりなのでは?」と思ってました。
結局、私には雪菜ルートは辛すぎて、途中でかずさルートを見直して心を休めないと最後まで見届けられませんでしたからね。
いやほんと、かずさの笑顔を守るために何度世界線を飛び越えたかわかりません。その影で雪菜を同じ数だけ号泣させましたが、しょうがない。しょうがなかったんだよ、雪菜。だって、かずさには俺(≠春希)しかいなかったんだよ。
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勿論、雪菜もかわいかったですよ!たまになんか怖かったけど心優しい良い子でした。
でも個人的にはかずさが口にしている「あたしが先だった」に一票ということで、これ以上は雪菜については何も語りませんし、語れません。何故なら私は雪菜の手を取らなかった人間なので。
ただ、正直これほどまでにかずさ一択になってしまったのは、ある意味でプレイミスのような気もしました。
そもそもこの『WA2』というゲームは、かずさと雪菜の二人と平等に愛してこそ最大限楽しめるゲームだったとは思うのです。
私はどうしても最初から最後までかずさ一択だったので、良くも悪くもプレイヤーとしての迷いみたいなものはちっともありませんでした。
第二章を支えたサブヒロイン達も全員魅力的で可愛かったです。千晶ルートなんて特によかったですね。ただ、それでもメインの二人とは勝負にもならなかった! それくらいかずさと雪菜のツートップは素晴らしかった。
そもそも第二章は、かずさがほぼ出てこなかったこともあり、私は重度のかずさロスでえらいことになっていました。
他の女性と関係を持ちながらも、心はずっとかずさにばかり向いていたので、ある意味その時が一番春希くんとシンクロできていた気もします。
結局クリアに70〜80時間くらいかかりましたが、本当に『WHITE ALBUM2』はプレイしてよかったです。強くお薦めしてくださったAさんには改めて感謝の言葉を伝えたいです。ありがとうございました。
というわけでかずさルートに入って以降、わざわざ居間のテレビとPCを繋げてかずさにうつつを抜かし続けていた私を、それでも生暖かい目で見守ってくれていた現実世界の恋人と、今後も仲良くしたいと思いました。