見出し画像

突然ショートショート「川の上の決戦」

 大きな川の上で、水上バス社長の岡松と乗組員の内田が決闘に臨んでいた。
 
 戦いは、川の上に留められた船の上で行われることとなった。
 内田が望んだのは、岡松の娘との婚約だった。

 冗談半分で臨んだ合コンの場にいた女に一目惚れした。それがたまたま、岡松の娘だったのだ。
 誰でも良いわけがない。他の女とは違う。彼女とはまさに「運命の赤い糸」で結ばれた関係にあるのだ。

 一方、岡松も自らの大切な娘を、おいそれと誰かの元にやるわけにはいかない。
 婚約の自由とはいえ、育ての親としての譲れない意地がある。

 互いに行われていた交渉も決裂し、決闘で決着をつけることとなったのだ。

 岡松の持つ釣り船の上、狭いフィールド。落ちればそこは冷たい川の中。ゴムボートが待っているとはいえ、婚約の話は無かったこととなる。

 岡松の家から持ち出された竹刀を手に、私服姿の2人は最後の確認をとる。
「いいんだな、君」
「ええ。覚悟は決めています」
「では…ウォォォォォォ!」

 岡松は全力を振り絞って内田に斬りかかる。
 波で船が揺れて足場が悪い中、内田はそれを上手に避ける。

「ふっ…やるな、君」
「いえ、社長の腕には及びません」

 川にかかる橋からは、社員たちが2人の戦いを見守っていた。

 戦いは激しくなり、とうとう雨が降りだしてしまった。
 川の流れが激しくなり、色々なものが流れてくるようになった。

 そんな中、河川モニタリングキューブを用いて、川に流れる物を塞き止めるというアイデアが出た。
 本来はそんな用途に使えるはずのものではないのはわかっていた。
 水上バスの安全航行のために会社で開発した、川の状況を監視する立方体。

 これを複数繋げて、さらに網を垂らして、流れるものをブロックする。
 「そんなことできるもんか」という声も多く出たが、それを上回ったのは「やってみなければわからない」の声だった。
 社員の一人が急いでキューブと網を調達しに事務所へ戻ろうとする中、船上でも動きがあった。

「これで…終わりです!」
 内田の一撃が岡松に命中した。
「ぐっ…………あっ……!」
 岡松は後ろへよろめき、冷たい川の上に身を落とした。
 急いでゴムボートに乗った社員が救いに向かう。

 内田は勝ち誇った表情をしていた。
「私の負けだよ。内田くん、娘をよろしく」
「…はい!!」

 雨の中、橋で見守っていた社員も拍手を送る。
 こうして、内田と岡松の娘は共に新たな人生を歩みだすこととなった。

(完)(980文字)


この内容は全てフィクションであり、現実世界の各種動向とは一切関係がありません。


マガジン



いいなと思ったら応援しよう!